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勝手に呼んでおいてチェンジとか。
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周囲がぐるぐる回っている。
まるで、洗濯機の中に放り込まれたような酷いめまいだ。
多分私は倒れているんだろうけれど、めまいが酷くて、天地の区別がつかない。
薄暗い感じは同じだけれど、さっきまでいたトイレではない、と漠然とわかる。
周囲のざわつき、たき火のような煙の匂い。
どこなんだろう、とかそんなことより、気持ち悪さが勝ってそれどころじゃなかった。
◇
「おい、なんだこいつは!」
すぐそばで誰かが怒鳴っている。
広いホールのような場所なのか、男の声が反響した。
「これが番様だと!?男だろう!見ろ、この髪を!」
うう、気持ち悪い。
めまいのせいで吐き気が強まる。
「もう一回やり直せないのか?だって男だぞ?間違えたということだろう?」
周りのザワザワする声に比べて、男の話す声はよく通り、耳に入ってきた。
「今ならまだやり直しきくんじゃないか?ムリ?一応確認を?俺がか?お前たちは・・・まだ結界に入って来れないのか?・・はぁ、難儀だな」
吐き気と戦う私のそばで、さっきから偉そうにがなりたてているこの男は何なんだ。
(うるさっ・・それに多分だけどさっきから私のこと、男の人と間違えてるよね?)
吐き気とイライラを募らせる私に、とうとう男が話しかけてきた。
「おい、そこのお前!聞いてるのか!いつまで這いつくばっているつもりだ!」
頭のすぐ上の方から声がする。
ちょっとだけめまいはよくなり、視界が開けてきた。
私はうつ伏せに伏せっていたらしい。
目の前には靴。
金の刺繍がされた黒いブーツだった。
このブーツの主が、今話しかけてきてる男だろう。
「お前、名前は何と言う・・おい、いつまで寝てるつもりだ。不敬だぞ!」
すぐ真上から降ってくる声。
私に向かって言っているに違いない。
気持ち悪いのに勘弁して欲しい。
「すみません、吐きそうで・・」
必死の思いで、そう弁明する私の声を相手は聞き取れなかったようだ。
「なんだ?聞こえんぞ!表を上げろ!ほら!」と手を引いて私を起こした。
思いの外、力強く、グイッと持ち上げられ、立たせられる。
「お前、名前は何と・・ん?なんだ、その顔・・お前、女か?」
頭ひとつ分ほど高いその男を見上げる。
肩より少し長い黒髪を上の方だけ括ったその男は、白装束のような格好をしていた。
鼻筋の通った、整った顔立ちなのに、その口元は不満げに歪められている。
凛々しいながらも目尻が少し垂れていて、目元はなんとなく佑太に似て見えた。
男は眉を顰めて「顔が白すぎるな」と怪訝そうにした後、「で、結局お前は」と言いかけた。
彼は最後まで言い切れなかった。
なぜなら吐き気の限界を迎えた私が、男の胸元へ、マーライオンよろしく勢いよく戻したからだ。
「ギャァアアアア!」
男の絶叫が響き渡った。
まるで、洗濯機の中に放り込まれたような酷いめまいだ。
多分私は倒れているんだろうけれど、めまいが酷くて、天地の区別がつかない。
薄暗い感じは同じだけれど、さっきまでいたトイレではない、と漠然とわかる。
周囲のざわつき、たき火のような煙の匂い。
どこなんだろう、とかそんなことより、気持ち悪さが勝ってそれどころじゃなかった。
◇
「おい、なんだこいつは!」
すぐそばで誰かが怒鳴っている。
広いホールのような場所なのか、男の声が反響した。
「これが番様だと!?男だろう!見ろ、この髪を!」
うう、気持ち悪い。
めまいのせいで吐き気が強まる。
「もう一回やり直せないのか?だって男だぞ?間違えたということだろう?」
周りのザワザワする声に比べて、男の話す声はよく通り、耳に入ってきた。
「今ならまだやり直しきくんじゃないか?ムリ?一応確認を?俺がか?お前たちは・・・まだ結界に入って来れないのか?・・はぁ、難儀だな」
吐き気と戦う私のそばで、さっきから偉そうにがなりたてているこの男は何なんだ。
(うるさっ・・それに多分だけどさっきから私のこと、男の人と間違えてるよね?)
吐き気とイライラを募らせる私に、とうとう男が話しかけてきた。
「おい、そこのお前!聞いてるのか!いつまで這いつくばっているつもりだ!」
頭のすぐ上の方から声がする。
ちょっとだけめまいはよくなり、視界が開けてきた。
私はうつ伏せに伏せっていたらしい。
目の前には靴。
金の刺繍がされた黒いブーツだった。
このブーツの主が、今話しかけてきてる男だろう。
「お前、名前は何と言う・・おい、いつまで寝てるつもりだ。不敬だぞ!」
すぐ真上から降ってくる声。
私に向かって言っているに違いない。
気持ち悪いのに勘弁して欲しい。
「すみません、吐きそうで・・」
必死の思いで、そう弁明する私の声を相手は聞き取れなかったようだ。
「なんだ?聞こえんぞ!表を上げろ!ほら!」と手を引いて私を起こした。
思いの外、力強く、グイッと持ち上げられ、立たせられる。
「お前、名前は何と・・ん?なんだ、その顔・・お前、女か?」
頭ひとつ分ほど高いその男を見上げる。
肩より少し長い黒髪を上の方だけ括ったその男は、白装束のような格好をしていた。
鼻筋の通った、整った顔立ちなのに、その口元は不満げに歪められている。
凛々しいながらも目尻が少し垂れていて、目元はなんとなく佑太に似て見えた。
男は眉を顰めて「顔が白すぎるな」と怪訝そうにした後、「で、結局お前は」と言いかけた。
彼は最後まで言い切れなかった。
なぜなら吐き気の限界を迎えた私が、男の胸元へ、マーライオンよろしく勢いよく戻したからだ。
「ギャァアアアア!」
男の絶叫が響き渡った。
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