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第08話「ヒロインとの和解、連帯の絆」
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外交交渉は依然として難航を極め、王宮内での貴族派の私に対する圧力は日増しに強まっていた。
デイトン侯爵を中心とする彼らは、私が交渉を故意に停滞させていると吹聴し、私を反逆者に仕立て上げようと、着々と準備を進めているようだった。
私の心には、疲労感が募り始めていたが、レオンの存在が、常に私を支え続けてくれた。
ある日の午後、レヴィアンス王国との会談が一時中断となり、私は自室で休息を取っていた。その時、控えめなノックの音がした。
ドアを開けると、そこに立っていたのはリアナ・フレイ嬢だった。彼女の顔には、憔悴した様子が浮かんでおり、その瞳は不安と迷いに満ちていた。
「エルザ様……お話したいことがございます」
彼女の声は震えており、まるで今にも泣き出しそうなほどだった。私はレオンに目配せし、彼が静かに部屋の隅に控えたのを確認すると、リアナ嬢を招き入れた。
リアナ嬢は私の向かいの椅子に座り、おずおずと口を開いた。
「あの、その……舞踏会でのこと、本当に申し訳ありませんでした」
彼女の言葉は、突然だった。私はその真意を測りかね、静かに彼女を見つめる。
「私は、ただ、エルザ様が誤解されているのだと、純粋にそう思って、ルキウス殿下にお話ししたのです。ですが、それが、かえってエルザ様を追い詰める形になってしまって……」
リアナ嬢の瞳からは、大粒の涙が溢れ出した。
「エルザ様は、悪役なんかじゃありません。本当は、優しい方なのに。私が、何も知らずに、あなたを傷つけてしまった」
彼女は涙ながらに、心からの謝罪の言葉を紡いだ。その言葉には、一切の偽りが感じられなかった。
王都での私は、リアナ嬢を『煌めきの恋物語』の「ヒロイン」として見ていた。私を断罪し、ルキウス殿下と結ばれるべき存在として。
しかし、今、私の目の前にいるのは、ゲームのシナリオから外れ、自らの過ちに苦悩する、一人の女性だった。
「わたくしは、あなたを恨んでおりませんわ、リアナ嬢」
私がそう言うと、リアナ嬢は驚いたように顔を上げた。
「私を断罪したのは、ルキウス殿下と、その背後で糸を引いていた貴族派です。そして、何よりも、私自身が『悪役令嬢』を演じることを選んだのですから」
私の言葉に、リアナ嬢はさらに涙を流した。しかし、それは悲しみではなく、安堵の涙のように見えた。
「でも、私が……」
「わたくしたちは皆、見えない糸に操られていたようなものです。殿下も、貴族たちも、そしてあなたも。その呪縛から、自らの意志で解き放たれる時が来たのです」
私はそう言って、優しくリアナ嬢の手に触れた。私の指先から伝わる温かさに、リアナ嬢ははっとしたように私を見つめ返した。
私たちの間には、もはや敵意はなかった。同じ運命の歯車に狂わされ、それぞれの苦悩を経験した者としての、奇妙な連帯感が芽生えていた。
「私に、何かできることはありませんか? エルザ様を、助けたい」
リアナ嬢の言葉は、純粋な心からのものだった。私は、彼女の真っ直ぐな瞳を見て、ある決意を固めた。貴族派の陰謀を打ち砕くためには、彼女の存在が必要だと。
「ええ、ありますわ、リアナ嬢。貴族派の陰謀を暴くために、あなたの力をお借りしたいのです」
私はリアナ嬢に、貴族派が外交交渉を失敗させ、私を反逆者に仕立て上げようとしている計画の概略を説明した。
リアナ嬢は、その話を聞いて、怒りに顔を震わせた。
「まさか、デイトン侯爵が……! 私を利用して、そんな恐ろしいことを企んでいたなんて」
彼女は、自分を新たな王太子妃にしようとする貴族派の思惑に、完全に気づいていなかったのだ。
「ですが、どうすれば……」
リアナ嬢は不安そうに私を見た。
「あなたは、殿下に直接お話しください。貴族派の思惑、そして、エルザ・ヴァイスが悪役などではないことを」
リアナ嬢は、私の言葉に深くうなずいた。彼女の瞳には、以前のような迷いや不安ではなく、強い決意の光が宿っていた。
リアナ嬢が部屋を出た後、レオンが私の隣に静かに歩み寄ってきた。
「リアナ嬢は、とても純粋な方なのですね。エルザ様のことを、心から信じています」
私はレオンの言葉に、静かに微笑んだ。
「ええ。彼女は、きっと私の味方になってくれるでしょう。この世界の登場人物たちが、自分の意思で未来を選び始める。それが、私にとって何よりの喜びなのですわ」
王都の空は、夕焼けに染まり始めていた。しかし、その光は、もはや私を脅かす影ではなかった。
むしろ、私と、そしてリアナ嬢が、共に未来へと歩み始めるための、希望の光のように見えた。
