α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ

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幼少期編

面倒なお願い

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「は?第一王子殿下のご学友?」



 騎士団の統括団長として働いている父は忙しい。なにせ、近衛騎士団、王都騎士団、国境騎士団など、すべての騎士団の総まとめをする立場なので。
 そんな父が珍しく俺に用があると言うから何かと思えば。
 レオンのこともそうだけど、父は俺をなんだと思っているんだ。俺は普通の子供だぞ。

 レオンのことはまだいいよ。俺が粗相したり性格が合わなかったとしても公爵様がそれで俺を罰することはないってわかってたからな。
 じゃなきゃ王都のタウンハウスに滞在している貴族の内、子持ちがごっそりいなくなることになってただろう。

 レオンはギフテッドで知能指数が高いから、俺みたいな前世持ちじゃないと話が合わなくてつらい。それはわかる。でも、王子様はそうじゃないじゃん。
 どうせ騎士団に入ったら王子殿下と関わることになるのに。ご学友までもなんて、めんど、んんッ!堅苦しい。
 レオンみたいな子供ならまだいいけど、王子殿下って普通の子供でしょ?それも、確か俺の一つしただったはずだ。
 この年頃の一歳差はデカいんだぞ。知能的にも体格面でも。なのに、子供の世話をするのはなぁ。

 

 レオンと交流を持つようになってから、俺は同年代の子供と関わるのが正直億劫になってしまった。
 だって、誰と話してても「あー、レオンならこんなことにならないのにな」って瞬間が多すぎるのだ。
 一話せば十を知るレオンに対し、他の子は一から十どころか百まで話さなきゃならないんだもの。

 明らかに不服そうな顔をしているのだろう。父が苦笑いを浮かべてため息をつく。
「カイル。不敬だぞ」
「はぁ、まぁ王子殿下の前ではこんな顔しないけど」
「何が不満なんだ?光栄なことだろう?」

 そう言われても。

「つまりは子守でしょう?」
「不敬だぞ」
「はぁ」

 いけないな。レオンと一緒にいるから贅沢になってしまったかもしれない。
 レオンと会う前なら、普通に頷いていたんだろうけどなぁ。

 ま、これも高位貴族としての義務だと思わなければ。



「まぁ、いいですよ。父上も陛下から頼まれたら断れないでしょうし。雇われって大変ですねぇ」
「騎士団統括団長を捕まえて雇われって、お前なぁ……。お前の未来の姿でもあるんだぞ?」
「はぁ。じゃあ、今の内から王子を手なずけます」
「不敬だぞ?」

 コラ、と軽く拳で頭を小突かれた。
 まったく痛くないあたり、息子にほんとに甘い人だ。

「それにしても、第一王子殿下は俺の一つ下でしょう?なぜ今学友探しなんです?」
「陛下がエルヴェール公爵子息とお前の話を聞いて、お前たちが幼年学校に入る前に交流を持たせておきたいそうだ」
「うへぇ、めんどくさぁ」
「コラ!」

 先ほどよりも、少し強めに小突かれた。




 
 そんなやり取りがあってすぐ。
 まってましたと言わんばかりに王妃主催のお茶会が開催され、俺のところにも招待状が届いたのだ。
 招待状を見る限り、どうやら俺とレオンだけではなく他の貴族子息にも声がかかったらしい。父に聞いたが、今回は令嬢を呼んでいないそうだ。
 まぁ、王子殿下はバース性を置いとけば男だ。女を呼んだら婚約者候補かと周囲がうるさいんだろうなぁ。



 そう日が経たないうちに王宮で開催されたお茶会。
 今回は王妃が主催とはいえ、子供たちばかりで集まる場。公的なお茶会ではなく、王妃の私的なお茶会という扱いになる。
 王宮までは仕事のある父と一緒にやってきたが、サロンまでは一人で向かうことになった。



 女官に案内されるまま、王宮の王妃宮のサロンへと向かう。
 さすが王妃宮と言うべきか。廊下に並ぶ調度品の一つ一つが素晴らしい。
 サロンの前にたどり着くと、随伴していた女官が扉係に声をかけた。

「ラジェルド侯爵子息、カイル・ロヴェリウス・ラジェルド様です」
「ようこそお越しくださいました。王妃陛下はまだお見えではございませんので、どうぞお入りになりお待ちくださいませ」



 サロンの扉が開かれると、すでに四名の子息が長テーブルに着席していた。
 彼らは、俺が部屋に入ると慌ててその場で立ち上がり、礼をする。
 俺もそれに返すように簡単に会釈だけして席に向かった。

 どうやら、残るは俺とレオンだけだったらしい。今は俺の前の席だけが空いている。



 俺が席に着くと、それを見て再び腰を下ろした子息たち。その中の、俺の斜め前の席の男の子に話しかけられた。

「あの、ラジェルド侯爵家のカイル様ですよね?僕はラヴォーレ侯爵家のアドリアンです。お話してみたかったので、お会いできてうれしいです」
 ラヴォーレ侯爵家というと、確か王妃付き王宮侍従長の家のはずだ。
 なるほど、彼はその流れで呼ばれたのだな。
「アドリアン様、ありがとうございます。改めまして、カイルと申します。私も貴方にお会いできて光栄です」
「こうえい……」
「……嬉しいです、と言う意味です」
「!そうですか、ありがとうございます」

 うーん。レオンと比べてはいけないのだけれど、レオンで慣れた身ではこの会話のテンポがもどかしい。まだ何かを話したげにしているアドリアンには悪いけどね。


 さて、どうやって時間をつぶそうかと考えていると、扉付近の女官たちが動くのが見えた。おそらくレオンだろうと思いつつ扉が開くのに合わせて立ち上がると、他の子供たちはきょとんとした顔で俺のことを見上げている。
 しかし、すぐに再び扉が開いたのだと理解して慌てて立ち上がっていた。
 
 パッと見たところ、みんな俺とそう年が変わらない。となると、五歳から七歳の子供である。その年齢を考えると、多少の無作法は仕方がないのかもしれないな。



 入ってきたのはやはりレオンで、綺麗な顔をピクリとも動かさずに氷のように張りついた表情をしていた。多分、俺と同じく王子殿下のご学友イコールお守りって認識なんだろうなぁ。
 特に、レオンは散々同じ年頃の子供たちとの交流でストレスため込んできてたから。よほど今回のお茶会が不服らしい。

 流石に、そんな表情のままレオンをお茶会に参加させるわけにはいかない。
 しょうがないので、少しでも表情を和らげられないかと思って小さく手を振ると、先ほどまでの氷のような冷たい顔は何だったのかと言いたくなるほど朗らかな笑みを浮かべた。

「カイル!」
「レオンハルト様、こちらでお会いできることを楽しみにしていました」

 一応半分公の場なのでレオンではなくレオンハルト様と呼んだのだが、それが気にくわなかったらしい。レオンは俺の側にやってくると、手を握ってきた。
「その呼ばれ方は嫌だ」
 キュッと眉根を寄せたその表情に、思わず笑いだしそうになる。こういうとこは子供っぽくて可愛いんだけどな。
「ん、まぁ、王妃陛下や王子殿下がいない時だけな」



 さて、レオンが到着したことで、お茶会の参加者全員がそろったことになる。
 再度腰を下ろしたけれど、いつ王妃陛下たちがいらっしゃってもおかしくない。


 と、考えていると、扉の前で待っていた女官が一歩前に出て、澄んだ声で告げる。



「王妃陛下におかれましては、ご到着あそばされました!」



 部屋の空気が一瞬で引き締まる。真っ先に俺とレオンが立ち上がり、一拍遅れてから他の子供たちも立ち上がりはじめた。
そしてサロンの扉がゆっくりと開かれると、王妃陛下が絹のドレスを纏い、背筋を伸ばして優雅に歩いてくる。
俺の母親も侯爵夫人と高位貴族にあたるが、やはり王妃は別格だ。美しいというより、気品の塊みたいな人だった。


「皆さま、お忙しい中、ようこそお集まりくださいました。こうして未来を担う若き方々とお会いできますこと、大変嬉しく存じます」


 朗らかな微笑みと共に、王妃は俺たちを見渡した。さすがと言うべきか、レオンは王家の血を引いているので慣れたように礼をする。
 俺も、イレーネ公爵夫人との交流が無ければもっと無様を晒していたかもしれないな。
 俺たち以外の子供たちは、かわいそうなほ固まっていて、かろうじて礼を返していた。

 王妃はそんな俺たちの様子ひとりひとりに目を向けながら、優しい声で挨拶を続けていく。


「ラジェルド侯爵子息、カイル様。ご尊父には日頃より、王国の騎士団をご統率いただき、心より感謝しておりますわ。貴方もそのご子息にふさわしく、堂々としていらして安心いたしました」


 少し微笑んでくれた王妃の言葉に、軽く会釈を返す。
 次に視線がレオンに向かう。


「そして、エルヴェール公爵子息、レオンハルト様。陛下から貴方の聡明さについてお話を伺いました。とても興味深く、将来が楽しみですわ」


 レオンは相変わらず無表情で「光栄です」と短く答えるだけだったが、その態度ですら堂に入っているのだから流石だな。
 気負った様子もなく、むしろリラックスしているようにさえ見える。
 今ばっかりはレオンのことが羨ましい。

 王妃陛下の隣にいる第一王子殿下は、かろうじて王妃陛下に引っ付いていないが、王妃陛下の豪奢なドレスの影に体を半分隠してこちらを窺っていた。
その手はぎゅっと母親である陛下のドレスを掴んでおり、精神的にもまだ幼さが隠しきれていないようだ。
これならば、先ほどのアドリアンの方がまだ精神的には自立しているように見えるな。

 金色の髪の毛から覗く赤いくりくりとした目が、特別王妃陛下から声をかけられた俺とレオンへと向けられている。その顔には気に入らないと感情が滲んでいた。



 さぁて、どんなお茶会になるのか……。
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