α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ

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幼少期編

将来のこと

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 あれから、俺は相変わらず領地に帰らず王都のタウンハウスで過ごしている。
 七歳になると貴族の幼年学校に通うためにまた王都に来ることになるし、それならレオンと交流を深めておいた方がいいと親が判断したためだ。

 最初は堅苦しい手続きを毎回守ってうちに来ていたレオンも、出会って一年が経つ頃にはまるで我が家かのようにうちでくつろぐようになっていった。

 今日も今日とて直前の先触れだけでやってきたレオンを迎えに応接間に入ると、出会いがしらに俺の腹へと突っ込んできた。



「レオン?どうした?」

 とりあえず頭を撫でるが、余計にぐりぐりと頭を俺の腹にめり込ませようとしてくるだけで、何も答えてくれない。
 仕方がないので、今年から正式にレオンの若侍従となったユーリに視線を向ける。
 彼は昨年、聖ミレニア学園を卒業した十八歳で、公爵家に家令として仕える子爵家の嫡男だ。

 ユーリは俺の視線に気が付くと何とも言えない神妙な表情を浮かべた。そういう感情なんだろう。


 仕方がないので、俺のお腹に埋まろうとするレオンの腕を俺の首に回させて、そのままレオンの体を持ち上げた。
 まさか抱き上げられるとは思っていなかったのか、首に回された腕が締まって苦しい。
 騎士団長である父の跡を継ぐために普段から鍛えておいてよかった。レオンは本を読むことが多いからか、俺よりも軽くてなんとか運べそうだ。

 そのままソファの上にレオンを下ろすと、俺もその隣に座る。
 さすがに少し落ち着いたのか俺を拘束する手を緩め、困惑した目で俺を見るレオン。
 その頭をぐいと引っ張って俺の膝の上に寝かせた。いわゆる膝枕の体勢だ。
 
 

 膝の上でレオンがカチコチに固まっているけど、まぁいいだろう。そのままレオンの絹みたいにサラサラな銀白の髪を撫でる。

「どした?なんか嫌なことあった?」
 頭のいいレオンのことだ。周りの大人が大したことないと思ってても、多大なストレスがかかっている可能性も否めない。
 想像してみてほしい。成人したのに積み木遊びに誘われたり、靴紐結んだだけで『すご~い♡』とか言われたら不通に嫌だろ?
 それでも大人なら自分の心と周囲に折り合いを付けられるだろうが、レオンは正真正銘子供なのだ。うまく事情を呑み込めなくて、ストレスを溜めていてもおかしくない。

 しばらくそうやってレオンの頭を撫でていると、ようやくレオンが口を開いた。



「見合いをさせられた……」

 想像していた方向性が違い、思ってもみなかった言葉に思わず目を瞬かせる。

 あぁ、なるほど。確かに、レオンは今の段階でアルファであることは目に見えて明らかだしな。
 高い知能はアルファの特徴の一つだ。ギフテッドの彼を推定アルファとして前もって優秀なオメガをあてがっておくのは理にかなっている。
 眉目秀麗、頭脳明晰、アルファ確定で公爵家長子。婚活市場においてはこれ以上ない逸材だもんなぁ。
 一人納得して頷いていると、その反応を不服に思ったレオンが俺のふとももにかみついた。


「いてっ」
「ちゃんと聞いて!僕が!見合いさせられたんだ!」
「聞いてる聞いてる。でも、レオンの家って公爵家なんだからそういうもんじゃないの?」
「カイルは僕が婚約してもいいって言うの!?」
 膝の上でガルガルしててもまったく怖くない。なんというか、チワワ感があるな。
 わしゃわしゃと髪をかき混ぜるように撫でてやった。
 それでも膨れたままの頬を指でつつくと、そちらもがぶりと噛まれてしまった。
 噛み癖のあるワンちゃんだなぁ。

「レオンはさ、婚約の何が嫌なわけ?」

 正直、高位貴族の、それも嫡男である以上、早いか遅いかの違いしかない。
 幼い頃に決まってしまえば、その分交流も持てるからいいんじゃないかなぁと思うけどなぁ。
 

 レオンは目をうろとさ迷わせ、それからきゅっと心臓の辺りを握る。
 何と言えばわからずに言葉を探しているようだ。こんなレオンは珍しい。

「相手は、年上のオメガだったんだ……けど。臭いがヤだった」
 
 あぁ、なるほどなぁ。レオンは知能が高いギフテッド。エルヴェール公爵家がアルファを輩出しやすい家系ということもあるし、十中八九アルファだろう。
 それなら見合いの相手はバース性が発現している年上のオメガになるか。
 事前に推測できるのであれば、優良株に唾つけとくのが高位貴族のやり方だもんなぁ。

 公爵家もそのオメガの人の家も、本決まりまではいかなくとも相性の確認くらいするか。
 尤も、今回はその顔合わせがレオンにはマイナスに働いたわけだけど。
 フェロモンの匂いが受け付けられないなら、ナシだな。
 さぞオメガの方は残念だったことだろう。


 
 うんうんと一人納得して頷いていると、俺にしがみつくレオンの手に力が入る。

「僕はカイルの匂いのほうがすきだもん……」

 そう言って、再び俺のお腹に顔をうずめたレオン。
 なんか、今。ものすごいことを言われている気がする。
 
 オメガよりもいい匂いってなんだ……?


「カイルがオメガならいいのに」
「え、俺オメガなの?」
「何言ってるの?カイルは僕と一緒のアルファでしょ?」
「え、俺アルファなの!?」

 びっくりした。レオンがいい匂いとかいうからオメガなのかと思った。
 でも、自分では平凡なベータかなと思ってたんだけど……。
 思わず確認するようにユーリの方を向くと、何言ってるんだ?と言わんばかりの渋い表情を向けられた。あれ、俺がおかしいのか?そりゃ前世がある分普通の子供よりは知能は高いけど。
 ……なんとなく、レオンが言うならその通りになりそうだなぁ。

 いや、でも、そうか……。そうなると、レオンとお揃いか。
 正直半信半疑だが、レオンが言うなら間違いない気がしてきた。自覚は毛ほどもないけど。



 俺も、オメガの伴侶を迎えなきゃいけないのか。
 膝の上にいるレオンに鼻を寄せてスンと鼻を鳴らして嗅いでみると、なるほどイケメンはいい香りがするらしい。
 これがレオンのフェロモンの匂いなのか、それとも何かつけてるのかまでは判別できない。
 オメガのフェロモンはこれよりもいい匂いがするのか?全然想像ができない。


「それに……」

 小さく言葉を続けるレオンに、俺は考えるのをいったんやめて、彼の言葉に耳を傾ける。

「婚約って、ずっと一緒にいる約束だから……」
「ん?うーん……。まぁ、倫理的に考えればそうか」

 婚約しても結婚するまでは普通に遊ぶ奴はごまんといるし、結婚してからだって不倫だの離婚だのも普通にあるけどなぁ、とは思うものの。さすがにそんなことをレオンに言うわけにはいかず言葉を飲みこむ。
 そんな俺には気づかずに、レオンは俺の体に回した腕にキュッと力を込めてさらにすり寄った。




「僕は……、ずっといるならカイルがいい…………」

「ン゛……ッ」

 今のはなかなかの破壊力。この可愛いワンちゃんウチで飼おうよ。今のは思わずキュンときちゃった。
 思わず覆いかぶさるようにレオンを抱きしめると、当の本人は腕の中でクスクスと笑い出した。

 ねぇ、主人公こんなに無防備で大丈夫なの?原作オメガに出会う前に悪いオメガにペロリされちゃわない?大丈夫?護衛が付いてる?あぁ、そう。
 思わず抗議するようにユーリを見ると、彼は満足げな表情でうんうんと頷いていた。それはどういう意味での頷きなわけ?


 

 ひとしきり笑うと、ようやく不機嫌だった気持ちが収まったのか、レオンが俺の膝から起き上がる。

「うん。やっぱりカイル以外とずっと一緒何て考えられないから母上にお断りしようっと」
「……ほんと、俺のこと好きだよなぁ、お前」
「うん、好きだよ」
「ハァー。オニイサンはレオンの将来が心配です」
「同い年だよ?」

 こんな素直な子が将来ハイスぺ攻めアルファになるってほんと?しっぽぶんぶん振ってる犬にしか思えないんだけど。
 仕方ないのでもう一度頭をわしゃわしゃとかき混ぜてやったら、嬉しそうにくふくふ笑うんだもの。



 それにしても、結婚か。
 レオンの言う通り、俺が本当にアルファかどうかなんてわからないけど。
 どうせなら可愛いオメガがいいな。ついでにおっぱいがでかけりゃ言うことないわ。
 来年には、俺もレオンも幼年学校に入学だ。着々と大人になっていく。
 それと同時に、この世界の原作BL漫画の舞台も近づいてくる。

 今からそれが楽しみなような、怖いような。



 願わくば、大人になってもレオンとはずっと、こうやって仲良いままでいれますように。
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