貴族派の陰謀が頂点に達しようとしている今、私たちはそれぞれの場所で、真実を明らかにするために動き出す。王都での苦しい日々の中、レオンの揺るぎない信頼と、リアナ嬢との間に芽生えた連帯感が、私に確かな力を与えていた。
デイトン侯爵を中心とする彼らは、私が交渉を故意に停滞させていると吹聴し、私を反逆者に仕立て上げようと、着々と準備を進めているようだった。
私の心には、疲労感が募り始めていたが、レオンの存在が、常に私を支え続けてくれた。
ある日の午後、レヴィアンス王国との会談が一時中断となり、私は自室で休息を取っていた。その時、控えめなノックの音がした。
ドアを開けると、そこに立っていたのはリアナ・フレイ嬢だった。彼女の顔には、憔悴した様子が浮かんでおり、その瞳は不安と迷いに満ちていた。
「エルザ様……お話したいことがございます」
彼女の声は震えており、まるで今にも泣き出しそうなほどだった。私はレオンに目配せし、彼が静かに部屋の隅に控えたのを確認すると、リアナ嬢を招き入れた。
リアナ嬢は私の向かいの椅子に座り、おずおずと口を開いた。
「あの、その……舞踏会でのこと、本当に申し訳ありませんでした」
彼女の言葉は、突然だった。私はその真意を測りかね、静かに彼女を見つめる。
「私は、ただ、エルザ様が誤解されているのだと、純粋にそう思って、ルキウス殿下にお話ししたのです。ですが、それが、かえってエルザ様を追い詰める形になってしまって……」
リアナ嬢の瞳からは、大粒の涙が溢れ出した。
「エルザ様は、悪役なんかじゃありません。本当は、優しい方なのに。私が、何も知らずに、あなたを傷つけてしまった」
彼女は涙ながらに、心からの謝罪の言葉を紡いだ。その言葉には、一切の偽りが感じられなかった。
王都での私は、リアナ嬢を『煌めきの恋物語』の「ヒロイン」として見ていた。私を断罪し、ルキウス殿下と結ばれるべき存在として。
しかし、今、私の目の前にいるのは、ゲームのシナリオから外れ、自らの過ちに苦悩する、一人の女性だった。
「わたくしは、あなたを恨んでおりませんわ、リアナ嬢」
私がそう言うと、リアナ嬢は驚いたように顔を上げた。
「私を断罪したのは、ルキウス殿下と、その背後で糸を引いていた貴族派です。そして、何よりも、私自身が『悪役令嬢』を演じることを選んだのですから」
私の言葉に、リアナ嬢はさらに涙を流した。しかし、それは悲しみではなく、安堵の涙のように見えた。
「でも、私が……」
「わたくしたちは皆、見えない糸に操られていたようなものです。殿下も、貴族たちも、そしてあなたも。その呪縛から、自らの意志で解き放たれる時が来たのです」
私はそう言って、優しくリアナ嬢の手に触れた。私の指先から伝わる温かさに、リアナ嬢ははっとしたように私を見つめ返した。
私たちの間には、もはや敵意はなかった。同じ運命の歯車に狂わされ、それぞれの苦悩を経験した者としての、奇妙な連帯感が芽生えていた。
「私に、何かできることはありませんか? エルザ様を、助けたい」
リアナ嬢の言葉は、純粋な心からのものだった。私は、彼女の真っ直ぐな瞳を見て、ある決意を固めた。貴族派の陰謀を打ち砕くためには、彼女の存在が必要だと。
「ええ、ありますわ、リアナ嬢。貴族派の陰謀を暴くために、あなたの力をお借りしたいのです」
私はリアナ嬢に、貴族派が外交交渉を失敗させ、私を反逆者に仕立て上げようとしている計画の概略を説明した。
リアナ嬢は、その話を聞いて、怒りに顔を震わせた。
「まさか、デイトン侯爵が……! 私を利用して、そんな恐ろしいことを企んでいたなんて」
彼女は、自分を新たな王太子妃にしようとする貴族派の思惑に、完全に気づいていなかったのだ。
「ですが、どうすれば……」
リアナ嬢は不安そうに私を見た。
「あなたは、殿下に直接お話しください。貴族派の思惑、そして、エルザ・ヴァイスが悪役などではないことを」
リアナ嬢は、私の言葉に深くうなずいた。彼女の瞳には、以前のような迷いや不安ではなく、強い決意の光が宿っていた。
リアナ嬢が部屋を出た後、レオンが私の隣に静かに歩み寄ってきた。
「リアナ嬢は、とても純粋な方なのですね。エルザ様のことを、心から信じています」
私はレオンの言葉に、静かに微笑んだ。
「ええ。彼女は、きっと私の味方になってくれるでしょう。この世界の登場人物たちが、自分の意思で未来を選び始める。それが、私にとって何よりの喜びなのですわ」
王都の空は、夕焼けに染まり始めていた。しかし、その光は、もはや私を脅かす影ではなかった。
むしろ、私と、そしてリアナ嬢が、共に未来へと歩み始めるための、希望の光のように見えた。
貴族派の陰謀が頂点に達しようとしている今、私たちはそれぞれの場所で、真実を明らかにするために動き出す。王都での苦しい日々の中、レオンの揺るぎない信頼と、リアナ嬢との間に芽生えた連帯感が、私に確かな力を与えていた。
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