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第4話「領主の疑問と変わり始めた視線」
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リリアが辺境に来てから、半月ほどが経った。
最初は「どうせすぐに音を上げるだろう」と高を括っていた獣人族の住民たちは、奇妙な噂を耳にするようになる。
「おい、あの追放令嬢の小屋の周り、見たか?」
「ああ。ひどい荒れ地だったのに、今じゃ色とりどりの花が咲き乱れてる」
「育ててるハーブも、見たことないくらい生きがいい。いい香りが風に乗ってくるんだ」
その噂は、領主であるカイルの耳にも届いていた。
彼は王都からの通告――「聖女を害そうとした悪女」という言葉を、鵜呑みにはしていなかった。
だが、面倒ごとは確かだった。
だから、最低限のものを与え、放置することにした。
弱って助けを乞うてくれば、その時に考えればいい。
そう思っていた。
しかし、リリアは助けを乞うどころか、自力で生活を立て直し、あまつさえ荒れ地を花畑に変えつつあるという。
(一体、何者なんだ、あの女は)
カイルは訝しみ、自らの目で確かめるべく、リリアの小屋が見える森の陰から、彼女の様子を密かに観察し始めた。
彼の目に映ったのは、土にまみれながらも真剣な顔でハーブの世話をし、小さな光る何か――精霊と楽しそうに笑い合うリリアの姿だった。
とても、他人を呪うような悪女には見えない。
むしろ、その姿はひどく眩しく、カイルの心をざわつかせた。
ある日の午後、集落に小さな騒ぎが起きた。
「大変だ! うちの子が、毒草を食べて!」
若い母親の悲鳴が響き渡る。
集落の子供が、森で遊んでいる最中に、綺麗な赤い実をつけた毒草を誤って口にしてしまったらしい。
子供は高熱を出し、ひどく苦しんでいた。
集落の薬師も匙を投げるほどの強い毒。
誰もが青ざめる中、噂を聞きつけたリリアが息を切らして駆けつけた。
「私に見せてください!」
リリアは苦しむ子供の顔を覗き込むと、すぐに持参していた小さな布袋から、乾燥させたハーブを取り出した。
「これは……?」
「解毒作用のあるハーブです。私が育てました。これを煎じてのませれば、きっと……!」
彼女はテキパキとハーブを煎じると、それを子供の口にそっと含ませる。
さらに、彼女は子供の手を握り、何事かを静かに祈った。
その手から、ごく微かだが温かい光が放たれたのを、遠巻きに見ていたカイルだけが見逃さなかった。
すると、奇跡が起きた。
子供の荒い息が、少しずつ穏やかになっていく。
真っ赤だった顔から赤みが引き、苦痛に歪んでいた表情が和らいでいく。
やがて、すうすうと安らかな寝息を立て始めた。
「……助かった」
誰かがつぶやいた言葉に、集落の皆が安堵の息を漏らす。
母親はリリアの前に泣き崩れ、何度も感謝の言葉を口にした。
リリアは、ただ静かに微笑むだけだった。
その姿を、カイルは木陰からじっと見つめていた。
王都から来た「厄介者」。
その女が、自分たちの子供の命を救った。
彼女が育てたという、ありえないほど薬効の高いハーブと、あの不思議な力で。
カイルの冷たい金色の瞳が、初めて戸惑いの色を浮かべて、大きく揺らいだ。
リリア・ヴァーミリオンという存在が、彼の心の中で無視できない大きさになり始めた瞬間だった。
最初は「どうせすぐに音を上げるだろう」と高を括っていた獣人族の住民たちは、奇妙な噂を耳にするようになる。
「おい、あの追放令嬢の小屋の周り、見たか?」
「ああ。ひどい荒れ地だったのに、今じゃ色とりどりの花が咲き乱れてる」
「育ててるハーブも、見たことないくらい生きがいい。いい香りが風に乗ってくるんだ」
その噂は、領主であるカイルの耳にも届いていた。
彼は王都からの通告――「聖女を害そうとした悪女」という言葉を、鵜呑みにはしていなかった。
だが、面倒ごとは確かだった。
だから、最低限のものを与え、放置することにした。
弱って助けを乞うてくれば、その時に考えればいい。
そう思っていた。
しかし、リリアは助けを乞うどころか、自力で生活を立て直し、あまつさえ荒れ地を花畑に変えつつあるという。
(一体、何者なんだ、あの女は)
カイルは訝しみ、自らの目で確かめるべく、リリアの小屋が見える森の陰から、彼女の様子を密かに観察し始めた。
彼の目に映ったのは、土にまみれながらも真剣な顔でハーブの世話をし、小さな光る何か――精霊と楽しそうに笑い合うリリアの姿だった。
とても、他人を呪うような悪女には見えない。
むしろ、その姿はひどく眩しく、カイルの心をざわつかせた。
ある日の午後、集落に小さな騒ぎが起きた。
「大変だ! うちの子が、毒草を食べて!」
若い母親の悲鳴が響き渡る。
集落の子供が、森で遊んでいる最中に、綺麗な赤い実をつけた毒草を誤って口にしてしまったらしい。
子供は高熱を出し、ひどく苦しんでいた。
集落の薬師も匙を投げるほどの強い毒。
誰もが青ざめる中、噂を聞きつけたリリアが息を切らして駆けつけた。
「私に見せてください!」
リリアは苦しむ子供の顔を覗き込むと、すぐに持参していた小さな布袋から、乾燥させたハーブを取り出した。
「これは……?」
「解毒作用のあるハーブです。私が育てました。これを煎じてのませれば、きっと……!」
彼女はテキパキとハーブを煎じると、それを子供の口にそっと含ませる。
さらに、彼女は子供の手を握り、何事かを静かに祈った。
その手から、ごく微かだが温かい光が放たれたのを、遠巻きに見ていたカイルだけが見逃さなかった。
すると、奇跡が起きた。
子供の荒い息が、少しずつ穏やかになっていく。
真っ赤だった顔から赤みが引き、苦痛に歪んでいた表情が和らいでいく。
やがて、すうすうと安らかな寝息を立て始めた。
「……助かった」
誰かがつぶやいた言葉に、集落の皆が安堵の息を漏らす。
母親はリリアの前に泣き崩れ、何度も感謝の言葉を口にした。
リリアは、ただ静かに微笑むだけだった。
その姿を、カイルは木陰からじっと見つめていた。
王都から来た「厄介者」。
その女が、自分たちの子供の命を救った。
彼女が育てたという、ありえないほど薬効の高いハーブと、あの不思議な力で。
カイルの冷たい金色の瞳が、初めて戸惑いの色を浮かべて、大きく揺らいだ。
リリア・ヴァーミリオンという存在が、彼の心の中で無視できない大きさになり始めた瞬間だった。
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