146 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第28話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ③ 前編
しおりを挟む首を振り続けるだけでは、終わらなかった。
彼女は、『価値がない』とはならなかった。
ヴヴヴヴヴヴヴ――。
背後で羽音が響いた。
「え・・・」
脅威を察知して、思わず身をすくめる。
体が浮き上がった。
・・・違う。
体が浮いたのは事実だが、『自分で』飛び上がったわけではなかった。
「え、や、やだ・・・!」
足をばたつかせるが、空中で揺れることはなかった。
両腕が後ろに引かれる。
誰かに掴まれている。
足も、同じように。
宙に浮いた身体は、意思に反して動かない。
そのとき――
「な、なに・・・なに?」
下からも、別の『何か』が近づいてきた。
背中に乗るような形で、彼女の体に重みが加わる。
「ぐ、ぐぎっ・・・」
下の『何か』が手を回し、頭を静かに押さえた。
上と下から、動きを封じられる。
身動きが取れない。
完全な拘束――けれど、痛みはなかった。
ただ、動けないという事実だけが、静かに彼女を包んでいた。
「え? ちょ、え? う、ウソっ! うそぉぉぉぉぉ!」
下にいた『何か』が、長く伸びた腹部を反らし、先端を上へ向けた。
それは、見た目にも不気味で、どこか本能的な恐怖を呼び起こす動きだった。
「な、なんで・・・」
体の内側と外側の境界で、何かが揺れた気がした。
「ひっ・・・」
嫌な予感がする。
だが――
痛みはなかった。
体の表面に、ひんやりとした感触が走っただけだった。
何かが当たり、そこから力が吸い取られていく。
「あ・・・なんだ。当ててるだけか」
刺すとかではない。
体を傷つけられるわけではないのだ。
少しだけ、安堵する。
ただ、先端は魔力の濃い部分。
『命』の近くに触れているようだった。
何かが絡みつき、固定されている。
だが、それ以上の動きはない。
ジェットコースターに乗るときの安全ベルトのような拘束感だ。
だけど、『何か』の狙いは『そこ』ではなく、もっと深い部分――お腹の奥の方。
体の中の『命』・・・魔力を弄られる感覚。
「で、でも・・・これなら、まだ・・・」
不快ではあるが、最悪ではない。
そう思いたかった。
だが——
「・・・っ、あれ・・・?」
体の奥で、何かが『ずれる』感覚。
内側の何かが、ゆっくりと動かされている。
痛みはない。
でも、『自分の中身』が、自分のものじゃなくなっていく感覚。
大切なはずの『何か』が失われていく。
「や、やめて・・・やめてよ・・・!」
声は出た。
でも、誰も止まらない。
誰も、聞いていない。
背中に乗る『何か』が、わずかに体重をかける。
その重みが、彼女の意識をじわじわと沈めていく。
「やだ・・・やだ、やだ・・・!」
叫びは、やがて囁きに変わる。
囁きは、やがて息に変わる。
「ぁ・・・ふぅ・・・」
そして、沈黙になった。
体の中で、何かが『根を張る』ような感覚。
魔力の流れが、別の意志に書き換えられていく。
「あ・・・あれ・・・?」
自分の手が、わずかに動いた。
意思とは無関係に。
目の奥が、じんわりと熱を帯びる。
視界が、少しずつ霞んでいく。
「これ・・・わたし・・・?」
自分の中に、別の『誰か』がいる。
その誰かが、ゆっくりと目を覚まそうとしている。
彼女の中で、何かが静かに入れ替わっていく。
痛みはない。
だからこそ、恐ろしかった。
「お願い・・・返して・・・」
その声は、もう自分のものではなかった。
「あ・・・なにこれ・・・」
意識が、霧の中に沈んでいく。
輪郭がぼやけていく。
自分の『重さ』が、どんどん失われていく。
体の奥から、何かが抜き取られていくような感覚。
それは、魔力だけじゃなかった。
「ま・・・まりょ、く・・・?」
そう、吸われているのは魔力だった。
けれど、それだけではない。
自分という存在そのものが、少しずつ薄れていくような――そんな感覚。
『エナジードレイン』。
相手の魔力を吸収する技が使われていた。
「ふ、ふざけんな・・・あれって、非接触技だろうが!」
本来は、離れた場所から魔力を吸収する遠距離系のスキル。
こんなに密着した状態で使うなんて、聞いたことがない。
だけど、その位置と雰囲気で気が付いた。
「した、ばら・・・? あ、アイツの逆・・・?」
それは、カルマの『魔力補充』を『逆再生』したような形だった。
かつて、自分たちがカルマにしたこと。
あの時、笑いながら吸い取った“無限の魔力”。
今、それが。
自分の中から、無限に引き出されていく。
「やめろ・・・やめろよ・・・!」
叫んでも、止まらない。
声が出るたびに、魔力が漏れていく気がした。
自分の中が、空っぽになっていく。
でも、空になる前に、『自分』が消えてしまいそうだった。
「これ・・・わたしの番って、こと・・・」
その言葉に、誰も答えない。
ただ、静かに、確実に、吸われていく。
カルマのように、無限ではない。
だから、終わりがある。
けれど、終わったとき、そこに『自分』が残っている保証はなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる