『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第43話 新『属性』~河童、ただいま仕込み中~

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 『サブマスターのドロップアイテムを回収しています。使用しますか?』
 「ドロップアイテム?」
 『サブマスター討伐時のレアドロップアイテム『副将の椅子』には、サブマスター枠を+1の効果があります。使用すれば、サブマスターを二体作れます』

 「おお。それはありがたいね。早速使用しよう」
 「『副将の椅子』を使用しました。サブマスター枠が2です」

 『ダンジョン』のステータス画面に『サブマスター』の枠が二つ並んだ。
 ここに任意の相手を入れれば『サブマスター』に任命できる。

 「よろしい。では、サブマスター候補『仁科悠』・・・」
 目の前の現状で唯一の部下を見た。
 ハタと止まる。

「いや。名前も変えようか。いいかな?」
 人間の名前のままというのもおかしい気がするのだ。
 本人に確認をとろう。

 「・・・そうね。いいんじゃないかな」
 『仁科悠』ではなくなるのだからと、コントラストを失くした目で答えてくれる。

 許可を得た。
 よし、これで決まりだ。

 カエルからの『妖怪化』。
 当然に水だろう。

 新たに湧き上がるイメージ。
 池ではなく。
 沼ほど重くない。
 『沢』だ。

 そして、色。
 カエルだし・・・。

 「なら、サブマスター候補『沢辺みどり』ちゃんの製作に入ります!」
 宣言して、製作スタートだ。

 ベースは『仁科悠』。
 その肉体と記憶に、異質な要素を塗り重ねていく。
 まるで、まだ温もりの残る粘土をこね直すように。
 彼女の『人間だった痕跡』を、少しずつ、少しずつ、塗り重ねていく。

 で、結局何を作るのかと言えば『河童』である。
 水の妖怪と言えばこれだろう。
 最近は『アマビエ』も人気だけどね。

 「カエルも『虫』枠なんだよねー」
 それこそ、家ネズミなんかも虫扱いだからね。

 要は『昆虫』も含めて『小さい生き物』全版を『虫』と呼ぶらしい。
 本にもよるから厳密な定義ではなく、緩い分類法ってことなのだろう。

 というわけで、手足の水かきと肌はアマガエルさんのデータを転用。
 目もかな。
 水生生物使用だ。

 「おお。質感が安定してるね。見た目も滑らかでいい感じ」
 カエルさんを触っても、そんな風には思わないだろうが、女子高生仕様になると、肌の質感がしっとりしていて、見た目にも柔らかくていい感じ。

「くっ・・・」
 小さく漏れた声は、痛みではなく、恐れだった。
 それでも、彼女は逃げなかった。
 逃げられなかった。

 肌が変わるたび、みどりの身体がぴくりと震える。
 ぬるりとした感触が、彼女の皮膚を覆っていく。
 目の色が、じわりと変わる。
 まるで、内側から別の何かが覗いているように。
 
 「人間バージョンに戻してみて」
 非戦闘時バージョンの素肌と比べてみる。

 「甲乙つけがたいね」
 女子肌のすべすべ感もいいけど、カエル肌のやわやわつるつる感もいい。
 
 
 あとは、『河童』と言えば頭の皿と背中の甲羅だが・・・。
 皿はちょっと保留して、甲羅から。

 手元にあるデータは『虫』。
 『亀』とかあるかな?
 さすがに無理があるか?

『虫型モンスター』の一覧が載った『『カタログ』にも入っていない。
 ミドリガメなら『虫』の定義に入りそうなものだけど。
 ・・・見当たらない。

 「んー。タガメの外骨格で形を整えよう」
 脱着式だ。
 身体改造ではなくコスチューム。
 出番が来ると着替えて出動するモンスター。

 『仁科悠』バージョンから『沢辺みどり』バージョンになる。
 更衣室というか舞台袖でコスチュームを身に着けて舞台に上がる。
 早着替えのある舞台劇って感じ。

 スポットライトが当たるように、甲羅がきらりと光る。
 まるで舞台の主役みたいだ。

 いいね!
 学園祭的雰囲気がある。

 「で、懸案のお皿をどうするかだな」
 考えながら、もう一度『カタログ』を開く。
 砂漠の方に水を溜めるというか空気から水を得る虫がいたはずなのだ。

 「おお。あるある」
 硬い羽根である鞘翅を風に当てることで水を手に入れるという虫だ。
 これを利用する。
 甲羅で受けた風から水分を取り出して、頭の上に貯めるのだ。

 肌がカエルバージョンに変化した『沢辺みどり』が、タガメ製の甲羅を背負う。
 頭に水を集める皿をかぶって・・・。

 「あ、なんか涼しい?」
 頭の上に水がたまる感覚に、みどりが声を上げた。

 「よし。完成だ!」
 全体を眺める。

 「おお。いいね。可愛いよ」
 完成した『河童』は、ほぼ仁科悠のままだ。
 
 ただし、『河童』要素は詰め込んだ。
 どこに出しても恥ずかしくない『河童』がそこにいる。

 肌の色も今は色白な普通の日本人。
 ただし、戦闘時にはちゃんと緑色になる仕様だ。

 「学校の指定制服付きだよ」
 ダンジョン素材からなる迷宮探索用装備に制服があるからな。
 それを再現してある。

 オーソドックスなブレザーだ。
 白いワイシャツに、紺色の上着とスカート、ネクタイは赤。
 性能は・・・戦闘になってのお楽しみ。

 「あ。ありがと」
 ホッとした顔で、たぶん初めての笑顔を見せてくれた。
 学校にいるときにも見たことの無かった表情だ。
 
 でも・・・。
 なんか楽しい。

 制服姿の河童。
 なんていうか、学際の出し物でお化け屋敷やりますって感じに見える。

 ちょっと憧れてたんだよなぁ。
 アニメとかであるだろ?
 メイド喫茶とかお化け屋敷とか。
 ああいう出し物系をやるの。

 「河童でも似合う、かな?」
 制服に袖を通した悠——『沢辺みどり』が袖口やスカートのひだをつまんで呟いた。
 まるで文化祭の舞台に立つ主役みたいに、甲羅がきらりと光る。
 スポットライトが彼女の変身を祝福しているようだった。

 「かなりイケてる。可愛いよ!」
 追従ではなく、素で口に出た。

 「っ・・・・!」
 それが分かったのだろうか?
 みどりは胸元をぎゅっと抱きしめ、小さく足踏みをした。
 嬉しさを隠しきれないように。

 「決めた! このダンジョンの新しい『属性』は『学園祭』だ!」
 校長も『ダンジョン祭』に向けた行事として、このレイドを企画したんだし。
 オレ得の、オレが愉しい、学園祭にするのだ!

 制服姿の妖怪たちが、笑顔で来訪者を迎える。
 その笑顔の奥に、どこか空虚な光が宿っているとも知らずに。

 奇妙で、愉快で、どこか不気味な迷宮。
 それは、誰かの夢であり、誰かの悪夢だった。

 それは、誰にも見られなかった教室の隅で、ひとりきりで夢見た、静かな祝祭の芽吹き。
 今、ようやくその夢が、音を立てて動き出す。
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