『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
99 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第97話 盾のありか ~盾が守るもの~

しおりを挟む
 

 足が、重い。
 盾の少女は、足を引きずりながら考えていた。
 歩くたびに、体の奥が冷えていく。
 まるで、心臓の音が遠ざかっていくみたいだった。
 仲間が、ちらちらと視線を向けているのにも気づかずに。

 自分は、何をしたいのだろうか。

 地上に向かって歩き始めたとき——それは、彼の死の責任を誰かに突きつけるためだった。 学校とか、制度とか、そういうものに。

 でも、違った。
 そんなことは、どうでもよかった。
 今は、そう思う。

 歩く理由が、欲しかっただけだ。
 何かを責めることで、前に進む理由を作ろうとしていただけ。

 なら——『私』の進む理由は、何?

 彼の盾を持っている。
 それは、彼の背中を継ぐためだった。
 でも、それだけじゃ足りない。

 彼の背中を見ていた自分が、今度は誰かの前に立つ。
 その意味を、まだ見つけられていない。

「・・・私が、守りたいものって・・・何?」

 通路の先は暗い。
 でも、彼女の瞳には、少しだけ光が宿っていた。

 それは、問いの先にある答えを探すための光。
 そして、盾を持つ者としての、最初の一歩だった。

「見つけた!」

 横道から、教師たちが姿を現す。
 その先頭に立つのは、杖を握った女教師。
 瞳は鋭く、口元には確信の笑み。

「呪術師の私に、その呪いは隠せないわ!」

 彼女は杖を掲げ、何かを詠唱し始める。
 盾の少女の足元に宿る『黒い染み』が、標的にされたようだった。

「ライト!」

 生徒側の魔法使いが、反射的に叫ぶ。
 杖が閃光を放ち、通路が白く染まる。

 瞬間的な目くらまし。
 教師たちの視界が奪われる。

「今よっ!」
「急いで!」

 別の生徒が叫び、盾の少女が前に出る。
 足は重い。
 でも、盾は動いた。

 閃光の中、彼女は教師の魔法を遮るように盾を構えた。
 呪術の詠唱が、途中で途切れる。

「くっ・・・!」

 女教師が後退する。
 だが、呪いはまだそこにある。
 黒い染みは、脈打ち続けていた。

「・・・見られた、か」

 盾の少女は、静かに呟いた。
 でも、もう逃げない。
 彼女は、盾を持って前に立った。

 それが、今の『私』の進む理由だった。

 その・・・はずだった。

「え?」

 盾の少女は、呆然と立ち尽くす。

 閃光が消えた通路には、もう誰もいなかった。
 仲間も、教師も——誰一人、そこにはいなかった。

「・・・どこ・・・行ったの・・・?」

 彼女の声は、誰にも届かない。
 ただ、石壁に吸い込まれていくだけだった。

 そして、気づく。
 自分が『置いていかれた』ことに。

 教師たちは、別の人物を追っていたのだ。
 呪いがかかっていたのは、実はその人物だった。

 思い返してみれば、呪術師の女教師は自分の所へ来たのではない。
 自分が『誰か』との間に割り込んだのだ。
 初めから、自分は目に入っていなかった。

 でも、生徒たちは——『盾の少女が呪われている』と思い込んでいた。
 少しでも異常な行動が見られたら離れる心づもりができていたのだろう。

 だから、教師に追いつかれたとたん彼女を置いて逃げた。
 そういうことだった。

   ◇置いて行かれた場所◇

「・・・そっか・・・」

 彼女は、足元の黒い染みを見下ろす。
 それは、確かに『呪いのように』見えた。
 でも、それはただの傷だった。

 誤解だった。
 でも、誰も確認しなかった。
 誰も、彼女に声をかけなかった。

「・・・私、守るために盾を持ったはずなのに・・・」

 その盾は、今、何も守っていなかった。
 誰も、彼女の後ろにはいなかった。

 それでも、盾は手放さなかった。
 それが、彼女の“進む理由”だった。

 そして、それで——十分だった。

 一人になって、わかった。
 誰もいないからこそ、気づけた。
 誰にも守られないからこそ、見えた。

 一人にしてもらえた「おかげ」で、気がついた。

「わたしは・・・」

 彼女は、盾を見下ろす。
 その表面には、戦いの傷が刻まれていた。
 彼の手の跡も、血の染みも、まだ残っていた。

「『痕跡』を置いておけなかっただけ」

 その声は、誰に向けたものでもなかった。
 ただ、自分の中にある『嘘』を、そっと剥がすような呟きだった。

「わたしは、『私』を守っていただけだ」

 誰かを守ろうなんて、思っていなかった。
 彼のようになりたいとも、思っていなかった。

