100 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン
第98話 呪い ~呪われた少女~
しおりを挟む「結局、呪われていたのは誰?」
その問いの答えを知っていたのは、たった二人。
一人は追跡者。
呪いの痕跡を追う、女教師の呪術師。
もう一人は逃亡者。
呪われている『当人』。
「だって、しょうがないじゃない・・・!」
その言葉は、誰にも届かない。
届いてほしくなかった。
でも、自分の中では何度も繰り返していた。
まるで呪文のように。
それを唱えなければ、心が崩れてしまいそうだった。
あの瞬間、目の前にあったのは“死”だった。
胸に矢を受けた少女の、無表情な顔。
冷たい目が、自分を見ていた。
狙っていた。
怖かった。
本当に、怖かった。
だから、反射的に動いた。
隣にいた仲間を——押した。
盾にした。
仲間が倒れた。
そして、目が合った。
死の間際、仲間は自分を見ていた。
責めるでもなく、叫ぶでもなく。
ただ、見ていた。
その目が、焼き付いて離れない。
「しょうがなかったんだよ・・・」
そう言いながら、心の奥ではわかっていた。
『自分の命』を守るために、『誰かの命』を差し出した。
それが、事実だった。
誰にも言えない。
誰にも見られたくない。
でも、自分だけは知っている。
あの目が、今も心の奥で、じっと見ている。
「なんで・・・?」
誰かが呟いた。
その声は、誰に向けたものでもなく、ただ空気に溶けていった。
何度撒いても、追手がついてくる。
通路を曲がり、魔法で痕跡を消し、足音を散らしても——それでも、教師たちは正確に追ってくる。
「・・・呪いが、まだあるんじゃ?」
魔術師の少女が、青ざめた顔で言った。
その言葉に、皆が黙り込む。
呪い持ちだと思って、盾の少女を置いてきた。
彼女の足に黒い染みがあったから。
呪いの『印』だと思ったから。
でも——それでも、追ってくる。
「まさか・・・」
誰かが言いかけて、口をつぐむ。
その続きを、誰も言えなかった。
『呪い』を持っているのは、ほかにいたのではないか——?
その疑念が、仲間たちの間に静かに広がっていく。
誰かが、そっと距離を取る。
誰かが、他人の背中をじっと見つめる。
「・・・誰か、呪われてる?」
「いや、そんなはず・・・」
「でも、じゃあなんで・・・」
言葉が、疑いの種になる。
目線が、刃になる。
沈黙が、呪いになる。
誰もが、自分の中に問いを抱えながら、仲間の顔を見ていた。
その瞳には、信頼も、安心も、もうなかった。
ただ、見えない『印』を探していた。
誰かの背中に、誰かの手に、誰かの瞳に——呪いの痕跡を。
そして、誰かが気づく。
「・・・あの時、あの子、何か・・・」
その言葉に、空気が揺れる。
誰かが、そっと一歩下がる。
誰かが、剣の塚に手を置く。
疑心暗鬼は、もう止まらない。
呪いは、誰かの中にある。
でも、それが誰なのか——誰も、確かめる勇気を持っていなかった。
通路の奥から、足音が響く。
教師たちが、近づいてくる。
「・・・どうする?」
誰かが問う。
でも、その問いに答える者は、いなかった。
ただ、誰もが——誰かを見ていた。
「・・・確認、するべきだよね」
誰かが言った。
でも、その声は誰にも届かなかった。
いや、届いたけれど——誰も応えられなかった。
『呪い』が誰に宿っているのか。
それを確かめる方法は、ある。
呪術師の女教師が使っていた『痕跡探知』の魔法。
簡易版なら、呪術師でなくても扱える。
魔力の流れを見れば、わかるかもしれない。
でも——誰も、それを使おうとしなかった。
「・・・呪いって、どんな形なんだろうね」
魔術師の少女が、ぽつりと呟く。
誰も答えない。
それは、誰にもわからないから。
目に見える傷?
黒い染み?
心の中の罪?
それとも——誰かの視線?
確認したい。
でも、確認した瞬間、自分が『それ』だったらどうする?
