2 / 23
第1話「追放の令嬢、辺境へ」
しおりを挟む
「リリア・ヴァーミリオン! 貴様との婚約を、本日をもって破棄する!」
玉座の間を揺るがすような、かつての婚約者――ユリウス・レオンハート王子の声が響き渡る。
彼の隣には、か弱げに寄り添う聖女セレーネ・ホワイト。
その瞳の奥に、勝ち誇ったような光が宿っているのを、私は見逃さなかった。
「セレーネを虐げ、呪いをかけようとした悪女め! もはや貴様のような者は、王国の害悪でしかない! よって、貴様を王都から永久追放とする!」
ああ、やっぱりこうなったか。
周囲の貴族たちが向ける軽蔑と非難の視線を浴びながら、私は妙に冷静だった。
ここは、前世で私が夢中になった乙女ゲーム『王宮のラピスラズリ』の世界。
そして私は、ヒロインである聖女セレーネをいじめる、テンプレ通りの悪役令嬢リリア・ヴァーミリオン。
ゲームでは、このイベントの後、悪役令嬢は修道院に送られるはずだった。
けれど、現実のセレーネはゲームの彼女よりずっと巧妙で、陰湿だったらしい。
私の罪状は「聖女への加害未遂」から「王国への害悪」にまで格上げされ、行き先は修道院よりもっと過酷な場所に変更された。
護送用の、窓に鉄格子がはめられた馬車に揺られながら、私は兵士に告げられた行き先を反芻する。
「魔狼の森」
それは、王国の北東の果て、魔物が闊歩し、人間を寄せ付けないと言われる広大な森。
そこを根城にするのは、野蛮で好戦的と噂される獣人族。
そんな場所に、貴族の令嬢がたった一人で放り込まれる。
事実上の、死刑宣告だ。
絶望、すべきなのだろう。
けれど、馬車の揺れに合わせて私の頭に浮かんだのは、別の記憶だった。
(あれ? 魔狼の森って……)
それは、前世で乙女ゲームと並行して遊んでいた、もう一つのゲーム。『フロンティア・ガーデナー ~辺境開拓シミュレーション~』。
不毛の地を緑豊かな土地に変えていく、地味だけどやり込み要素の多いゲーム。
その初期マップの一つに、確か「魔狼の森」があったはずだ。
痩せた土地、少ない資源。
だけど、固有のハーブや薬草、特定の条件下でしか育たない希少な作物が手に入る、玄人好みのマップ。
『よし、ここからスローライフを始めよう!』
思わず口から飛び出した言葉に、向かいに座る護送の兵士が怪訝な顔を向けた。
私は慌てて口をつぐむ。
でも、心の中はもう決まっていた。
悪役令嬢リリアとしての人生は、今日で終わり。
これからは、ただのリリアとして、辺境の地で生きていく。
花を育て、ハーブを摘み、自給自足の穏やかな毎日を。
そう考えただけで、胸のつかえが少しだけ軽くなる気がした。
何日も揺られた馬車が、ついに止まった。
扉が開け放たれ、冷たく湿った空気が流れ込んでくる。
目の前に広がっていたのは、どこまでも続く深い森と、その入り口に粗末な柵で囲われただけの小さな集落。
ここが獣人族の村らしい。
馬車から降り立つと、見張りの兵士たちの冷たい視線だけでなく、集落のあちこちから突き刺さるような警戒の眼差しを感じた。
毛皮をまとった屈強な男たち。
その頭には、ピンと立った狼の耳が見える。
「王命により、罪人リリア・ヴァーミリオンの身柄を引き渡す」
護送兵の言葉に、集落の奥から一人の男がゆっくりと歩み出てきた。
月光を溶かしたような銀の髪。
鋭い金色の瞳。
そして、髪の間から覗く銀色の狼の耳。
他の者たちとは明らかに違う、圧倒的な存在感。
彼が、この地の領主なのだろう。
彼は私を一瞥すると、何の感情も浮かばない声で言った。
「……受け取った」
こうして、私の辺境での新しい生活は、絶望と希望がないまぜになったまま、静かに幕を開けたのだった。
玉座の間を揺るがすような、かつての婚約者――ユリウス・レオンハート王子の声が響き渡る。
彼の隣には、か弱げに寄り添う聖女セレーネ・ホワイト。
その瞳の奥に、勝ち誇ったような光が宿っているのを、私は見逃さなかった。
