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全年齢対応・表現マイルドバージョン
第26話 最前線攻略者たち ① ~英雄譚の崩壊~
しおりを挟む妖怪制作に先立って、オレは残っている『虫型モンスター』全てに64階層の『お客様』への歓待を指示した。
いずれにしろモンスターは総入れ替えをする。
だったら、存在しているモノたちはここでキッチリ使い切りたい。
準備ができるまで、時間も稼がなくてはならないからな。
◆
その頃、64階層を進む主力は、苦闘の中に居た。
カエル女『仁科悠』改め『河童』の女の子、『沢辺みどりや』がいた先駆けA班の損失は他のパーティでも同様に発生していた。
相互の連絡が用をなしていなかったからである。
普段は各自10人以下のパーティで活動していて、他のパーティと連絡を取るということがない。
深刻なダメージを負い、救援要請をするほかない。
そんな事態にならない限りは、没交渉なのだ。
大規模レイドとは、いくつものパーティが連動して当たるミッション。
人数は大きいが単位としてはパーティごとの編成でしかない。
連絡を取り合うという発想が、そもそも無かったのだ。
始めに被害を受けたパーティは先遣隊の中でもさらに先鋭。
先頭に立って正規ルートを進んでいた。
その役目は、露払いであると同時にダンジョン内の変化にいち早く気付き情報を収集する重要なものだ。
敵モンスターの変化についても可能な限り迅速に、他パーティへと展開している。
ただ、その伝え方が問題だった。
SNSを介してのチャットだったのだ。
お判りいただけるだろう。
暇な待機時間であれば、連絡が来たとなれば即、既読にもする。
しかし、今まさに接敵中という状況だったらどうか?
通信音がしたからといって、内容を確認できるか?
スマホを操作できるか?
できるわけがないではないか!
他パーティの者たちは皆、着信に気付きつつも戦闘に入った。
内容に目を通せたのは、死地を脱して落ち着いてからのことだ。
そして、全員が叫ぶことになる。
「戦闘中に、こんなの読めるかよ!」
「緊急の用件は口で言って!」
「文字を読むなんてムリに決まってんだろ!」
「スマホ出す余裕なんてなかったわよ!」
・・・と。
モンスターの属性が逆転していると気付くまでに、どのパーティも少なからず損害と犠牲者を出していた。
これにより、先駆けA班は他のパーティから憎悪を抱かれることになる。
◇
「自分らの不注意を棚に上げやがって!」
先駆けA班のリーダーが悪態をついた。
本来なら先頭を交代するのだが、他のリーダーたちにより、彼のパーティが中盤以降も先頭で進むことになったことへの怒りからだ。
他のパーティよりほんの少し早く、接敵して情報を得ていただけだというのに。
役目はきちんと果たして情報も展開したのに。
責められる謂れなんてない。
彼は大いに不満だったのだ。
他のリーダーたちだって、立場が同じなら同じ行動をとったに違いないのだから。
「グチっても仕方ないわ。気を付けて進みましょ」
サブリーダーが宥めに入る。
「・・・そうだな。みんな、モンスターの属性が逆転している。そのつもりで頼むぞ」
「わかっていれば、対処は難しくないわよ」
サブリーダーが、大丈夫だと返し、他のメンバーも頷いた。
根本的な勘違いに気が付かないままに。
モンスターの属性が変化した。
ならば、変化しないこともあり得るのだ。
リーダーは、こう言うべきだったのである。
『初見のつもりで慎重に対処しろ!』と。
逆になっているのだと決めつけずに。
その結果、彼らは同じミスをした。
逆になっていると思い込んで戦闘に入り、初手でダメージを負う者が出た。
フォローに入る者、回復に入る者。
それぞれが自分の役目を果たそうと動いた・・・つもりだった。
メンバーが二人減り、魔職女の一人がいまだ立ち直れていない。
通常の動きでは足りない、フォローが効かない状態なのに普段通りにしか動けていなかった。
連携が滞る、途切れる。
対応は後手後手に回った。
一人、また一人と倒れていく。
「そんな、こんなことって・・・」
最期の一人。
サブリーダーは自分を庇って死んだリーダーに縋りついたまま、力なく首を振った。
仲間の全滅に心を折られた彼女が、自分の足で立つことは二度となさそうだった。
こうして、先駆けパーティが一つ、潰えた。
当然のことだが、今回は他のパーティに連絡することもなく。
しわ寄せは、中盤に入ってからは先頭に立つはずだったB班にのしかかった。
◇
A班が前にいる。
そのつもりで進んでいた彼らは、来るはずのない正面からの急襲に対応できなかった。
「な!? 真正面からの接敵だと?!」
「前にいるやつらは何してんのよ!」
予想外の方角からの敵に慌てさせられながらも、しのぐことはできた。
彼等はモンスターの属性に関するデータを端から信じていなかった。
自分たちで手に入れた情報以外は否定するタイプの者たちだったのだ。
おかげで混乱しないで済んだのである。
「A班は何してるのよ!」
B班のリーダーはダンジョンの壁を蹴りながら、スマホを取り出した。
チャットではなく、通話ボタンを叩くようにクリックする。
怒鳴りつけてやる!
そう考えてのことだ。
ムダなことだった。
その後、何度かけ直してもA班のメンバーとはつながらなかったから。
パーティが一つ全滅した。
この報せは、主力の進行速度を著しく下げることになる。
犠牲者『一名』で『ダンジョンマスター』討伐。
そのはずが、予想外に被害が膨らみつつあった。
◇
「こんなはずじゃない。こんなはずじゃなかった!」
最小限の犠牲で最大限の利益を得る。
その前提で計画され、実行されたレイドだった。
一人を除いて、他はみんな無事に帰還するはずなのだ。
そうでなければならなかった。
このレイド全体のリーダーである『聖騎士』は、爆弾として使われる『仲間』のために涙溢れる追悼演説を用意してある。
地上にでたら、『彼』の勇気を讃え『英雄』と呼ぶ心づもりでいた。
名誉は死者に。
実は我らに、である。
——いや、違う。
本当は、俺に。
彼の勇気を讃える言葉を、誰よりも美しく語れるのは俺だ。
その言葉を聞いた誰もが、俺を『導いた者』として記憶する。
そうなるはずだった。
彼の死が、俺の名を照らすはずだった。
『彼の犠牲が我々を導いた』——そう語るはずだった言葉が、今は喉の奥で腐っていく。
それなのに、こんなに死人が出てしまっては、ただの失策だ。
英雄譚は、ひとりの犠牲でなければ輝かない。
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なのに、この様では胸を張れない。
「なにが楽に英雄になれるチャンスだ! テキトーな教師どもめ!」
レイドリーダーは、怒りをぶつける相手を探していた。
その声は、誰にも届かないまま、迷宮の奥に吸い込まれていった。
英雄譚は、誰にも語られないまま、静かに崩れていく。
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