『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第29話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ③ 中編

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   ◇観察者(カルマ視点)◇

「はい、魔力補充用容器第一号確保!」


 カルマがパチパチと手を叩く。
 その音は、祝福ではなく、起動音のようだった。

 目の前にいるのは、もはや『人』ではなかった。
 感情の抜けた目。反応のない顔。
 ただ、魔力を生成し、供給するための『器』。

「うん、いい流れだね。これで、迷宮の燃料は安定供給っと」

 カルマは満足げに画面を見つめる。
 彼女の魔力は、一定のリズムで吸い上げられていた。

「あのとき、オレは『補充させられる側』だった。今は、補充させる側。それだけの違いさ」

 人だった頃の彼女の名前は、もう必要ない。
 今はただ、容器としての性能が求められている。

「どれくらい『魔力生成』してくれるか楽しみだな~!」

 多ければ嬉しい。
 少なければ、それなりの使い道を考えるだけ。
 質も量も、すべては『資源』としての価値で決まる。

 何にせよ、自動で『マナポイント』が増える仕組みが構築された。
 彼女は、もう『供給装置』だった。

「補充してあげた分は返してもらったけど、利子はまだだからね」

 カルマは笑う。
 その笑みは、かつて自分が『奪われる側』だったことを思い出していた。

 舞台演出的には、『余韻』と呼ぼうか?

 そう言って、カルマが送り込んだのは――魔力を吸収する『ドレインモスキート』。

 10階層のボス級モンスター。
 蚊の姿をした、吸収特化型の搾取兵器。

 彼女の体に群がり、魔力を吸い上げる。
 皮膚の上に止まり、針を刺し、静かに、確実に、命を削っていく。

「あのとき、オレは『道具』だった。今は、彼女が『装置』になる番だ。」

 カルマの中で、かつての記憶が沈んでいく。 
 誰にも見られなかった、あの旧校舎の隅で。
 笑われ、吸われ、使い捨てられた日々。

 今、彼女が『魔力の供給源』として扱われる姿は――その記憶への、静かな返礼だった。

 かつては『名前』だった。
 今は『数字』だった。

 迷宮は、彼女の魔力を数えていた。
 声ではなく、数値として。
 悲鳴ではなく、出力として。

「いいね。ちゃんと『動いてる』。これなら、しばらくは使えるかな。」

 カルマは、画面を閉じた。
 舞台は次の幕へ。
 彼女は、ただの『装置』として、そこに残された。
 
 カルマはもう一顧だにしない。
 別のことに意識を移していた。

   ◇魔力補充用容器一号視点◇

「こ、の! クソがぁぁぁぁ!」
 無性に腹が立ち、アイコは全力で暴れようとした。

 けれど、何も動かなかった。

「は?!」
 体が震え、全身が強張る。

「な・・・!」
 背後で羽音が響いた。

 振り返ることもできず、ひんやりとした振動が背中に走る。

 ソローッと視線を向けると、ずんぐりとした『黒バエ』から不穏な気配が、静かに彼女の背へと近づけられていた。
 楽観しようとする心の防壁の隙間から、冷たい予感が侵入してくる。

「や、やだ・・・なに、それ・・・やめて、お願い・・・」
 声は震え、目だけが必死に周囲を探す。

 だが、何もできなかった。

「な、なによ・・・なんなの?」

 不穏な気配は誰かの『希望』。
 次に伝える『願い』。
 だけど、彼女には『絶望』にもなりえる不穏さを伴っていた。

 それは武器ではない。
 美しく尊い。
 命の核のようなものが、静かに揺れている。

 それは、誰かの願いのかけらかもしれない。

「ま、まさか・・・」
 アイコは震えながら、『現実』から目を背けて『真実』に目を凝らす。

「これは・・・妄想。そう! BLの妄想なの!」

 自分に言い聞かせるように呟き、意識を守ろうとする。
 それ以外には『あり得ない』ことが行われようとしていた。


 数分後。

 彼女の呼吸は浅くなり、目は虚ろだった。
 まるで、寄せては返す波を眺めるような平穏。
 自然の営みを、自分も一部のように眺めるひと時だ。

 自然の一部となった自分を、夢の中で思い描いていた。
 夢の中では、誰もが笑っていた。
 それが現実じゃなくても、彼女には十分だった。

 体の奥で、何かが静かに満ちていく。
 それは、彼女の記憶を少しずつ押し流していた。

「そうよ。これ、きっと『意味』があるの」

 妄想の世界が、現実よりも優しく見え始めていた。

「私の中で、月が満ちて、波が動く。誰かの役に立つって、素敵でしょ?」

 彼女はそう言って、そっと目を閉じた。
 これから始まる『使命』に向けて、静かに休息を取るように。

 その瞼の裏で、世界が静かに始まろうとしていた。
 それは再起動のためのシャットダウン。

 ――――――――。

「・・・あれ?」

 アイコの意識が、ゆっくりと浮上する。
 けれど、そこにあるのは『自分』ではなかった。

 思考はある。
 記憶もある。
 でも、感情がうまくついてこない。

「怒ってた・・・はず。怖かった・・・はず。でも、なんでだっけ・・・?」

 感情の輪郭が、ぼやけていた。
 まるで、誰かの夢を借りているような感覚。

 体は動かない。
 けれど、それが不自然だとは思わなかった。

「動かないのは当然。私は、動かされる側なんだから」

 その思考が、自然に浮かんだ。
 否定する気持ちは、もうなかった。

 背中に感じる重み。
 体の奥に満ちていく『何か』。
 それらすべてが、『役割』として受け入れられていく。

「私は、補充用の容器。 魔力を生み出し、供給するための装置。それが、私の存在理由。」

 そう思うと、不思議と心が落ち着いた。
 誰かに必要とされている。
 誰かの役に立っている。

「名前なんて、もういらない。数字でいい。私は、『一号』でいい。」

 その瞬間、アイコの中で『自分』が再構築された。
 人としての自我は、静かに解体され、装置としての認識が、その空白を埋めていく。

「私は、ここにいていい。私は、動かなくていい。私は、ただ、満たされていればいい」

 彼女の瞳が、ゆっくりと閉じられる。
 それは眠りではなく、再起動の合図だった。
 次に目覚めたとき、彼女は『一号でいい』とも考えなくなっているだろう。

『器』に思考力は不要だから。

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