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幼少期編
面倒なお茶会
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王妃陛下の采配は流石としか言えない。まだ幼い子供たち相手でも、難なく会話を回していらっしゃる。
今回、このお茶会に呼ばれたのは宰相家のエルヴェール公爵家。統括騎士団長のラジェルド侯爵家。王妃付き筆頭侍従のラヴォーレ侯爵。
そして、近衛騎士団副団長のヴァレスタイン伯爵家、文官家系のノヴァーク伯爵家。最後に同じく文官家系の新興貴族、アシュフォード子爵家だ。
レオンとばかり比べていたが、王子殿下と比べると呼ばれた子息たちは確かに早熟な部類ではあった。
みなが紅茶を飲みながら必死に王妃陛下の言葉に耳を傾けている傍らで、王子殿下は指遊びを始め、自分の服や王妃殿下の服の裾をいじり始めた。
もちろん王妃殿下もそれには気づいているのだろう。少しばかり眉尻が下がっている。
そう言えば、王子殿下って原作では確かレオンのライバルキャラだっけ。
傲慢不遜。レオンにライバル意識を持っていて、だからレオンが興味を示したオメガにちょっかいをかける。
よくある二人の愛の障害となるキャラクターだ。
でも、実際こうやって見てみると普通の子供だよなぁ。
暇そうな様子を隠しもしない。
仕方がない。ここは俺が肌を脱ぐか。
「王子殿下、よろしければ庭園を案内していただけませんか?」
「ていえんを?」
王妃様にも聞こえているだろうけれど、小声で、王子殿下に内緒で話しかけていると印象付ける。
先ほどまでみんな王妃陛下のことを見ていた中、自分に向かって話しかけてくる相手にさぞ驚いたのだろう。
途端にぱっと顔を明るくさせた王子殿下が母親である王妃陛下の服を引っ張る。
「お母さま!こいつと一緒にお庭にいってもいいですか?」
「まぁ、エドワード。もちろんいいわよ。他に、庭園を見たい方はいらっしゃるかしら?」
「では、私もご一緒いたします」
レオンがスッと手を上げた。おや。レオンは王子殿下よりも王妃陛下と話している方が楽だと言って残るかと思ったのに。
他の子たちは、おそらく親にいろいろ言われているんだろうな。アドリアンとノヴァーク伯爵子息は王妃陛下の側に残ることにしたようだった。
お行儀よく王妃陛下の話を聞いていたとはいえ、やはりみんなまだ子供だな。
庭園に出た途端、全員表情を明るくして、はしゃいでいる。
「おれ、えと……私はフィリップ・ド・ヴァレスタインです。父は近衛騎士副団長です」
「僕はヴァルター・アシュフォードと申します。父は文官です!」
「そうか!おれの名前はエドワードだ!父はへいかである!」
ふふん!と得意げな笑みを浮かべる王子殿下。でも王子が王子である以上、父親が陛下なのは当たり前の事なんだよなぁ。
キャラキャラと子供らしく笑う三人が庭園に駆け出すと、慌てたように女官や護衛が付いて行った。それを、俺とレオンは見送った。
「ハァ…………」
「レオン、不敬だぞー」
「別に、又従弟だし。僕は罰せられないよ」
「あぁ、公爵のお母上が先代の王妹か」
隣を歩くレオンが、するりと俺の手に指を絡ませて手をつなぐ。
肩がトンとぶつかるくらいに近づいた距離。いつもの慣れた距離感だ。
「レオンは王妃陛下のところに残ると思ったんだけど」
「なんで?王妃陛下には会おうと思えば会えるし、僕はカイルと一緒にいたい」
「うわぁ。レオン、それ俺以外に言うなよ?」
「カイル以外に言わないよ。僕が一緒にいたいのはカイルしかいないもん」
あ゛ー、ほんっとこの主人公サマ。
そういや、原作の漫画でのレオンは氷みたいな表情がデフォだったけど、好きなものに対しての愛情表現だけは素直だったな。
幼い頃の孤独から好きなものへの執着が生まれたのであれば、今のレオンが俺に執着してくる理由もわかる。
ふと、考えることがある。
レオンが、原作の『運命』と出会ったら、俺はどうなるんだろう。
レオンは今と同じように俺に接してくれるだろうか。それとも、本当に俺もアルファなのだとしたら、自分のつがいに近づけないように遠ざけられる?