その恐怖が、皆の足を止めていた。
「・・・私じゃないよね?」
誰かが言った。
でも、その言葉に誰も頷けなかった。
誰もが、自分の中に『それ』があるかもしれないと思っていた。
あの時、逃げた。
あの時、見捨てた。
あの時、見て見ぬふりをした。
その『記憶』が、呪いの形をしているのなら——誰もが、呪われている。
呪いって、誰かにかけられるものじゃない。
自分で、自分にかけるものなんだ。
だから、誰も確認しようとしなかった。
誰かを疑うことは、自分を疑うことだったから。
通路の空気が、重く沈む。
誰も動かない。
誰も、目を合わせない。
ただ、静かに——自分の影を見つめていた。
その影が、呪いの形をしていないことを祈りながら。
◇疑心暗鬼と気づき◇
仲間たちの間に、疑念が広がっていた。
誰かが誰かを見ていた。
誰かが、自分自身を疑っていた。
その空気は、冷たく、重く、静かに満ちていた。
まるで、霧のように。
まさに、呪いのように。
でも——その変化に、ただ一人気づいていない少女がいた。
彼女は、確信していた。
『呪い』は自分の中にある。
だから、誰かを疑う必要はなかった。
誰かに疑われることも、想定していなかった。
なぜなら——彼女は、ずっと『井戸の怪物』を見ていたから。
あの瞬間。
命の危機が近づいていた瞬間。
彼女は、仲間を盾にした。
その記憶が、彼女の中で怪物になった。
井戸の底に潜む、黒くて、冷たい、動かない怪物。
それを見つめ続けていた。
それが、自分の『本当』だと思っていた。
だから、周囲の変化に気づかなかった。
仲間たちが距離を取り始めたことも。
誰かが杖を握り直したことも。
誰かが、そっと彼女の背後に立ったことも。
彼女は、ただ——自分の中の怪物を見ていた。
「・・・私が呪われてる」
その言葉は、誰にも届かなかった。
誰も、もう彼女の言葉を聞こうとしていなかった。
そして、彼女は気づく。
誰もが、自分を見ていない。
誰もが、別の誰かを見ている。
誰もが、自分自身を見ている。
「・・・あれ?」
その瞬間、彼女の視線が井戸の底から外れた。
周囲を見渡す。
誰もが、疑いの目を持っていた。
でも、それは——自分に向けられていなかった。
「・・・違うの?」
彼女の声は、震えていた。
自分が呪われていると思っていた。
でも、誰もそれを見ていない。
じゃあ——この怪物は、なんだったの?
その問いが、彼女の中で静かに響いた。
そして、初めて——彼女は『呪いの形』を見失った。
「・・・もしかして、私じゃないのかも」
その可能性が、少女の胸にふっと灯った。
まるで、長い夜の中で見つけた小さな星のように。
ずっと、自分が呪われていると思っていた。
あの瞬間の記憶。
あの目。
あの罪。
でも、誰も自分を責めなかった。
誰も、自分を見ていなかった。
「・・・違うのかも」
その言葉が、心の奥に染み込んでいく。
重かったはずの空気が、少しだけ軽くなった気がした。
その時だった。
「——捕まえた!」
女教師の声が、背後から鋭く響いた。
振り返る間もなかった。
何かが背中に触れた瞬間、意識がふっと遠のく。
視界が、ぐにゃりと歪む。
音が、遠ざかる。
足元が、崩れる。
「・・・あれ?」
確かに軽くなったはずの心が、今は重く沈んでいく。
まるで、深い水底に引きずられるように。
「・・・違うかもって、思ったのに」
その言葉は、誰にも届かない。
少女の意識は、静かに闇に溶けていった。
◇箱の中◇
目を開けると、そこは静かな空間だった。
音がない。色もない。
ただ、灰色の霧がゆらゆらと漂っていた。
空気は冷たく、でも湿っていた。
まるで、誰かのため息の中に閉じ込められているようだった。
「・・・ここは?」
少女は立ち上がろうとする。
でも、体が重い。
まるで水の中に沈んでいるような感覚。
「・・・やっぱり、私だったの?」
誰も答えない。
でも、霧の向こうに、誰かの影が見えた。
影の胸元には、赤いリボンが揺れていた。
それは、かつて彼女が盾にした仲間のものだったかもしれない。
無表情。
冷たい目。
ただ、じっと見ている。
「・・・違うって、思えたのに」
少女は呟く。
でも、その声は霧に吸われて消えていく。
影は、ゆっくりと近づいてくる。
その瞳は、何も語らない。 でも、確かに——責めていた。
「・・・私が、呪われてるんだよね」
その言葉に、影は止まった。
そして、静かに首を振った。
「・・・え?」
少女は目を見開く。
影は、もう一度首を振る。
そして、霧の中に溶けていった。
やがて、『カチリ』と音がした。
それはまるで、扉を閉めたような音だった。
閉じ込められた。
少女は膝をつき、座り込んだ。
逃走し続けていた体力の消耗に、押しつぶされるようにして。
退避と追跡行の脱落者=生徒7 教師9
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる