『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第19話 末路② ~音と糸~ 

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 カサ……カサカサ……カサカサカサカサ……!

 背後から、乾いた波音のような脚音が追いかけてくる。
 それは、風でも水でもない。
『命の音』だった。

「追ってくる──!?」

「さっきのだ! 出口塞げ!」

 双子が魔法使いの襟をひっつかんで振り返させる。

 パチ……パチパチ……カサ……カサ……。

 通路の闇の奥から、何かが跳ねる音。
 ぶつかる音。
 這いずる音。

 それは、『見えないのに確実に近づいてくる』音。

「ひっ!」

 魔法使いの喉が引きつる。
 それでも、震える手で杖を構えた。

「【ファイアウォール】!」

 ボウッ! ゴォォォォ……!

 通路の出口と中央に、炎の壁が立ち上がる。
 その瞬間、黒い波が火に触れ、爆ぜるような音を立てて弾けた。

 パチン! パチパチッ! ジジジ……ッ!

 焼け焦げる音。
 弾ける音。
 それでも止まらない、カサカサという音。

「や、やったわ! 57階層ボスのGよ!」
 震え混じりの声に、かすかな安堵が滲む。

 「よくやった!」
 「Gにはやっぱ火よね!」
 双子がすかさず囃した。


 「ね、ねぇ。いなくなったんだけど?」
 そこへ、震えながら歩み寄ったのは回復役だ。

 いなくなった、というのは剣士のようだ。
 先頭切って走っていったはずなのに姿がない。

 「勢いづけて行き過ぎたとか?」
 「ありそうかも」
 Gの恐怖で、息が続く限り走ったというのはありそうだ。

 「仕方ない、わね。迎えに行ってあげようか?」
 Gの焼死体でいっぱいの通路から目を逸らして、魔法使いが提案した。
 いずれは水で洗い流さなくてはならない(風で飛ばすと灰が空気中に散って吸ってしまう)だろうが、今はやりたくなかった。

 「そう、だね」
 「しゃーないなー」
 「世話が焼けるわー」
 四人が、そろって62階層を進み始める。


 彼女たちは知らなかった。
 剣士もそこにいたことを。

 ただ、高さが違っただけだ。
 剣士は頭上にいた。
『オニグモ』さんによって、吊り上げられていたのだ。
 
 60階層ボス、『オニグモ』。
 蜘蛛のモンスターということで、誰が名付けたのか愛称はアルケミーだ。

 大きな体と強靭な糸を持つ蜘蛛。
 そのモンスターだ。

 剣士は、天井から吊るされていた。
 糸に巻かれ、身動き一つ取れず、ただ震えていた。

 口も塞がれ、声は漏れない。
 だが、目は見開かれたまま。
 助けを求める視線だけが、虚空を彷徨っていた。

 糸の隙間には小さな蜘蛛がいた。
 糸の隙間を、カサ……カサ……と這い回る小さな影。
 背中に赤い斑点を持つ、無数の小さな蜘蛛たち。

 チク……チク……チク……。

 手足の先から、針のような痛みが走る。
 それは、刺すのではなく、埋め込むような感触だった。
 背中の赤い蜘蛛だ。
 59階層ボス、『セアカゴケグモ』である。

 「ぐッ、ンググッ!」
 声も出せぬ状態で、剣士は手足の先からゆっくりと噛まれるのだ。
 手足の先から広がる痛みに、剣士は意識の境界をさまよっている。
 
 全身に広がる激痛、発熱などなど。
 いろんな症状があるらしいが・・・。
 
 「ゴフッ、ぐッ、ウゥゥゥゥ……」

 糸の奥で、剣士の体が震えた。
 熱と痛みによる嘔吐。
 糸の隙間から、濁った液体がぽたぽたと滴り落ちる。

 床に広がるそれは、甘く、鉄のような匂いを放っていた。

 それは、命が焼ける前に流す『最後のしるし』だった。

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