『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
143 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第25話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ① 中編

しおりを挟む
  

 (回想終わり)

 それは、数日前のことだった。

 今、彼らは63階層にいる。
 64階層への挑戦は、主力でなければ許されない。
 生産系のスキルも持たない彼らにできるのは、せいぜい採取作業くらいだった。

 だから、彼らは油断していた。
 自分たちが『選ばれない側』であることに、安心していた。

 襲撃が始まるとも知らずに。
 オレの中が、まだ空のままだということも。
 そして、その空白を埋めようと、何かが静かに満ちてきていることにも。

 それが何かは、まだわからない。
 名前も、形も、感情もない。

 けれど、冷たくて、静かで、確かに『誰か』が、オレの中で目を覚まそうとしていた。


『ここにいる』『まだ終わっていない』『まだ、始まってもいない』

 そんな気がしていた。

 そして、迷宮は静かだった。
 まるで、その目覚めを待っているかのように。

   ◇

  〈幸運な男子Å——アオキの場合〉

「う、うわぁぁぁぁ!」

 悲鳴が響いた。
 それは、誰に届くこともない、ただの音だった。

 目の前に迫るのは『アイアンマンティス』。
 鉄の鎌を構えた、体高2メートルの巨大なカマキリ。
 その姿は、まるで処刑人のように静かだった。

 かつて8階層で主敵だったモンスター。
 武装さえ整っていれば、戦闘職なら難なく倒せる相手。

 だが、彼は寝間着姿だった。
 安全ポイントだと信じて、無防備に眠っていた。

 武器も防具も、毛布の下に埋もれて見つからない。
 手を伸ばすたびに、布の感触しか返ってこない。

「ひっ、ひぃぃぃぃ!」

 思考は逃げろと叫ぶ。
 だが、体は寝起きで動かない。
 まるで、夢の中のように。

 足元に広がる水たまり。
 それは、恐怖が限界を超えた証。

 その瞬間、視界がくるりと回転する。
 何が起きたのか、理解する前に、世界が裏返った。

 意識は、床に落ちた水たまりの中で止まった。
 静かに倒れ込む身体。
 その周囲に、赤い液体がじわじわと広がっていく。

 水と赤が混ざり合い、鏡のように揺れる。

 その鏡の中で、彼の耳に残ったのは──誰かの笑い声だった。

 それは、かつて誰かを踏みつけた時の、自分の笑いに、よく似ていた。

   ◇

『あ。ダメだろ。いきなり終わらせるのはなし!』

 ウィンドウ越しに見ていたカルマが、眉ひとつ動かさずに指示を飛ばす。

 決定打は、最後の一手にしたかった。
 驚きは一度きり。
 だからこそ、使いどころを誤るのは『演出ミス』。

「もったいない!」

 あれは、もっと引き伸ばせた。
 恐怖の余韻が、まだ熟していなかった。
 観客の心が震えるまで、あと数手は必要だった。

 カルマは、モンスターへの行動指示を簡潔に、確実に行う。
 それは、まるで舞台監督のような手際。

 画面越しに『舞台』を見守る目は、感情ではなく、構成を見ていた。

『悲鳴のタイミングが早すぎる』『足元の水たまり、もっと広げて』『照明、暗く。影を強調。』

 次の『演出』を練ることに余念がなかった。
 人間の死は、ただの素材。
 その使い方次第で、迷宮の『価値』が変わる。

「死ぬのはいい。でも、『どう死ぬか』が重要なんだよ」

 カルマは、そう呟いた。
 誰に向けた言葉でもない。
 ただ、迷宮に響かせるための独り言。

 画面の中で、探索者が震えていた。
 その震えが、どこまで持つか。
 どこで崩れるか。
 どんな音を立てるか。

 それが、カルマの関心だった。


 「…………」

 その背後で、あられもない格好の女子が、カエル座りのまま、じっと彼の背中を見つめていた。

 視線は合わない。
 でも、確かにそこにいた。

 彼女の目は、どこか焦点が合っていなかった。
 まるで、現実と記憶の狭間を漂っているように。

「私が・・・私たちが、そう、させたんだよね?」

 誰にも聞こえない問いかけ。
 答えを求めているわけじゃない。
 ただ、口に出さずにはいられなかった。

 相手が誰かを思い出した時、胸の奥に、冷たい何かが落ちた。

 彼を、自分は──自分たちは、昨日『殺した』のだ。

「あの時、笑った。あの時、見下ろした。あの時、何も感じなかった。」

 今さらではあるが、体が、勝手に震えた。

 寒さではない。
 恐怖でもない。

『取り返しのつかなさ』が、骨の奥を叩いていた。

 彼女の指先が、わずかに動いた。
 何かを掴もうとして、空を切った。

 そこにはもう、何もなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...