『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
162 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第44話 学園祭を待ちわびる影 ~旧校舎の『ナニカ』、祭りを夢見る~前編

しおりを挟む
 

 制服姿の妖怪たちが集う、奇妙で愉快な迷宮。
 それは、かつて誰にも見られなかった『教室の隅』で、ひとりきりで夢見た祭りだった。

 その瞬間——

 旧校舎で教室の空気が、わずかに揺れた。
 時計の針が、止まったまま震えた。
 黒板の端に置かれたチョークが、ほんの少しだけ転がった。

 静まり返った教室で、『ナニカ』が、静かに目を開けた。
 その『ナニカ』は、確かに、祭りの匂いを知っていた。
 

 迷宮では、制服姿の妖怪が笑っていた。
 その笑いが、旧校舎の窓を、ほんの少しだけ震わせた。

 空っぽの教室。
 でも、黒板の前に、一冊のノートが開かれていた。
 ページには、震えるような文字で、模擬店の企画が書かれていく。

「お化け屋敷」「焼きそば」「占いの館」「迷宮の宝探し」

 その文字は、どこか懐かしく、どこか幼い。
 でも、確かに『誰か』が書いていた。

 ノートのページが、風にめくられていく。
 その先に、最後のページが現れる。



 —来場者の皆さまへ—

 ・旧校舎は、現在使用されておりません。

 ・廊下の軋みは、誰かの記憶です。
 踏みしめる際は、静かにお願いします。

 ・旧校長室には入らないでください。
 鍵は開いていても、心は閉じています。

 ・図書室の奥には、貸し出し記録のない本があります。
 読まないでください。それは存在していないからです。

 ・音楽室のピアノは、誰かが弾いていた記憶です。
 音楽が流れても、拍手は不要です。

 ・制服の試着は一度だけ。
 二度目は、戻れないかもしれません。

 ・迷ったときは、階段を数えてください。
 数が合わなければ、夢です。

 ・帰るときは、名前を思い出してから。
 忘れたままでは、帰れません。

 楽しい祭りになりますように。

 最後の一文。
 少しだけ、文字が滲んでいた。

   ◇

『ナニカ』は、給昇降口の扉が、音もなく開いた。
 誰もいないはずの旧校舎に、『ナニカ』が入ってくる。

 靴箱の列。
 名前の札は、すべて色褪せていた。

 廊下の窓には、夕方の光が斜めに差し込んでいる。
『ナニカ』は、一歩ずつ、ゆっくりと歩いていく。

 その足音は、まるで水面に落ちる雫のように静かで、けれど確かに響いた。

 靴箱の前で立ち止まる。 そこには、いくつもの古びた上履きが並んでいた。
 黄ばんだ布地、剥がれかけたゴム底、つま先に残る泥の跡。
 どれも、長い間忘れられていたことを物語っている。

 だが、その中に――ひときわ異質な一足があった。

 片方だけ、まるで昨日置かれたかのように、真新しいまま。
 白く、清潔で、ほこり一つない。
 まるで誰かが、今もそこに通っているかのように。

『ナニカ』は、その靴の前で立ち止まり、じっと見つめた。
 そして、ゆっくりと手を伸ばす。

 ――その瞬間、廊下の奥で、かすかな足音が響いた。

 カツン、カツン。

 誰もいないはずの旧校舎に、もう一つの気配が忍び寄る。

 足音が、『ナニカ』の目の前までやってきた。
 けれど、そこには誰の姿もない。

 ただ、確かに――そこに『何か』がいた。
 空気が揺れる。
 温度が変わる。
 見えない存在が、『ナニカ』を見つめている。

 足音は一度、ぴたりと止まった。
 まるで『ナニカ』を見定めるように。
 そして、静かに踵を返す音。

 コツン、コツン……。

 足音は、廊下の奥へと遠ざかっていく。
 だが、数歩進んだところで、また止まった。

 静寂。

 まるで、「ついてこい」とでも言いたげに。

『ナニカ』は、しばし立ち尽くした。
 そして、ゆっくりと、靴箱の前を離れる。

 コツン。コツン。

 その足取りは、先を行く音に重なるように、まるで呼吸を合わせるように、静かに、確かに、後を追った。

 夕陽が差し込む廊下に、二つの影が――いや、一つの影と、影にならない『ナニカ』が、並んで歩いていった。

 その先にあったのは、食室だった。
 足音は、扉の前でぴたりと止まる。

『ナニカ』も立ち止まり、ほんの少しだけ首を傾けた。
 扉の向こうから、かすかに漂ってくる匂い――それは、焦げたパンの香ばしさと、味噌汁の湯気に混じる、懐かしい匂い。

 記憶の底を、そっとくすぐる。
 遠い昔、誰かと笑い合いながら食べた昼食。
 あの頃の温もりが、ふいに胸を締めつける。

「・・・おかわり」

 誰かの声が、ふと耳元でささやいた。
 それは風の音か、記憶の残響か。
 あるいは、もう一度『ここで食べたい』と願いながら、叶わぬまま消えていった者の、最後の言葉だったのかもしれない。

『ナニカ』は、そっと扉に手をかけた。
 冷たい金属の感触が、現実を引き戻す。

 ――ギィィ……

 扉が軋む音とともに、食室の中へと、一歩踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

処理中です...