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第2話「冷たい出迎えと狼の領主」
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銀髪の領主――カイル・ファングクラウは、私を値踏みするように一瞥しただけで、すぐに興味を失ったかのように踵を返した。
「ついてこい」
その背中を、私は黙って追う。
集落の獣人たちの視線は、好奇心よりも敵意や警戒の色が濃い。
王都から送られてきた「厄介者」。
それが、ここにいる全員の私に対する認識なのだろう。
案内されたのは、集落の一番外れにある、今にも崩れそうな小さな小屋だった。
「ここがお前の住処だ。食料はこれを。次は三日後だ」
カイルが顎で示した先には、黒パンが数個と、水差しが一つだけ無造作に置かれている。
最低限以下の支給。
まるで、早く朽ち果てろとでも言いたげな扱いだ。
彼はそれだけを告げると、もう私に用はないとばかりに立ち去ろうとした。+
「お待ちください、ファングクラウ様」
思わず呼び止めると、彼はわずかに足を止め、面倒そうにこちらを振り向く。
「……なんだ」
「お名前を、お伺いしてもよろしいでしょうか」
貴族としての礼儀が、つい口から出てしまった。
彼は一瞬きょとんとした後、鼻で笑う。
「カイルだ。だが、お前が俺の名を呼ぶ必要はない」
冷たい言葉を最後に、彼は今度こそ去って行った。
その大きな背中が見えなくなるまで見送ってから、私は改めて自分の新しい「家」に向き合った。
中は埃まみれで、床には穴が開き、壁の隙間からはひゅうひゅうと風が吹き込んでくる。
ベッドと呼べるものはなく、隅に藁が積まれているだけ。
普通の令嬢なら、泣き崩れていただろう。
けれど、不思議と涙は出なかった。
侯爵令嬢としての生活は、いつも息が詰まるようだったから。
それに比べれば、誰の目もないこの場所は、むしろ気が楽だ。
「まずは、お掃除からね」
私はドレスの裾をたくし上げると、早速行動を開始した。
近くの小川で布を濡らし、床を拭き、壁の埃を払う。
幸い、水は綺麗だった。
前世の知識では、綺麗な水がある場所は生活の基本だ。
小屋の周りを散策してみると、厳しい環境ながらも、健気に根を張る草花が目についた。
その中に、見覚えのあるハーブの姿を見つけて、心が躍る。
ふと、小屋のそばに小さな一輪の花が、力なくうなだれているのが目に入った。
ひどく乾燥していて、このままでは枯れてしまいそうだ。
「可哀想に……」
私は自然とそこに屈み込むと、そっとその花に触れた。
「大丈夫よ。元気になって」
まるで我が子をあやすように、優しく語りかける。
すると、奇妙なことが起きた。
私の指先から、淡い緑色の光が溢れ出し、花弁に吸い込まれていく。
そして、萎れていた花が、まるで朝の光を浴びたかのように、ゆっくりと顔を上げたのだ。
「え……?」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
疲れているのだろうか。
幻覚でも見たのかもしれない。
けれど、私の目の前で、さっきまで枯れかけていた花がしゃんと背筋を伸ばし、瑞々しい姿を取り戻しているのは紛れもない事実だった。
「私の、力……?」
転生してから、こんな力があるなんて知らなかった。
もしかしたら、この辺境の地に来たことで、何かが目覚めたのかもしれない。
これは、希望かもしれない。
この誰も見向きもしない最果ての地で、私だけが持つ、小さな秘密の力。
孤独と厳しさの中で始まった辺境生活。
でも、この小さな発見が、私の心に確かな光を灯してくれた。
冷たい領主様には放置されているけれど、まあいい。
私は私で、ここで楽しくやっていこう。
私は新しく元気になった花を見て、ふっと微笑んだ。
「ついてこい」
その背中を、私は黙って追う。
集落の獣人たちの視線は、好奇心よりも敵意や警戒の色が濃い。
王都から送られてきた「厄介者」。
それが、ここにいる全員の私に対する認識なのだろう。
案内されたのは、集落の一番外れにある、今にも崩れそうな小さな小屋だった。
「ここがお前の住処だ。食料はこれを。次は三日後だ」
カイルが顎で示した先には、黒パンが数個と、水差しが一つだけ無造作に置かれている。
最低限以下の支給。
まるで、早く朽ち果てろとでも言いたげな扱いだ。
彼はそれだけを告げると、もう私に用はないとばかりに立ち去ろうとした。+
「お待ちください、ファングクラウ様」
思わず呼び止めると、彼はわずかに足を止め、面倒そうにこちらを振り向く。
「……なんだ」
「お名前を、お伺いしてもよろしいでしょうか」
貴族としての礼儀が、つい口から出てしまった。
彼は一瞬きょとんとした後、鼻で笑う。
「カイルだ。だが、お前が俺の名を呼ぶ必要はない」
冷たい言葉を最後に、彼は今度こそ去って行った。
その大きな背中が見えなくなるまで見送ってから、私は改めて自分の新しい「家」に向き合った。
中は埃まみれで、床には穴が開き、壁の隙間からはひゅうひゅうと風が吹き込んでくる。
ベッドと呼べるものはなく、隅に藁が積まれているだけ。
普通の令嬢なら、泣き崩れていただろう。
けれど、不思議と涙は出なかった。
侯爵令嬢としての生活は、いつも息が詰まるようだったから。
それに比べれば、誰の目もないこの場所は、むしろ気が楽だ。
「まずは、お掃除からね」
私はドレスの裾をたくし上げると、早速行動を開始した。
近くの小川で布を濡らし、床を拭き、壁の埃を払う。
幸い、水は綺麗だった。
前世の知識では、綺麗な水がある場所は生活の基本だ。
小屋の周りを散策してみると、厳しい環境ながらも、健気に根を張る草花が目についた。
その中に、見覚えのあるハーブの姿を見つけて、心が躍る。
ふと、小屋のそばに小さな一輪の花が、力なくうなだれているのが目に入った。
ひどく乾燥していて、このままでは枯れてしまいそうだ。
「可哀想に……」
私は自然とそこに屈み込むと、そっとその花に触れた。
「大丈夫よ。元気になって」
まるで我が子をあやすように、優しく語りかける。
すると、奇妙なことが起きた。
私の指先から、淡い緑色の光が溢れ出し、花弁に吸い込まれていく。
そして、萎れていた花が、まるで朝の光を浴びたかのように、ゆっくりと顔を上げたのだ。
「え……?」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
疲れているのだろうか。
幻覚でも見たのかもしれない。
けれど、私の目の前で、さっきまで枯れかけていた花がしゃんと背筋を伸ばし、瑞々しい姿を取り戻しているのは紛れもない事実だった。
「私の、力……?」
転生してから、こんな力があるなんて知らなかった。
もしかしたら、この辺境の地に来たことで、何かが目覚めたのかもしれない。
これは、希望かもしれない。
この誰も見向きもしない最果ての地で、私だけが持つ、小さな秘密の力。
孤独と厳しさの中で始まった辺境生活。
でも、この小さな発見が、私の心に確かな光を灯してくれた。
冷たい領主様には放置されているけれど、まあいい。
私は私で、ここで楽しくやっていこう。
私は新しく元気になった花を見て、ふっと微笑んだ。
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