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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第26話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ① 後編
しおりを挟む〈ちょっと運が足りなかった男子B——イケダの場合〉
「え? なに、ナニコレ!?」
ワタワタと手足を動かすイケダの前で、アオキの姿が、崩れていた。
ヤバイ! ヤバイ、ヤバイ、ヤバイっ!
慌てて後退り、背中を向けて逃げ出す。
とにかく、遠くへ。
誰か、戦えるやつの後ろに逃げないと。
意志に反して震える手足を必死に動かし、遠ざかろうとする。
だが、その歩みが、突然止まった。
「あ、れ?」
視界がやけに低い。
ちゃんと走っていたはずなのに。
振り返ると、足元に何かが転がっていた。
自分の右足だった。
「ああ、落ちちゃったのか」
乾いた思考で納得し、拾おうと手を伸ばす。
その瞬間、手に走る違和感。
地面に、自分の腕が落ちていた。
「あ、あは。なんで、こんなに・・・落ちるかな?」
右手を拾おうとした左手に、ひびのような痛みが走る。
指先が、もう自分のものじゃないような感覚。
「い、いや、だ。いやだぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫ぶBの前に、何かが落ちた。
それは、かすかに赤く染まった右足だった。
アイアンマンティスが、食べかけのそれを捨てたのだ。
口に合わなかったのだろう。
『おいしくない獲物』と判断されたイケダは、左足などは無傷のまま、見逃された。
石ころのように、興味を持たれない存在。
命としての価値すら、否定された。
「あ。あは、あはっ・・・あははははっ!」
Bの口から、乾いた笑いがこぼれる。
それは、壊れた機械のような音だった。
現実から逃げ出した先で、彼の魂は首を傾げていた。
――誰が笑っているんだろう?
笑える場面じゃないのに。
そして、うっすらと思い出す。
自分がかつて、『笑えない場面』で笑っていたことを。
もしそこにいたのが自分だったら、絶対に笑えなかったはずの場面で。
傷ついた身体を横たえたまま、Bの視界にモンスターたちが映る。
だが、誰一人として彼に目を向けることはなかった。
まるで、そこに『何の価値もないもの』が転がっているかのように。
◇
『うん。こんな感じでいいね』
ダンジョンのステータス画面で、『ソウルポイント』がじわじわと上昇していくのを確認しながら、 カルマは静かに頷いた。
恐怖は、静かに崩れていくのがいい。
一気に壊すのは、素人のやることだ。
じわじわと、笑いの中で削っていく。
それが、『演出』というものだ。
それは、あの教室で誰も来なかった三日間に、オレが学んだことだった。
「悲鳴よりも、笑いの方が深く刺さる。」
なぜなら、笑いは――忘れたはずの罪を、もう一度、思い出させるから。
あの時、オレは笑われた。
誰も来ない教室で、飾り付けだけが虚しく揺れていた。
廊下の向こうから聞こえたのは、沈黙だった。
舞台に『沈黙』があってはならない。
今、オレは『笑わせる側』だ。
滑稽な死に様を演出し、無様な逃走を引き出し、壊れた笑いを引き出す。
「あははははっ!」「なんで、こんなに落ちるかな?」「誰が笑ってるんだろう?」
その声が、いい。
悲鳴よりも、ずっといい。
カルマは、ウィンドゥを見つめながら、まるで舞台の幕を引くタイミングを見計らう演出家のように、指先で軽く、次の指示を打ち込んだ。
「次は、あの子だ。もう少し、笑わせてあげようか。」
喜劇は、まだ終わらない。
観客が『自分の罪』に気づくまで。
役者が役を『おろされる』まで。
パーティは四人。
あと、二人いる。
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