少なくとも、今みたいに手を繋いで笑い合うことはなくなるかもな。
そんなことを考えるだけで、胸の奥にスーッと風が通ったような心地になる。
……でも、レオンには『運命』がいる。
それは、もうずっと前からわかっていたことなのに。
だけどやっぱり、少し。いや、だいぶ。寂しいかもしれないな。
思わずレオンの手を握る力を強くすると、レオンから不思議そうな視線が向けられた。
「おい!おまえ!なんでこっちに来ないんだ!」
遠くから俺を呼ぶ大きな声に、ぱっと意識を外に向ける。
前方にいたはずの王子殿下が俺のことを振り返っており、その赤い目が俺たちのつないだ手を見てぎゅっと顔をしかめた。
「なんで、そいつと手をつないでるんだ!」
「すみません、親友なんです」
「ハァ!?しんゆう!?なんでそいつと!!」
やけにレオンに突っかかるな。と、思っていると、王子殿下は埒が明かないと思ったのかこちらにやってきて、無理やりつないだ手をほどこうと腕を伸ばしてきた。
しかし、それは他でもないレオンによって阻止される。
俺とつないだままの手をひょいと持ち上げたのだ。
この年頃の一歳差は想像以上に大きい。俺もレオンも発育が早いから、すぐに王子殿下の手が届かなくなった。
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、なんとかその手を捕まえようとする王子殿下をレオンは無表情で見ていた。こういうところは未だ冷徹なままなんだよね。
俺としてはどっちでもいいんだけど。強いて言うなら、このままだと父に課せられた職務が全うできなぁ、とは思う。
悩んでいるうちに、王子殿下の目に涙が浮かんでいって、ついにそれが爆発した。
「お前なんかきらいだッ!!」
王子殿下はそう言うと、力いっぱいレオンの体を突き飛ばす。
咄嗟のことでよろけたレオンの腕を引いて支えると、王子殿下の赤く潤んだ目が俺を捉えた。そして、傷ついた様子を隠すこともなくぐしゃりとゆがめた顔で睨みつけてくる。
「おかあさまも、おとうさまも、みんなレオンレオンレオン!!おれが王子なのに……!さすがね、レオン。やっぱりアルファなんだね、レオン!もううんざりだ!!おまえも!」
王子殿下の指が俺を指さす。
「おれのことを見てくれたと思ったのに!」
それだけ言うと、王子殿下は走り去っていってしまった。
彼の後を、ヴァレスタイン伯爵子息とアシュフォード子爵子息が追いかける。
うーん、やっぱり俺に王子殿下のご学友は向いていない。
「だから子守は嫌だったんだ……」
一瞬自分の心の声が漏れたかと思ったが、どうやらレオンが言ったらしい。
あらためて、レオンに体を少し寄せた。
「俺も」
父上には悪いけど、任務は失敗だなぁ。
今回、このお茶会に呼ばれたのは宰相家のエルヴェール公爵家。統括騎士団長のラジェルド侯爵家。王妃付き筆頭侍従のラヴォーレ侯爵。
そして、近衛騎士団副団長のヴァレスタイン伯爵家、文官家系のノヴァーク伯爵家。最後に同じく文官家系の新興貴族、アシュフォード子爵家だ。
レオンとばかり比べていたが、王子殿下と比べると呼ばれた子息たちは確かに早熟な部類ではあった。
みなが紅茶を飲みながら必死に王妃陛下の言葉に耳を傾けている傍らで、王子殿下は指遊びを始め、自分の服や王妃殿下の服の裾をいじり始めた。
もちろん王妃殿下もそれには気づいているのだろう。少しばかり眉尻が下がっている。
そう言えば、王子殿下って原作では確かレオンのライバルキャラだっけ。
傲慢不遜。レオンにライバル意識を持っていて、だからレオンが興味を示したオメガにちょっかいをかける。
よくある二人の愛の障害となるキャラクターだ。
でも、実際こうやって見てみると普通の子供だよなぁ。
暇そうな様子を隠しもしない。
仕方がない。ここは俺が肌を脱ぐか。
「王子殿下、よろしければ庭園を案内していただけませんか?」
「ていえんを?」
王妃様にも聞こえているだろうけれど、小声で、王子殿下に内緒で話しかけていると印象付ける。
先ほどまでみんな王妃陛下のことを見ていた中、自分に向かって話しかけてくる相手にさぞ驚いたのだろう。
途端にぱっと顔を明るくさせた王子殿下が母親である王妃陛下の服を引っ張る。
「お母さま!こいつと一緒にお庭にいってもいいですか?」
「まぁ、エドワード。もちろんいいわよ。他に、庭園を見たい方はいらっしゃるかしら?」
「では、私もご一緒いたします」
レオンがスッと手を上げた。おや。レオンは王子殿下よりも王妃陛下と話している方が楽だと言って残るかと思ったのに。
他の子たちは、おそらく親にいろいろ言われているんだろうな。アドリアンとノヴァーク伯爵子息は王妃陛下の側に残ることにしたようだった。
お行儀よく王妃陛下の話を聞いていたとはいえ、やはりみんなまだ子供だな。
庭園に出た途端、全員表情を明るくして、はしゃいでいる。
「おれ、えと……私はフィリップ・ド・ヴァレスタインです。父は近衛騎士副団長です」
「僕はヴァルター・アシュフォードと申します。父は文官です!」
「そうか!おれの名前はエドワードだ!父はへいかである!」
ふふん!と得意げな笑みを浮かべる王子殿下。でも王子が王子である以上、父親が陛下なのは当たり前の事なんだよなぁ。
キャラキャラと子供らしく笑う三人が庭園に駆け出すと、慌てたように女官や護衛が付いて行った。それを、俺とレオンは見送った。
「ハァ…………」
「レオン、不敬だぞー」
「別に、又従弟だし。僕は罰せられないよ」
「あぁ、公爵のお母上が先代の王妹か」
隣を歩くレオンが、するりと俺の手に指を絡ませて手をつなぐ。
肩がトンとぶつかるくらいに近づいた距離。いつもの慣れた距離感だ。
「レオンは王妃陛下のところに残ると思ったんだけど」
「なんで?王妃陛下には会おうと思えば会えるし、僕はカイルと一緒にいたい」
「うわぁ。レオン、それ俺以外に言うなよ?」
「カイル以外に言わないよ。僕が一緒にいたいのはカイルしかいないもん」
あ゛ー、ほんっとこの主人公サマ。
そういや、原作の漫画でのレオンは氷みたいな表情がデフォだったけど、好きなものに対しての愛情表現だけは素直だったな。
幼い頃の孤独から好きなものへの執着が生まれたのであれば、今のレオンが俺に執着してくる理由もわかる。
ふと、考えることがある。
レオンが、原作の『運命』と出会ったら、俺はどうなるんだろう。
レオンは今と同じように俺に接してくれるだろうか。それとも、本当に俺もアルファなのだとしたら、自分のつがいに近づけないように遠ざけられる?
少なくとも、今みたいに手を繋いで笑い合うことはなくなるかもな。
そんなことを考えるだけで、胸の奥にスーッと風が通ったような心地になる。
……でも、レオンには『運命』がいる。
それは、もうずっと前からわかっていたことなのに。
だけどやっぱり、少し。いや、だいぶ。寂しいかもしれないな。
思わずレオンの手を握る力を強くすると、レオンから不思議そうな視線が向けられた。
「おい!おまえ!なんでこっちに来ないんだ!」
遠くから俺を呼ぶ大きな声に、ぱっと意識を外に向ける。
前方にいたはずの王子殿下が俺のことを振り返っており、その赤い目が俺たちのつないだ手を見てぎゅっと顔をしかめた。
「なんで、そいつと手をつないでるんだ!」
「すみません、親友なんです」
「ハァ!?しんゆう!?なんでそいつと!!」
やけにレオンに突っかかるな。と、思っていると、王子殿下は埒が明かないと思ったのかこちらにやってきて、無理やりつないだ手をほどこうと腕を伸ばしてきた。
しかし、それは他でもないレオンによって阻止される。
俺とつないだままの手をひょいと持ち上げたのだ。
この年頃の一歳差は想像以上に大きい。俺もレオンも発育が早いから、すぐに王子殿下の手が届かなくなった。
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、なんとかその手を捕まえようとする王子殿下をレオンは無表情で見ていた。こういうところは未だ冷徹なままなんだよね。
俺としてはどっちでもいいんだけど。強いて言うなら、このままだと父に課せられた職務が全うできなぁ、とは思う。
悩んでいるうちに、王子殿下の目に涙が浮かんでいって、ついにそれが爆発した。
「お前なんかきらいだッ!!」
王子殿下はそう言うと、力いっぱいレオンの体を突き飛ばす。
咄嗟のことでよろけたレオンの腕を引いて支えると、王子殿下の赤く潤んだ目が俺を捉えた。そして、傷ついた様子を隠すこともなくぐしゃりとゆがめた顔で睨みつけてくる。
「おかあさまも、おとうさまも、みんなレオンレオンレオン!!おれが王子なのに……!さすがね、レオン。やっぱりアルファなんだね、レオン!もううんざりだ!!おまえも!」
王子殿下の指が俺を指さす。
「おれのことを見てくれたと思ったのに!」
それだけ言うと、王子殿下は走り去っていってしまった。
彼の後を、ヴァレスタイン伯爵子息とアシュフォード子爵子息が追いかける。
うーん、やっぱり俺に王子殿下のご学友は向いていない。
「だから子守は嫌だったんだ……」
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