『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第27話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ②

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   〈影の薄い男子C——ウノの場合〉

 ウノの背中には、黒くてスマートな虫が乗っていた。
 体長180センチ。
 人間のような輪郭を持ち、異様なほど整った顔立ち。

 イケメンの『キセイバチ』だった。
 キセイとは――寄生のこと。

 彼らは、他の生き物に卵を産みつける。
 それは、彼らにとって『命を託す』神聖な行為。

 今、その儀式が、ウノの背で始まろうとしていた。

 肉体的な損傷は、ほとんどない。
 あったとしても、必要最低限のものだった。
『器』としての機能を損なわないように。

 背中に乗ったキセイバチは、細い腰の先にある腹部を静かに湾曲させ、針を構える。

 その動きは、まるで祈りの舞のようだった。
 冷たく、静かで、どこか美しい。

 ウノは、その動きに共鳴するように、心を委ねていた。
 拒絶の言葉は、もう届かない。

「これは違う」
 そう思った。
 でも、その声は、遠く、波の向こうで揺れているだけだった。

「ふっ、ふんぐぅっ」

 身体と意識が痺れ、ウノの目は虚ろになっていく。
 背中に走る感覚は、痛みではなく、熱にも似た『何か』だった。

 意識の奥に、誰かの顔が浮かびかけた。
 けれど、それは最後まで思い出されることなく、静かに沈んでいった。

 これから彼の目に映るのは――キセイバチの子供たち。

 自分の中で育ち、羽化し、飛び立っていく命たち。

 虚ろな瞳が見つめるのは、命の誕生という神聖な未来なのか。
 それとも、自分がその『拠り所』として選ばれたという事実なのか。

 わからない。
 でも、結果はもう変わらない。

 ウノは思う。

 ――ぼくは、誰かのために生きている。
 それが、誰かの子供でも、虫でも。
 ぼくは、必要とされている。

 それだけで、笑える気がした。

  ◇観察者◇

「協力的だな。ありがたいよ」

 カルマは、画面越しにCの姿を見つめながら、まるで舞台の照明を調整するように、指先で設定を微調整していた。

 ダンジョンレベル18で作成可能なモンスター。
『飼い殺しキセイバチ』の特殊能力だ。

 作成には、大量の『ダンジョンポイント』が必要だった。
 だが、それに見合う『演出効果』がある。

 幸福感を錯覚させる特殊な液体を注入し、対象を『協力者』として導く。
 自ら望んで従う者。
 自ら笑って支配される者。

 搦め手系のモンスターであり、直接の戦闘力は高くない。
 だが、この状態の仲間を目の当たりにした探索者の精神への影響は、計り知れない。

「あれが、幸せそうにしている」「あれが、笑っている」「あれが、必要とされている」

 その『静かな異常』が、次の悲鳴をより鮮明にする。

 いずれ、ウノはキセイバチの子供たちの、優しい世話係となるだろう。
『食事』の準備も、『休息の場』の提供も、彼の役目となる。

 彼の一生は、そのために使われる。
 命を育む。
 意義のある、静かな役割として。

 カルマは、画面を見つめながら呟いた。

「幕間狂言的な静けさだったね。アクロバティックな舞台だけでは疲れるからな。」

 高く飛ぶ演出の前には、低い位置に演者を置くものだ。
 悲鳴がよく響くように。



 ―――思えば、オレはずっと『低い位置』にいた。
 誰にも見られなかった、あの旧校舎の隅で。

 飾り付けだけが揺れていた。
 誰も来なかった。
 誰も、オレを見なかった。

 今、オレは『見せる側』だ。
 誰かが見てしまうように。
 誰かが、忘れられなくなるように。

 ◇

     〈女子A——アイコの場合〉

 隣のテントで一人眠っていた彼女は、アオキの悲鳴で目を覚ました。

 服を整え、装備を身につけ、髪を軽くセットする。

 いつものこと。
 いつもの自分。

 その間に、アオキはすでに倒れていたし、イケダは座り込んでいた。

 ようやく覗いた仲間男子のテント。

 そこにいたのは――セイバチと、静かに寄り添うウノの姿だった。

 その光景が、彼女の『世界』を殴りつけた。

 アイコは尻もちをつき、動けなくなった。
 背中に衝撃が走り、肺が一瞬潰れたような感覚。

「ち、ちがう・・・ちがうぅぅ・・・これ、ちがう・・・!」

 声は震え、喉が裂けそうだった。
 でも、誰にも届かない。

 少し変わった価値観を持つ彼女だった。
『こうあるべき』という理想を、ずっと信じていた。

 だが、この光景には、彼女の思考も崩れていった。

 何が『違う』のか。
 どこが『受け入れられない』のか。

 わからない。
 わからなくなって、壊れた人形のように首を振り続ける。

 その動きは、まるで自分の頭を否定するようだった。

 誰かの名前を呼ぼうとした気がした。
 でも、声は出なかった。
 喉の奥に、何かが詰まっていた。

 それは、言葉ではなく、破片だった。
 自分の価値観が砕けた音が、耳の奥で鳴っていた。

 きっと、呼べる相手がいなかったのだ。
 彼女自身が、それを知っていたのだろう。

 彼女の価値観は、誰かを幸せにしたことがなかった。
 ただ、押しつけて、壊してしまっただけだった。

 それでも――誰か一人くらいは笑ってくれていると思いたかった。

 でも、それもきっと間違いだった。

 自分の価値観を押しつけること自体が、暴力だった。

 髪を整えるときに見た鏡が、ひび割れていた。
 その鏡が映していたのは、彼女の顔。

 でも、そこにいたのは『誰か』ではなかった。
 ただ、壊れた価値観だけが、形を持っていた。

 それは、彼女がずっと信じていた『自分』の形だった。
 そして今、それが『現実』に殴られて砕けた。

 
 でも、それはまだ『概念』上の出来事。

 『実体』は、これから、だった
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