『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
101 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第99話 呪い2 ~呪いの主と使用者~

しおりを挟む
 

「・・・捕まった!」

 誰かが叫んだ。
 通路の奥で、仲間の一人が突然消えた。
 叫びも、魔力の痕跡も、何も残さず。

 ただ、空気が一瞬だけ震えた。
 それは、何かが『開いた』音だった。

「・・・ミミック?」

 誰かが呟く。
 その言葉に、何人かの顔が強張る。

 かつて——同じように、仲間が消えたことがあった。
 探索中、宝箱に飲み込まれた少女の記憶。

「・・・あの時・・・」

 その記憶が、誰かの中でよみがえる。
 でも、誰も口にしない。
 誰も、助けなかった。
 誰も、動けなかった。

 そして——その少女は、戻ってこなかった。

「・・・彼女が、呪われていたの?」

 魔術師の少女が震える声で言う。

 問いに答えるように、闇の中から女教師が姿を現した。
 呪術師の女教師は首を振っている。

「違う。彼女『も』呪われてるのよ」

 その言葉に、空気が凍る。

「・・・じゃあ、誰が『呪った』の?」

 女教師は、静かに答える。

「——箱の中で死んだ子よ」

 誰もが息を呑む。
 あの時、助けられなかった少女。
 誰もが、見て見ぬふりをした。
 誰もが、自分の命を優先した。

 その『記憶』が、呪いになった。
 その『怨念』が、形を持った。

「彼女は、今も箱の中にいる。誰にも助けられず、誰にも見つけられず、暗い中で、ずっと待ってるのよ」

 そして——今、彼女は『捕まえ始めた』。

 かつて自分を見捨てた仲間たちを。
 一人ずつ。
 箱の中に閉じ込めて。
 自分がそうされたように、暗闇の中で殺そうとしている。

「・・・呪われてるのは、私たち・・・」

 誰かが呟く。
 何人かが顔を強張らせた。

 あの時、そこにいたのは——今もいるのは——その三人だけだった。

 一人は死んで、もう一人は消えたから。

 通路の奥から——また『開く』音がした。

「さぁ、『糸』はつけた。手繰り寄せるだけ」

 女教師が、狂気の滲む笑みを浮かべた。
 心の奥で、誰かが叫んでいた。

   ◇女教師の葛藤◇

「糸はつけた。手繰り寄せるだけ」

 ——それは、私の声じゃなかった。
 でも、確かに私の口から漏れた。

 呪いを追うたび、胸の奥が熱くなる。
 快感?
 違う。
 これは・・・恐怖だ。

 誰かが、瞳の奥で叫んでいる。
 優しくて臆病だった、昔の私が。

 私は誰?
 呪いを追う者? 
 呪いを撒く者? 
 境界が溶けていく。
『それ』が、私の中にいる。

「私は教師、生徒を守る立場」
「生徒を殺さなければ、私が死ぬ」 
「さっさと捕まえて。呪いが目印になってるから簡単でしょ!」

 三つの声が、頭の中でぶつかり合う。 
 守る者。
 殺す者。
 命令する者。

 どれが私?
 どれも私?
 どれも違う?

 でも、気づいた。 
 前の二つは『教師』としての私の声。 
 三番目だけが異質だった。

『誰か』が、私を通して生徒を追わせていた。 
 私は、何のために動いている? 

 守るため?
 殺すため?

