『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第45話 学園祭を待ちわびる影 ~旧校舎の『ナニカ』、祭りを夢見る~中編

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 中は、まるで時間が止まったように、あの日のまま、机と椅子が並んでいた。

 でも、何かが違う。
 空気が、重い。
 まるで、誰かがまだそこに座っているような気配。

『ナニカ』は、静かに歩を進める。
 食室の床に、ぽつんと落ちていたのは――白いハンカチだった。

 端には、小さな刺繍で名前が縫い込まれている。
 けれど、その名前は、どこか読み取りづらく、まるで時間がその文字を少しずつ薄くしていったようだった。

 ハンカチは、何かを包むように、そっと結ばれていた。
『ナニカ』は、静かにその結び目をほどく。

 中から現れたのは、微妙な表情のフェルトのマスコット。
 目は左右で大きさが違い、口元は笑っているのか、泣いているのか、曖昧だった。

 不器用な縫い目。ほつれかけた耳。
 けれど、そこには確かに『手のぬくもり』が残っていた。

『ナニカ』は、そっとそれを拾い上げようとした。
 手を伸ばした瞬間、ふいに―― ツンと鼻を突く、消毒液の匂いが立ちのぼった。

『ナニカ』は、ぴたりと動きを止める。
 その匂いは、あまりにも鮮明で、まるで今しがた誰かが使ったかのよう。

 次の瞬間、足音が再び動き出した。
 今度は、急ぐように、足早に。

『ナニカ』は導かれるまま、後を追う。
 廊下を曲がり、階段を上がり、たどり着いたのは――保健室。

 扉は半開き。
 その隙間から、白いカーテンだった布が、風に揺れているのが見えた。
 まるで誰かが、そこに隠れているかのように。

『ナニカ』は、そっと中を覗き込む。

 ベッドが三つ。
 そのうちの一つ、中央のベッドのシーツに、深く刻まれた皺。
 そこには、誰かが泣いた記憶が染み込んでいる。

 声を上げることもできず、ただ枕を濡らし続けた涙。

 その涙は、時に血の味がした。
 噛みしめた唇の奥に、言葉にならなかった痛みがあった。

 白いシーツの奥で、今も微かに――その痛みが、うごめいている。

『ナニカ』は、そっと手を伸ばす。
 カーテンの向こうに、何がいるのかを確かめるために。

 ・・・その手が布に触れた瞬間、ベッドの下から、何かが――音もなく、這い出してきた。

『ナニカ』の指先に、ふわりと何かが触れた。
 それは――布。
 柔らかく、でも冷たい。

 見えなかった。
 けれど、確かにスカートの裾が、掌を掠めた。

 その瞬間、空気が震えた。
 足音が、再び響き出す。
 今度は、軽やかで、どこか楽しげなリズム。

 コツン、コツン――

『ソレ』は、もう保健室にはいなかった。
 足音は、廊下を抜け、階段へと向かっていく。

『ナニカ』は、わずかに息を呑んだ。
 その足音には、懐かしさと、恐ろしさが混じっていた。
 まるで、かつての誰かが、「また一緒に遊ぼう」と誘っているような――そんな音。

 階段の上から、風が吹き下ろしてくる。
 白いカーテンが、名残惜しそうに揺れた。

『ナニカ』は、ゆっくりと階段へ向かう。
 その先に待つのは、過去か、幻か、それとも――。

 階段を上る。
 一段ごとに、軋む音が違う。

 ギィ……ギシ……ギィ……

 その音は、まるで校舎が誰かの名前を呼んでいるようだった。
 懐かしい声。
 忘れたはずの呼びかけ。
 それが、木の階段の奥から響いてくる。

『ナニカ』は、静かに耳を澄ませながら、一歩ずつ、音の名前を踏みしめていく。

 二階の廊下に出ると、ふと立ち止まった。

 窓の下――そこに、誰かの影が残っていた。
 それは、もう存在しないはずの『誰か』の気配。

 窓辺に立ち、ずっと眼下の光景を見つめていた者。
 校庭の隅、鉄棒の錆、砂場の跡。
 けれど、その目は――見えない光景を見ていた。

 誰にも見えない、誰にも語れない、けれど確かにそこにあった『何か』を。

『ナニカ』は、そっと窓に近づく。
 影はもう消えていた。
 けれど、ガラスには、うっすらと手の跡が残っていた。

 冷たく、細く、震えるような跡。

 それは、ここにいた『誰か』が、最後に残した、願いのかたちだったのかもしれない。
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