『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第25話 妖怪制作① ~雪女~

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 ペーストするデータは決定した。
 どんな妖怪を作るのか?

「とりあえず、山形って言うか雪国で『妖怪』と言えば決まってるよな?」
 絶対に外せないトップランナーがいる。

『雪女』。
 妖怪のことなんて知らない、興味ない。
 そんな人でも知らないとは言わないだろう。

 必要なのは当然だけど冷気を扱う能力。
 氷系の魔法が得意な魔職がいいだろう。
 当然に女生徒だ。

 百合根友梨先輩である。
 実際、悪口の部類だったけど『雪女』という二つ名を貰っていたし。

 場所は『指揮所』。
 彼女のものらしい血痕が乾き始めている。

 遺体はない。
 というか、死んではいない。

 魔職だからね。
 あとは、わかるよな?

 なので、本体はないわけだがデータはある。
 参照は可能だった。

「どれ、まずは肉体の構築。そして、人格の強調と能力抽出だ」
 ポチッとな。

 記憶の解析をスタートした。
 彼女の最期の記憶が流れ始める。

  ◆百合根友梨視点◆

 上から見下ろしている。
 頑張ったよね。
 でも、もう生きる気力がない。

 彼氏がクラスメイトの女子と抱き合って、あまつさえキスをしていた。
 戦闘のさなかだ。
 気持ちが盛り上がっていたのだろう。

 嫉妬心。
 きっとそうなんだろうと思う。

 何も考えないまま指揮所を飛び降りた。
 なにをしたかったのかはもうわからない。

 自分が何かをするより早く、彼氏はいなくなった。
 カマキリに胸を斜めに切り裂かれていた。
 そして、もう一人も腰から輪切りにされている。

 助けるつもりだったのかどうなのか。
 私は傷口を凍らせていた。

 そのおかげ?
 いや、そのせいで彼女は死ななかった。
 少なくとも数分は。

 私は見ていた。
 内臓をはみ出させて引き摺りながら這う彼女を。

 ムゴイシーンだ。
 なのに、私の顔には冷たい笑みが浮いていた。
 自覚できていた。

 心が冷たく凍てついていく。
 嫉妬に駆られて裏切った彼に詰め寄ることも、人の彼氏に色目を使った女をなじることもできていない。

 茫然と突っ立っていたところを襲われた。
 何もできないまま肩を噛み砕かれた。
 脚先の爪が肌に食い込んでいる。

 逃げるのはもう無理だ。
 でも、もういいか。

 生きて帰る理由、なくなっちゃった。
 地上の惨劇を無感動に眺めて、目を閉じた。

   ◆

 「いいね!」
 お誂え向きの記憶。

 しかも新鮮だ。
 これを使おう。

 そして、もう一つ。
 まだ存在している『虫』のカタログから、一匹の虫を出す。
 
『雪虫』。
 雪国では雪の到来を告げる虫。
 ・・・まぁ、山形では見ないけどね。
 彼女、百合根友梨ちゃんの彼氏の魂を入れて作成。
 
 もちろん入れるだけ、行動は『雪虫』が支配する。
 人としての記憶も感情もあるのに、『虫』の中の牢獄に捕らわれている状態。
 苦痛と絶望で魂を削るがいいさ。

 生前、女生徒を少なくとも二人。
 弄んでリア充を楽しんだんだろ?

 せいぜい苦しむがいいよ。
 昔の自分の悔しさを、少しだけ込めてみた。
 オレ以外には充分に素敵な女性だった。
 それなのに、他の子に目移りするとか許されない!

 ふわふわの白い蝋に包まれて、まるで空から舞い降りた雪の精霊みたい。
 なんてことを言っていた女子もいる。
 生物の授業中にね。

 中に男子の魂が入ってると知ったら、なんていうのかね?
 聞いてみたい気もするが、まぁいいさ。

 さぁ、この虫とセットで作り出そう。
 心を凍らせた雪女を。


 「完成だ」
 目の前に立ち上がった『雪女』を眺めて満足の吐息を吐く。
 部屋の空気が、ほんの少しだけ冷えた気がした。
 まるで彼女の吐息が、空間に染み込んだように。

 素晴らしい出来だった。
 外観には『百合根友梨』ちゃんが残っている。

 だけど、本人では決してない。
 中身はモンス(モンスター)だ。


 名前(: 氷室 しらゆき(ひむろ・しらゆき)
 冷気を閉じ込める『氷室』と、雪の純粋さを象徴する『しらゆき』。それは、彼女の凍った心にふさわしい名だった

 衣装:学校指定のブレザー制服(リボンは赤)+氷の結晶模様が刺繍されたスカート。
 腰にはストラップの振りをした白いふさふさ、『雪虫』がくっついている。

 ただし、これは平時。
 ダンジョン配置中はオーソドックスな『雪女』スタイル。

 衣装:白い着物に霜の模様、そして手から放たれる氷の結晶。
 まさに雪女の覚醒!

 髪は銀白色で、毛先が霧のように揺れる。
 瞳は淡い水色で、見る者の心を凍らせるような静けさを醸し出す。

 うんうん。
 睨まれたら『ゾクッ』てくるに違いない雰囲気がある。

 この子、静かな恐怖と美しさを持ってて、ダンジョンの“静寂の教室”とかに配置したらめちゃくちゃ雰囲気出るよね!

     ◆友梨(雪女変貌中)視点◆

 長いようで、短かった。
 あなたがいなくなってから、私は雪になった。
 冷たくて、静かで、誰にも触れられない存在に。

 でもね、あなたはずっとここにいるのね。
 この小さな虫の姿で、私の腰にぶら下がって、 何も言わず、何も求めず。
 ただ・・・舞うのだわ。

 誰かが私に優しくすると、あなたは羽ばたく。
 まるで嫉妬してるみたいに。

 でも私は、それが嬉しい。
 だって、あなたがまだ私を見てくれてる気がしたから。
 私の醜い嫉妬心を許してもらえそうだから。

 誰にも心を許さず、誰にも笑わず、。
 私はただ、あなたの沈黙に寄り添っていたい。

 だから、今日。
 雪が降る。
 あなたの羽音が、聞こえる限りずっと。

 ・・・もう、戻れない。

 あなたは、随分無口になったのね。
 あんなに、暑苦しく愛を囁いていた人なのに。
 ああだけど、それは私にだけではなかった。

 でも、ありがとう。
 私を雪にしてくれて。
 私を、あなたの冬にしてくれて。

 こんにちは、雪虫。
 初めまして、私の冬。
 

 あれは・・・そう。
 春の日、あなたが窓辺で寝ていた。
 陽の光が髪に差して、まるで夢の中みたいだった。

 私は、ただ見ていただけ。
 声をかける勇気もなくて。
 でも、あなたが目を覚まして、笑ってくれた。

「お姫様の視線にはキスと同じくらい素敵な効果があるんだね」って。
 その言葉が、私の中に残った。

 でも・・・その春は、もう来ない。

 あの日、あなたがいなくなって、 私は雪になった。
 誰にも触れられないように。
 誰にも奪われないように。

 ・・・でもね。
 この指先が、まだあなたの温もりを覚えてる。

 だから私、まだ人間だった頃の夢を見てしまうの。
 春の匂い。 教室のざわめき。 あなたの声。
 全部、雪の下に埋めたはずなのに。

 ・・・ねえ、もしもう一度春が来たら、 私は、あなたに名前を呼ばれたい。 
 雪じゃなくて—— 私自身の名前で。

    ◆

 「春はもう来ないけどね」
 完成した『雪女』にそう告げた。
 
 キレイなモノローグで美化するのは自由だが、現実を見てほしい。
 妖怪に、それもモンスターに作り替えられた。
 新しい自分っていう現実を。

 「・・・でも、雪の中で夢を見るのは、悪くないだろ?」
「・・・はい。マスター」

 楚々とした仕草で膝を折って、首を垂れる『雪女』。

 「よろしくな!」
 歓迎した。
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