 ・・・どちらもが『私』の意志でありながら、相反している。
 そこを『呪い』に利用されている。
 それはわかる。
 でも、何が正解かはわからなかった。

 四人目を箱に閉じ込めた。 
 それが『正しい』と思っていた。
「箱に入れなければならない」
 理由はなかった。
 ただ、そうすべきだと感じていた。

 でも、呪いとは関係のない生徒が血に染まった瞬間——私の中で何かがはじけた。

 悲鳴も、後悔も、怒りもなかった。
 ただ、静かに、確かに。
 私と『誰か』の意思が重なった。

『生徒を守るのが教師』
『仲間を守りたい』
 二つ目の声、『生徒の犠牲を求めていた声』が消えた。

 意識がとたんにクリアになった。
 なすべきことがはっきりした。

 私と『呪いの主』は、同じ願いを持っていた。

『呪い』は敵じゃなかった。
 それは、守るための力だった。

『捕らえる』は『保護』
『箱に閉じ込める』は『安全な場所にかくまう』

 恐怖に歪んだ視界が、澄んでいく。
 私は教師。『それ』は守る者。
 そして今、私たちは——守る者として、ひとつになった。

 私は、杖を振り上げた。
 狙いは、生徒じゃない。
 斬りかかろうとした『同僚』・・・いいえ、『敵』。

 杖が閃き、空気が裂ける。
 まさかの裏切りに、敵は防御が遅れた。
 信頼が、油断を生んだ。

 一撃。
 それは肉体だけでなく、隊列の『信念』をも砕いた。

「なぜ・・・お前が・・・」

 誰かが呟いた。
 だが、答えは返らない。
 女教師の瞳は、迷いのない光で燃えていた。

 追跡者たちは足を止める。
 混乱と動揺が、彼らの動きを鈍らせる。

 その隙に、生徒たちは息をつく。
 そして、女教師は前に出る。
 生徒たちを背にして。

 退避と追跡行の脱落者=生徒10  教師9

   ◇呪いの主◇

『糸の部屋』——あの場所で、私は死んだ。
 ミミックの罠にかかった瞬間、すべてが終わった。
 仲間たちは、すぐそばにいた。
 でも、誰も助けてくれなかった。

 ・・・助けられる状態じゃなかった。
 それはわかってる。
 あの状況で、誰も動けなかった。
 私が、そうさせたんだ。

 私が、無理をした。
 私が、焦った。
 私が、仲間を巻き込んだ。

 だから、私が死んだのは——当然だった。
 因果応報。
 自分のせいで、自分が死ぬ。
 それは、割り切れる。

 でも、仲間まで巻き込んだことだけは——それだけは、割り切れなかった。

 彼らの瞳に浮かんだ恐怖。 
 動けないまま、私を見捨てる決断をする声。
 あれが、私の最後の記憶。

 だから、私は『呪い』になった。
 守るために。
 今度こそ、誰も巻き込まないように。
 今度こそ、誰も失わないように。

『呪い』は、私の後悔の形。
『糸』は、私の未練の形。
『箱』は、私の祈りの形。

 私は、守りたかった。
 ただ、それだけだった。

 ラッキーだった。
 私を殺したのが、ミミック——『箱』だったこと。

 閉じ込める。
 仕舞う。
 隠す。
 守る。

 そんな意味を持つ『箱』に、私は喰われた。
 だから、私は呪いをかけた。

『箱』の中に、捕らえるために。
 仕舞うために。
 守るために。

 普通なら、そんな呪いに力なんて宿らない。
 ただの未練。
 ただの願い。
 ただの、死者の囁き。

 でも、このダンジョンは変わり始めていた。
 何かが、全体に染み渡ろうとしていた。
 空気が、魔力が、構造が——揺らいでいた。

 そして、あの『呪術師』の先生。
 彼女の存在が、私の呪いに力をくれた。

 彼女は『呪い』を利用してくれた。
『私』と繋がることができた。
 そして、生徒を『捕らえた。
 私と同じように、『守ろう』としていた。

 その共鳴が、私の呪いを目覚めさせた。
 未練が、力になった。
 祈りが、術になった。

 私は、ただ守りたかった。
『箱』の中に、仲間を閉じ込めてでも。
 もう誰も、私のように死なせたくなかった。

 だから、私は呪いになった。
 そして今——私の呪いは、彼女の手で形になる。

  ◇呪いと女教師と決着と◇

 私は、守りたかった。
 それだけだった。

 誰かを傷つけるためじゃない。
 誰かを閉じ込めるためでもない。
 ただ——誰も、私のように死なせたくなかった。

『呪い』は、私の後悔の形。
『糸』は、私の未練の形。
『箱』は、私の祈りの形。

 そして今、私の祈りは——彼女の手で形になる。

 女教師は、静かに立っていた。
 彼女の瞳は、もう呪術師のそれではなかった。
 ただ、生徒を守る『教師』の目だった。

 生徒たちを背にして。
 敵に杖を向けて。
 その瞳には、迷いがなかった。

 彼女は、私の声を聞いた。
 私の想いを受け取った。
 そして、私の呪いを『術』に変えた。

「守るために、閉じ込める」
「守るために、捕らえる」
「守るために、戦う」

 その言葉が、彼女の中で燃えていた。

 敵は動揺していた。
 信じていた仲間に裏切られ、隊列は崩れた。
 その隙に、生徒たちは逃げ道を探す。
 でも、女教師は動かない。
 彼女は、ここに残ると決めていた。

「・・・私が、守る」

 その声は、誰にも届かなくてもよかった。
 それは、祈りだったから。
 誰かに向けたものではなく、自分自身の中に灯した、小さな光だったから。

 そして、彼女の背後に『箱』が現れる。
 静かに、ゆっくりと、開く。

 その中には、誰もいない。
 でも、確かに『誰か』がいた。
 祈りの形をした、呪いの主が。

 彼女は、箱に手を伸ばす。
 その瞬間、空気が震えた。
 魔力が、優しく流れ込んでくる。

「・・・ありがとう」

 誰の声だったのか、わからない。
 でも、確かに聞こえた。

 その声は、風のように通路を撫でていった。
 誰にも届かなくても、確かにそこにあった。

 それは、呪いの主の声だったのかもしれない。
 それとも、女教師自身の声だったのかもしれない。

 どちらでもよかった。
 二人は、もうひとつになっていたから。

 そして、箱は閉じる。
 静かに、穏やかに。
 まるで、誰かを優しく包み込むように。

 箱は、もう『罠』ではなかった。
 それは、誰かを守るための『居場所』になった。

 通路の空気が、少しだけ軽くなる。
 霧が晴れていく。
 呪いが、祈りに変わった瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...