 ただ——彼の痕跡と、その記憶を持つ『自分』が惜しかった。
 それを失ったら、自分が自分でなくなる気がした。

 だから、盾を持った。
 だから、歩き続けた。

「・・・それでも、いいよね」

 それは、偽善でも、正義でもない。
 ただの、わたしの理由。

 でも、それでいい。
 それでも、歩ける。

 彼女は、盾を握り直す。
 その手に、もう迷いはなかった。


 足の黒い歯型は、呪いではなかった。
 でも——毒だった。

 歩くうちに、毒は体を巡った。
 盾の少女の肉体は、少しずつ腐っていく。
 激痛に溺れながらも、彼女は歩き続けた。

 やがて——息をしなくなった。
 心臓も、止まった。

 それでも、彼女は歩き続けた。
 盾とともに。

 誰もいない通路を、誰にも見られないまま、誰にも気づかれずに。

 盾を持つ腕は、もう人のものではなかった。
 でも、その歩みは、確かに『彼女』だった。

 それは、守るためでも、戦うためでもない。
 ただ——進むための歩み。

 彼女は、もう何も語らない。
 でも、その歩みが、誰かの背中を押す。

 それが、彼女の『進む理由』だった。

      ◇カルマの嘆き◇

 舞台裏の管理部屋。
 モニタールーム内。

「って・・・また勝手に妖怪になってるのがいる――!」

 モニターを確認したカルマが、頭を抱えた。
『ダンジョンマスター』の自分に断りもなく、『システム』の補助もなしで妖怪化するとはどういうことか?!

 画面には、盾を持って歩き続ける少女の姿。
 もう息をしてない。
 でも、歩いてる。
 しかも、実体のない亡霊と来た。

「みんな人間やめるのに潔すぎないか?!」

 カルマの叫びに、周囲の妖怪たちがくすくす笑う。

「また一人、こっち側に来たねぇ」
「ようこそ、妖怪学園へ」
「って、また女か。やっぱ情念が深いってこと?」

 カルマは額を押さえながら、ため息をついた。

「いや、違うだろ・・・! せめて『未練』とか『呪い』とか、なんか理由つけてから来いよ!」

 でも、画面の中の彼女は、ただ静かに歩いていた。
 理由なんて、もう必要なかった。
『歩く』ことが、彼女の『進む理由』だったから。

 カルマは、肩をすくめて呟いた。

「・・・ま、いいけどさ」

 そして、彼は新たなウィンドウを開いた。
 そこには、こう記されていた。

 《新規登録:盾持ち妖怪『盾乃ありか』》 学園祭スタンプラリー:シークレットポイント
  報酬:幻の盾(※持ち帰り不可)

 カルマは、妖怪たちのざわめきを背に、ニヤリと笑った。

「見つけた奴には、ちょっとだけ『守る意味』を教えてやるよ」

 そして、彼はそっと画面を閉じた。
 その向こうで、盾の少女は歩いていた。

 その足元に、淡い光が灯る。
 それは、彼女の歩みが、ようやく『名を持つ存在』として認められた証だった。

 「付喪神・・・『盾哭』とでも名付けるかな」
 既存の妖怪では思い当るのがいなかった。
 器物妖怪だから、付喪神系ということにしよう。

     ◇学園祭実行委員会への誘い◇

 足が、軽い。
『ダンマス』と会ってから——盾が、体も心も、軽くなった気がする。

 腐ったせいで通路に落としていた『肉体』も拾ってきてくれていて、私は『亡霊から妖怪』になった。
 初めてのケース・・・だそうだ。
 よくわからないけど。

 妖怪になったのに、「一緒に学園祭を盛りあげよう!」ってなに?
 周りにいる妖怪たちも、ノリが軽すぎる。
 踊るし、叫ぶし、屋台の準備までしてるし。

『人間』じゃなくなるって、気楽になるってこと?
 絶対違うよね?!
 そんな簡単に割り切れるわけないでしょ!

 ツッコミたいことは、山ほどある。
 でも——ツッコまないよ?

 私が持っているのは盾。
 槍じゃないんだから!

 盾は、守るもの。
 突くためじゃないの。
 だから、私は黙って見守る。

 でも、ちょっとだけ思う。

「・・・このノリ、嫌いじゃないかも」

 盾を持ったまま、彼女は学園祭の通路を歩いていく。
 気が付くと、どこかでなにかを支えている。
 それが、今の彼女の『進む理由』だった。


 退避と追跡行の脱落者=生徒6  教師9

     ◇

 それはそうと、一つだけ、謎が残った。

「結局、呪われていたのは誰?」
 ありかは首をひねり・・・屋台から流れるソースの匂いに意識を移した。

「透明な盾だと・・・隠せないよね」
 たこ焼きを・・・

「呪われてたの、もしかして——」 
 ありかは言いかけて、たこ焼きを一つ口に放り込んだ。

「・・・ま、いっか。もう、関係ないし」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...