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13 忍び寄る王都の影
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セレスティナとリアムが辺境で愛を育んでいる頃、王都では、深刻な事態が進行していた。
アラン王子と新たな婚約者になった「聖女」リリアナ。彼女の力によって、国は安寧と豊穣を約束されるはずだった。しかし、現実はその逆だった。
リリアナが「聖女」として祈りを捧げれば捧げるほど、なぜか国の各地で作物の育ちが悪くなり始めたのだ。最初は些細な不作だったが、それは徐々に広がり、季節外れの干ばつや長雨を引き起こし、国中が原因不明の凶作に見舞われる事態にまで発展していた。
国民は、聖女様の力が弱まっているのではないかと不安の声を上げ始めた。しかし、本当の理由は、もっとおぞましいものだった。
リリアナの力は、本物の聖女のような、大地に恵みを与えるものではなかった。彼女の力は、人々の「信仰心」と、大地そのものに宿る生命力を糧として搾取し、それを自身の魔力に変換するという、偽りのものだったのだ。人々が彼女を「聖女」と信じれば信じるほど、その力は強くなる。しかし、その代償として、彼女が祈りを捧げた土地は、生命力を根こそぎ奪われ、枯れていく運命にあった。
彼女は今まで、その力を小出しに使い、決して一箇所に留まらないことで、その副作用を隠してきた。しかし、王子の婚約者となり、王都に留まって力を誇示し続けた結果、王都周辺の大地は急速に生命力を失い、破滅的な凶作を招いてしまったのだ。
「どういうことだ、リリアナ! お前の祈りは、なぜ効果がない!」
困窮する国民からの不満に晒され、アラン王子はリリアナを問い詰めた。
「そ、そんなこと……わたくしにだって分かりませんわ! きっと、わたくしを信じない不信心者が増えたせいですわ!」
リリアナは涙ながらにそう訴え、アランはそれをまたも鵜呑みにした。しかし、どんなに国民に信仰を強要しても、状況は一向に改善しない。国庫は底をつき始め、民衆の不満は日に日に高まっていく。
そんな折、王家のもとに、一つの奇妙な噂が届いた。
それは、不毛の地であるはずの北の辺境が、今や緑豊かな土地となり、かつてないほどの豊作に沸いているという信じがたい報告だった。
「北の辺境だと? あの雪と氷しかない土地がか?」
国王や大臣たちは、にわかには信じられなかった。しかし、複数の商人や旅人からもたらされる情報は、すべて同じ内容を指し示していた。辺境では、新しい作物が次々と作られ、領民たちは豊かな暮らしをしている、と。そして、その中心には、一人の女性がいるという。
「追放した、あの公爵令嬢……セレスティナが、何かをしたというのか?」
報告を聞いたアランは、忌々しげに呟いた。
「まさか……。あんな女に、そんな力があるはずがない」
しかし、疑念の種は蒔かれてしまった。
王都が枯れていく一方で、辺境は緑に満ちている。偽りの聖女と噂され始めたリリアナ。そして、辺境で「聖女様」と呼ばれ慕われているという、追放したはずの元婚約者。
点と点が、徐々に線で結ばれていく。
王宮の誰もが、最悪の可能性に思い至り始めていた。
「追放した悪役令嬢が、本物の聖女だったのではないか?」
その疑惑は、乾いた枯れ木に燃え移る炎のように、王宮の中に急速に広がっていった。
アラン王子と新たな婚約者になった「聖女」リリアナ。彼女の力によって、国は安寧と豊穣を約束されるはずだった。しかし、現実はその逆だった。
リリアナが「聖女」として祈りを捧げれば捧げるほど、なぜか国の各地で作物の育ちが悪くなり始めたのだ。最初は些細な不作だったが、それは徐々に広がり、季節外れの干ばつや長雨を引き起こし、国中が原因不明の凶作に見舞われる事態にまで発展していた。
国民は、聖女様の力が弱まっているのではないかと不安の声を上げ始めた。しかし、本当の理由は、もっとおぞましいものだった。
リリアナの力は、本物の聖女のような、大地に恵みを与えるものではなかった。彼女の力は、人々の「信仰心」と、大地そのものに宿る生命力を糧として搾取し、それを自身の魔力に変換するという、偽りのものだったのだ。人々が彼女を「聖女」と信じれば信じるほど、その力は強くなる。しかし、その代償として、彼女が祈りを捧げた土地は、生命力を根こそぎ奪われ、枯れていく運命にあった。
彼女は今まで、その力を小出しに使い、決して一箇所に留まらないことで、その副作用を隠してきた。しかし、王子の婚約者となり、王都に留まって力を誇示し続けた結果、王都周辺の大地は急速に生命力を失い、破滅的な凶作を招いてしまったのだ。
「どういうことだ、リリアナ! お前の祈りは、なぜ効果がない!」
困窮する国民からの不満に晒され、アラン王子はリリアナを問い詰めた。
「そ、そんなこと……わたくしにだって分かりませんわ! きっと、わたくしを信じない不信心者が増えたせいですわ!」
リリアナは涙ながらにそう訴え、アランはそれをまたも鵜呑みにした。しかし、どんなに国民に信仰を強要しても、状況は一向に改善しない。国庫は底をつき始め、民衆の不満は日に日に高まっていく。
そんな折、王家のもとに、一つの奇妙な噂が届いた。
それは、不毛の地であるはずの北の辺境が、今や緑豊かな土地となり、かつてないほどの豊作に沸いているという信じがたい報告だった。
「北の辺境だと? あの雪と氷しかない土地がか?」
国王や大臣たちは、にわかには信じられなかった。しかし、複数の商人や旅人からもたらされる情報は、すべて同じ内容を指し示していた。辺境では、新しい作物が次々と作られ、領民たちは豊かな暮らしをしている、と。そして、その中心には、一人の女性がいるという。
「追放した、あの公爵令嬢……セレスティナが、何かをしたというのか?」
報告を聞いたアランは、忌々しげに呟いた。
「まさか……。あんな女に、そんな力があるはずがない」
しかし、疑念の種は蒔かれてしまった。
王都が枯れていく一方で、辺境は緑に満ちている。偽りの聖女と噂され始めたリリアナ。そして、辺境で「聖女様」と呼ばれ慕われているという、追放したはずの元婚約者。
点と点が、徐々に線で結ばれていく。
王宮の誰もが、最悪の可能性に思い至り始めていた。
「追放した悪役令嬢が、本物の聖女だったのではないか?」
その疑惑は、乾いた枯れ木に燃え移る炎のように、王宮の中に急速に広がっていった。
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