『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第28話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ③ 前編

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 首を振り続けるだけでは、終わらなかった。
 彼女は、『価値がない』とはならなかった。

 ヴヴヴヴヴヴヴ――。
 背後で羽音が響いた。

「え・・・」
 脅威を察知して、思わず身をすくめる。
 体が浮き上がった。

 ・・・違う。
 体が浮いたのは事実だが、『自分で』飛び上がったわけではなかった。

「え、や、やだ・・・!」
 足をばたつかせるが、空中で揺れることはなかった。

 両腕が後ろに引かれる。
 誰かに掴まれている。
 足も、同じように。

 宙に浮いた身体は、意思に反して動かない。

 そのとき――

「な、なに・・・なに?」
 下からも、別の『何か』が近づいてきた。
 背中に乗るような形で、彼女の体に重みが加わる。

「ぐ、ぐぎっ・・・」
 下の『何か』が手を回し、頭を静かに押さえた。
 上と下から、動きを封じられる。

 身動きが取れない。
 完全な拘束――けれど、痛みはなかった。
 ただ、動けないという事実だけが、静かに彼女を包んでいた。

「え? ちょ、え? う、ウソっ! うそぉぉぉぉぉ!」

 下にいた『何か』が、長く伸びた腹部を反らし、先端を上へ向けた。
 それは、見た目にも不気味で、どこか本能的な恐怖を呼び起こす動きだった。

「な、なんで・・・」
 体の内側と外側の境界で、何かが揺れた気がした。

「ひっ・・・」
 嫌な予感がする。

 だが――

 痛みはなかった。
 体の表面に、ひんやりとした感触が走っただけだった。
 何かが当たり、そこから力が吸い取られていく。

「あ・・・なんだ。当ててるだけか」

 刺すとかではない。
 体を傷つけられるわけではないのだ。
 少しだけ、安堵する。

 ただ、先端は魔力の濃い部分。
『命』の近くに触れているようだった。

 何かが絡みつき、固定されている。
 だが、それ以上の動きはない。
 ジェットコースターに乗るときの安全ベルトのような拘束感だ。

 だけど、『何か』の狙いは『そこ』ではなく、もっと深い部分――お腹の奥の方。
 体の中の『命』・・・魔力を弄られる感覚。

「で、でも・・・これなら、まだ・・・」

 不快ではあるが、最悪ではない。
 そう思いたかった。

 だが——

「・・・っ、あれ・・・?」

 体の奥で、何かが『ずれる』感覚。
 内側の何かが、ゆっくりと動かされている。

 痛みはない。
 でも、『自分の中身』が、自分のものじゃなくなっていく感覚。
 大切なはずの『何か』が失われていく。

「や、やめて・・・やめてよ・・・!」

 声は出た。
 でも、誰も止まらない。
 誰も、聞いていない。

 背中に乗る『何か』が、わずかに体重をかける。
 その重みが、彼女の意識をじわじわと沈めていく。

「やだ・・・やだ、やだ・・・!」

 叫びは、やがて囁きに変わる。
 囁きは、やがて息に変わる。

「ぁ・・・ふぅ・・・」

 そして、沈黙になった。

 体の中で、何かが『根を張る』ような感覚。
 魔力の流れが、別の意志に書き換えられていく。

「あ・・・あれ・・・?」

 自分の手が、わずかに動いた。
 意思とは無関係に。

 目の奥が、じんわりと熱を帯びる。
 視界が、少しずつ霞んでいく。

「これ・・・わたし・・・?」

 自分の中に、別の『誰か』がいる。
 その誰かが、ゆっくりと目を覚まそうとしている。

 彼女の中で、何かが静かに入れ替わっていく。
 痛みはない。
 だからこそ、恐ろしかった。

「お願い・・・返して・・・」

 その声は、もう自分のものではなかった。

「あ・・・なにこれ・・・」

 意識が、霧の中に沈んでいく。
 輪郭がぼやけていく。
 自分の『重さ』が、どんどん失われていく。

 体の奥から、何かが抜き取られていくような感覚。
 それは、魔力だけじゃなかった。

「ま・・・まりょ、く・・・?」

 そう、吸われているのは魔力だった。
 けれど、それだけではない。
 自分という存在そのものが、少しずつ薄れていくような――そんな感覚。

『エナジードレイン』。
 相手の魔力を吸収する技が使われていた。

「ふ、ふざけんな・・・あれって、非接触技だろうが!」

 本来は、離れた場所から魔力を吸収する遠距離系のスキル。
 こんなに密着した状態で使うなんて、聞いたことがない。

 だけど、その位置と雰囲気で気が付いた。

「した、ばら・・・? あ、アイツの逆・・・?」

 それは、カルマの『魔力補充』を『逆再生』したような形だった。

 かつて、自分たちがカルマにしたこと。
 あの時、笑いながら吸い取った“無限の魔力”。

 今、それが。
 自分の中から、無限に引き出されていく。

「やめろ・・・やめろよ・・・!」

 叫んでも、止まらない。
 声が出るたびに、魔力が漏れていく気がした。

 自分の中が、空っぽになっていく。
 でも、空になる前に、『自分』が消えてしまいそうだった。

「これ・・・わたしの番って、こと・・・」

 その言葉に、誰も答えない。
 ただ、静かに、確実に、吸われていく。

 カルマのように、無限ではない。
 だから、終わりがある。

 けれど、終わったとき、そこに『自分』が残っている保証はなかった。

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