『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第118話 仮面デート ~背中合わせの抱擁~ 前編

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『城野敦』——カルマは、サブリーダーの手を取った。
 その瞬間、指先に伝わる微かな湿り気。
 彼女の体温が、じわりと染み込んでくる。
 周囲の視線がざわめく。
 それすら、舞台装置の一部。

 彼は微笑んだ。
 その笑みは、毒の膜でできていた。

「君の瞳、星よりも綺麗だね」
 口にした瞬間、彼の心はそっぽを向いた。

 星なんて見たこともない。
 彼女の瞳は、利用価値のある器官にすぎない。
『呪い』を注ぎ込むための、ただの窓。

 サブリーダーは、カルマの腕に絡みついた。
 肩に頭を預け、吐息を混ぜるように囁く。

「こんなにドキドキするの、初めてかも……♡」

 でもその心は、冷えきっていた。
『演技力なら私の勝ちね』
 この男の目が、どこを見ていないかくらい、すぐにわかる。

 二人は、互いに愛を囁きながら、互いの心は、別の場所を見ていた。

 サブリーダーは、証拠の元データを手に入れるために。
 カルマは、サブリーダーに『呪い』を仕込むために。

 指先が触れ合うたび、毒がすり替わる。
 吐息が交わるたび、罠が深まる。

 それは、恋人のふりをした――毒と呪いの交換会。

 ◇サブリーダー視点◇

 背中を彼の胸に預け、斜め下から顔を見上げる。
 この角度。
 この距離。
 この温度。

 彼から見れば、私は『見下ろす対象』。
 支配していると錯覚するポジション。
 でも、実際に支配されているのは――彼の意識の方。

 制服の胸元から立ち上る香り。
 調香された体臭とリップの甘い匂いが、彼の鼻腔をくすぐる。
 艶を帯びた唇が、彼の作文に登場した『理想の女』を呼び起こす。
 その理想は、私が演じてあげているだけ。

 スルリと腕を伸ばし、彼の首に触れる。
 指先が、喉の脈をなぞる。
 顔が近づき、空気が重くなる。
 互いの吐息が交差する。

 その瞬間、動いたのは感情じゃない。

 計算。

 さぁ、触れてみなさい。
 この輪郭の細さが、あなたの手に収まったような錯覚を生む。
 でも、それは幻。
 握ったつもりで、握られているのはあなたの方。

 この空間に、他者の声は届かない。
 二人だけの静寂が、世界のすべてになる。
 あなたの世界は、私の演技で満たされる。

 これは、あなたが描いた夢。
 けれど筆を握っていたのは、最初から私。
 天運も舞台も、すべて私の手のひらの上。

 さぁ、今だけは、私があなたの世界のすべて。
 その錯覚に浸りなさい。
 その甘さが、後に残る苦味を際立たせるから。

 あなたが持つそのデータ、その価値なら認めてあげる。
 儀式を終えなさい。
 形だけの抱擁と、意味を持たない小さな接触。
 それで幕は下りる。

 あなたは差し出し、私は立ち去る。
 夢の終わり。
 そして、計画の始まり。

 あの女は、もう逃げられない。
 感情の泥に足を取られ、静かに沈んでいく。
 その様子を見届けるために、私は冷静さを取り戻す。

 あなたは、そのための冷や水。
 ちょうどいい温度で、私の心を冷やしてくれる。

 情熱が強ければ強いほど、私は静けさを取り戻せる。
 快楽の熱を、あなたの存在で冷ます。
 そうして、ようやく『私』に戻るのよ。

 準備は整った。
 あとは、あなたがどう『使える』かを見極めるだけ。

 一葉に届く言葉は、私の手で研ぎ澄まされる。
 道具は、磨いてこそ価値がある。
 そして、使い捨てるからこそ美しい。

 ◇カルマ視点◇

 彼女が背中を預けてくる。
 斜め下から見上げるその顔。
 オレから見れば、彼女を見下ろす態勢。

 優越感を抱かせるための演出だろう。
 だが、それはオレにとっても好都合だ。
 この角度なら、彼女の呼吸のリズム、体温の揺らぎ、瞳孔の開き具合まで、すべて観察できる。

 胸元が強調されている?
 どうでもいい。

 オレが注目しているのは、香りの変化と筋肉の緊張。
 制服越しに伝わる熱。
 髪が首元で揺れるたび、『虫』が皮膚の隙間から染み込んでいく。

 潤んだ瞳。
 艶めく唇。
 リップの香りが、記憶の底をくすぐる。

『あの作文』に描かれた理想の女。
 だが、オレにとって理想など不要だ。
 理想は、利用するために存在する。

 彼女が腕を伸ばし、オレの首に触れる。
 その指先の温度。
 呼吸が交差し、空気が重くなる。

 彼女は『仕掛けた』つもりだろう。
 だが、オレはその仕掛けの中に、さらに毒を仕込む。

 触れてみろと言われた瞬間、オレは応じる。
 ウエストの細さ?
 そんなものは錯覚だ。
 オレが握っているのは、彼女の油断と、心の隙間。

 この空間に、他者の声は届かない。
 二人だけの静寂。
 それこそが、『感染』の最適条件。

 彼女は自分が筆を握っていると思っている。
 だが、オレはその筆先に、呪いの毒を塗っておいた。
 彼女が書く言葉は、すでにオレの意志をなぞっている。

 彼女が世界のすべてになったと錯覚するその瞬間。
 オレは、目的を完了させる。

 彼女の中に残る『至福の記憶』は、後に疼く毒の種。
 甘さの中に、じわじわと苦味が広がる。

 データを渡す。
 形だけの抱擁に応じる。
 意味を持たない接触?
 いいや、それこそが意味を持つ。

 夢が終わり、オレの計画が始まる。
 彼女は泥に沈む。
 感情の沼に囚われ、動けなくなる。

 彼女の震え。
 浮ついた心。
 それを引き戻すのが、オレの役割。
 冷たい現実で、彼女の熱を封じる。

 彼女の感情が泡立つたび、オレは『感染』を強化する。
 情熱が強ければ強いほど、術は深く染み込む。
 そして、彼女は『自分』を見失う。

 準備は整った。
 あとは、彼女がどう『使える』かを見極めるだけ。

 一葉に届く言葉?
 それは、オレの計画の始まり。
 彼女の声を通して、オレの毒が広がる。

 道具は、磨いてこそ輝く。
 そして、壊れる瞬間こそが、最も美しい。
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