"番様"認定された私の複雑な宮ライフについて。

airria

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失恋と始まり

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その日は最悪だった。

佑太から別れを切り出されたのである。

しかも、付き合って4年の記念日に。

別れる理由を問い詰めたら、佑太はあっさりと白状した。

『お前が傷つくと思って言いたくなかったんだけど…実はさ、同じ部署の後輩のマミちゃんに告白されたんだ。お前のことは大事だけど、もう恋愛っていう感じじゃなくて・・情っていうか。悩んだけど、やっぱり自分の気持ちに嘘はつけない。悪いけど、別れてくれ』






その後のことはよく覚えていない。

気づいたら家の近くにあるバーでグラスを握りしめていた。

見下ろした目線の先で、モスコミュールの泡が静かに漂っている。

バーになんて普段は来ない。

それも1人でなんて初めてだ。

(あぁ・・・・帰りたくないなぁ・・)

頭の中で何度も呟いた言葉がまた浮かぶ。

実家暮らしの彼は合鍵を使って、私の家に来てはくつろいでいた。

帰ったら家の明かりが付いていて、彼が「おかえり」と出迎えてくれて・・そんな光景を思い出して、じんわりと視界が滲む。

このままアパートに帰ったら、本当に、ひとりぼっちになったんだと痛感してしまいそうで。

涙を誤魔化すように、グラスを煽った。

佑太と、いつか結婚するんだと思っていた。

家族と折り合いが悪く疎遠な私にとって、佑太は唯一の家族のようだった。

実直で、責任感の強い佑太だから、二股をかけることもせずに、ちゃんと私と別れてから、後輩からの告白に応えるという筋を通したかったんだろう。

再び、じわっと視界がにじむ。

「帰ろ・・」






お会計を済ませて、帰る前にトイレに寄った。

用を済ませて出る前に、姿見に映る、草臥れた顔の自分と目が合った。

マスカラがにじんで薄く隈みたいになっていて、ひどい顔だ。

こないだ切ったばかりの、ショートヘアの髪だけが、きれいに整っていた。

せめて、帰る前にこの隈だけは消さないと。

姿見に近づいて、下瞼を指で拭う。

隈が少しマシになったかと思ったその瞬間、鏡が水面のように揺れた。

「・・え?」

一歩飛び退って、姿見を見る。

その時にはもう揺れはなく、私は目を瞬いた。

目を凝らしても、鏡面に異常はない。

なんの変哲もない姿見だ。

(ただの鏡・・そりゃそう、だよね?)

頭ではそう思うのに、さっき見た光景が忘れられなくて、目をギュッと瞑ってみた。

(見間違い、きっとそう)

目を開けてから、怖いもの見たさで恐る恐る近づいて、もう一度、隅から隅まで鏡を見た。

沈黙を貫く鏡に、ようやく息をつく。

最後に間抜けな自分の顔と目を合わせて、へにゃっと笑った。

「はは…飲みすぎたかな」

やっぱり、気のせいだ。

そうして、ドアに向かおうと、鏡に背を背けた瞬間。

鏡からニュッと突き出てきた手に体を掴まれ、叫ぶ間もなく鏡の中に引きずり込まれた。




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