「セレーネを虐げ、呪いをかけようとした悪女め! もはや貴様のような者は、王国の害悪でしかない! よって、貴様を王都から永久追放とする!」
ああ、やっぱりこうなったか。
周囲の貴族たちが向ける軽蔑と非難の視線を浴びながら、私は妙に冷静だった。
ここは、前世で私が夢中になった乙女ゲーム『王宮のラピスラズリ』の世界。
そして私は、ヒロインである聖女セレーネをいじめる、テンプレ通りの悪役令嬢リリア・ヴァーミリオン。
ゲームでは、このイベントの後、悪役令嬢は修道院に送られるはずだった。
けれど、現実のセレーネはゲームの彼女よりずっと巧妙で、陰湿だったらしい。
私の罪状は「聖女への加害未遂」から「王国への害悪」にまで格上げされ、行き先は修道院よりもっと過酷な場所に変更された。
護送用の、窓に鉄格子がはめられた馬車に揺られながら、私は兵士に告げられた行き先を反芻する。
「魔狼の森」
それは、王国の北東の果て、魔物が闊歩し、人間を寄せ付けないと言われる広大な森。
そこを根城にするのは、野蛮で好戦的と噂される獣人族。
そんな場所に、貴族の令嬢がたった一人で放り込まれる。
事実上の、死刑宣告だ。
絶望、すべきなのだろう。
けれど、馬車の揺れに合わせて私の頭に浮かんだのは、別の記憶だった。
(あれ? 魔狼の森って……)
それは、前世で乙女ゲームと並行して遊んでいた、もう一つのゲーム。『フロンティア・ガーデナー ~辺境開拓シミュレーション~』。
不毛の地を緑豊かな土地に変えていく、地味だけどやり込み要素の多いゲーム。
その初期マップの一つに、確か「魔狼の森」があったはずだ。
痩せた土地、少ない資源。
だけど、固有のハーブや薬草、特定の条件下でしか育たない希少な作物が手に入る、玄人好みのマップ。
『よし、ここからスローライフを始めよう!』
思わず口から飛び出した言葉に、向かいに座る護送の兵士が怪訝な顔を向けた。
私は慌てて口をつぐむ。
でも、心の中はもう決まっていた。
悪役令嬢リリアとしての人生は、今日で終わり。
これからは、ただのリリアとして、辺境の地で生きていく。
花を育て、ハーブを摘み、自給自足の穏やかな毎日を。
そう考えただけで、胸のつかえが少しだけ軽くなる気がした。
何日も揺られた馬車が、ついに止まった。
扉が開け放たれ、冷たく湿った空気が流れ込んでくる。
目の前に広がっていたのは、どこまでも続く深い森と、その入り口に粗末な柵で囲われただけの小さな集落。
ここが獣人族の村らしい。
馬車から降り立つと、見張りの兵士たちの冷たい視線だけでなく、集落のあちこちから突き刺さるような警戒の眼差しを感じた。
毛皮をまとった屈強な男たち。
その頭には、ピンと立った狼の耳が見える。
「王命により、罪人リリア・ヴァーミリオンの身柄を引き渡す」
護送兵の言葉に、集落の奥から一人の男がゆっくりと歩み出てきた。
月光を溶かしたような銀の髪。
鋭い金色の瞳。
そして、髪の間から覗く銀色の狼の耳。
他の者たちとは明らかに違う、圧倒的な存在感。
彼が、この地の領主なのだろう。
彼は私を一瞥すると、何の感情も浮かばない声で言った。
「……受け取った」
こうして、私の辺境での新しい生活は、絶望と希望がないまぜになったまま、静かに幕を開けたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
病弱令嬢…?いいえ私は…
月樹《つき》
恋愛
アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。
(ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!)
謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。
このお話は他サイトにも投稿しております。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる