死んだ土を最強の畑に変える「土壌神の恵み」〜元農家、異世界の食糧難を救い、やがて伝説の開拓領主になる〜

黒崎隼人

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番外編「もふもふと畑と休日と」

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 ヴェルディア連邦が誕生してから、1年。

 国は、驚くほどの速さで、安定と繁栄の道を歩んでいた。

 アロンが最高農業顧問として立案した食料政策は、見事に機能し、連邦のどこを探しても、飢えている者は一人もいなくなった。

 もはや、アロンの名を知らない者はいなかったが、彼自身は、相変わらず、首都の喧騒を離れ、始まりの地であるカペル村の畑にいることが多かった。

 今日は、久しぶりの、完全な休日。

 アロンは、お気に入りの丘の上で、大きな布を広げ、ピクニックの準備をしていた。

「アロン、まだー?」

 丘の下から、二人の少女の声が聞こえる。

 一人は、太陽のように明るい、幼馴染のセナ。

 もう一人は、月のように儚げな美しさを持つ、元姫君のセレスだ。

 すっかり健康を取り戻したセレスは、今ではすっかりアウトドア派になり、よくこうしてアロンたちと村で過ごすようになっていた。二人は、いつの間にか、姉妹のように仲良くなっていた。

「今、準備できたぞー!」

 アロンが声を張り上げると、二人は楽しそうに笑いながら、丘を駆け上がってきた。

 彼女たちの後を、ぽてぽてと、白い毛玉のような生き物が、十数匹ついてくる。

「も、モフールたち! 待って、そんなに急いだら転ぶわ!」

 セレスが、慌てて振り返る。

 モフール。

 それは、アロンが、羊とアンゴラウサギ(のような生き物)を掛け合わせて生み出した、ヴェルディア連邦の新しい家畜だ。

 その名の通り、全身が、信じられないほど、もふもふの毛で覆われている。

 性格は温厚で人懐っこく、その愛くるしい姿は、今や連邦のアイドル的存在となっていた。

「もう、この子たち、アロンのことが大好きなんですもの」

 セナが、モフールの一匹を抱き上げると、そのもふもふの毛に、うっとりと顔をうずめた。

「ああ、癒される……。この毛で編んだセーター、王都じゃ金貨100枚でも買えないって、バルトさんが言ってたわよ」

「はは、まあ、俺にとっては、ただの可愛い食いしん坊だけどな」

 アロンが笑いながらバスケットを開けると、モフールたちが、一斉にくんくんと鼻を鳴らして集まってくる。

「はいはい、お前たちの分は、こっちな」

 アロンは、モフール用に用意した、栄養満点の牧草クッキーをばら撒いた。

 モフールたちが、夢中でそれに食いついている間に、人間たちのランチタイムの始まりだ。

 バスケットの中には、アロンお手製の、豪華なピクニックランチがぎっしりと詰まっていた。

 採れたて野菜をたっぷり挟んだサンドイッチ。

 揚げたてのフライドチキン。

 色とりどりの野菜スティックと、特製のディップソース。

 そして、デザートには、イチゴ(これもアロンが品種改良した)をふんだんに使ったタルト。

「わあ……! おいしそう!」

 セレスが、目をきらきらと輝かせる。

「アロンの作るサンドイッチ、世界で一番美味しいわ!」

「チキンは、私が一番乗りなんだから!」

 セナは、早速、一番大きなフライドチキンにかぶりついている。

 三人は、他愛もない話をしながら、笑い、食べた。

 国の未来とか、政治とか、そんな難しい話は、今日だけは忘れる。

 食事が一段落すると、セナは、草の上に大の字になって寝転がった。

「ああ、お腹いっぱい。幸せ……」

 セレスは、そばに寄ってきたモフールを優しく撫でながら、アロンに尋ねた。

「アロンは、これから、この国をどうしていきたいの?」

「んー、そうだなあ」

 アロンは、空に浮かぶ雲を眺めながら、答えた。

「もっと、美味いもの、作りたいな」

「え?」

「米、とかさ。パンもいいけど、やっぱり日本人としては、炊き立ての白米が食いたい。それに合う、醤油とか、味噌とかも作りたい。あと、海が近い領地では、魚介類の養殖も本格化させたいし、南の暖かい土地では、バナナとか、マンゴーとか、そういう果物も育ててみたい」

 次から次へと、溢れ出す、食に関する夢。

 それは、国の指導者としての野望ではなく、一人の農家、一人の料理人としての、純粋な探求心だった。

 その、あまりに個人的で、壮大な夢に、セナとセレスは、顔を見合わせて、くすくすと笑った。

「もう、アロンは、本当に、食べることと作ることしか頭にないのね」

「でも、それが、アロンですものね」

 二人の優しい眼差しに、アロンは、少し照れくさそうに笑った。

 穏やかな風が、丘を吹き抜けていく。

 草の匂いと、太陽の光。

 可愛い動物たちと、大切な友人たちとの、美味しい食事。

 これ以上の幸せが、どこにあるだろう。

『ああ、神様。もし、俺をこの世界に転生させたのが、あなたなら』

 アロンは、心の中で、そっと感謝した。

『……最高の職場を、ありがとうございます』

 もふもふの毛玉と、二人の少女の笑い声に包まれた、平和な休日は、ゆっくりと、優しく、過ぎていった。
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