α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ

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青年期編

入学

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 聖ミレニア学園。
 ここ、セレスタリア王国に住む貴族子女が集まる、名実ともに王国一の名門校だ。
 貴族は幼年学校を卒業し訓練期を経た十五歳から通い始める。
 義務ではないものの、この学園を卒業しなければ慣例的に貴族の一員として認められない。
 少数ではあるが優れた才覚を持った平民も通っている。
 貴族とは違い、平民たちには年齢制限などは設けられておらず、入学試験さえ受かれば誰しもが奨学金をもらいながら学べるのだ。
 才能の囲い込みと言う奴だ。



 今日はせっかくの入学式だと言うのに、レオンはむっすりと不機嫌を隠そうともしない。
 そんな状態で出席したつまらない入学式を終え、各々大講堂から寮へと移動する間も変わらずだ。

 隣を歩くレオンは、入学までにオメガへなれなかったことに対する焦りからか、最近ずっとこんな感じだ。

「レオン。機嫌を直してくれ……」
「……もう少しでオメガに転化できるかもしれないのに」
「寮の自室で続けよう。どうせ俺もレオンも一人部屋だ」
「これで、学業に支障が出るからやめるなんて言ったらブチ切れているところだ」
「レオン……。割と俗っぽい言葉使うよね……」

 であった頃はそうではなかったけど。やっぱり俺の影響かなぁ。
 そう思うと、自分の発言がレオンに影響を与えていることに、くすぐったいような喜びを覚える。

 ちらりと、隣を歩くレオンのうなじに視線を向ける。
 今は髪で隠れてはいるが、そこには何度も刻み付けた俺の歯形が付いている。
 おもむろに手をレオンのうなじに添えて爪先でひっかくと、びくりとレオンの体が跳ねた。

「……、カイル。待て、だ」
「…………わん」
「犬かッ!」
「あいた」

 脇腹をぽすりと殴られた。全く痛くはない。
 寮の部屋は基本的には爵位別だ。
 特に、卒業までにつがいを作る者も多いこの年齢では、単にバース性で分けるだけでは問題が出る。そのため、爵位に応じて部屋が振り分けられるようになっている。
 代わりに、幼年学校の時のように共有スペースがあるタイプから集合住宅タイプに変わる。
 寮と言うよりも、学生マンションと呼んだ方が近いかもしれない。



 学園のすぐそばに立つ学生マンションに着くと、俺たちは迷うことなく俺に割り振られた部屋へと向かった。

「あ、そうだ。うち土足厳禁にしたんだ」
「は?なぜ?」
「靴の圧迫感が嫌いだから。あと、掃除が楽」

 そう言って玄関部分で靴を脱ぐ。
 なんとなく、前世を思い出して靴を脱いで過ごしていたらすっかりはまってしまったのだ。
 特に、下っ端騎士である内は身の回りのことは全て自分でやらなくてはならないので。
 掃除の手間が少しでもなくなると非常に楽なのだ。
 レオンも素直に俺に続いて靴を脱ぐ。その足元にスリッパを出すと、不思議そうにそれを履いた。


 それを確認してからふわりとフェロモンを放つと、途端にレオンの顔が赤く染まった。
 そのまま後ろから壁に手をつき、自分との間にレオンを閉じ込める。

「レオン……、発現熱は?」
「ぁ……っ」
 レオンの首にかかる髪を払い、先ほどは直接見ることができなかったうなじをあらわにする。
 その部分を指でなぞるだけでどんどん肌が赤くなる。

「レオン、発現熱は?」
「んッ、今朝、すぐに収まったが……っ、間隔は、確実に短くなってる」
「そう。じゃあ順調なのかな」

 もはや、アルファがオメガへと転化できることは疑いようもないだろう。
 あと、いつまでこの衝動を我慢すればレオンを本当の意味で俺のつがいにできるのだろう。
 
 そっとその体を抱き寄せると、素直に俺に体を預けた。
 潤んだ目で見上げてくるレオンがゆっくりと目を閉じる。それに応えるように唇を寄せた。

 触れ合うだけのキスを終え、顔を離す。
 レオンも俺も、変わらずぐんぐん成長している。
 一般的なオメガは、男であっても線が細い。それに比べると、どうやったってレオンはオメガには見えないだろう。
 だが、俺にとっては誰よりも扇情的に映る。

 「寝室に行こうか」

 小さく頷いたレオンの腰をだき、そのままベッドへと向かう。
 まだ手は出せない。オメガになるまでは。





 とっぷりと陽が暮れ、部屋の中はいつの間にか真っ暗になっていた。
 俺の下で体を小さく跳ねさせながら快楽に耐えるレオンを見下ろし、やり過ぎたかもしれないと自嘲する。
 入学前、なかなか時間が取れずに久しぶりの逢瀬だったからなぁ。と誰に言うでもない言い訳を思い浮かべる。

「レオン、水とってくるね」
「ぁ……ッ、わか、った……っ」
 最後にもう一度うなじへと吸い付いてからベッドを離れる。
 レオンも、自分の汚れた下穿きを処理する時間が必要だろう。

 お互い服は脱いでいないし、直接的な愛撫をしたわけではない。
 しかし、最近ではフェロモンとうなじへの噛みつきだけでレオンは必ず一度は高まりへ達するようになった。
 これも、彼がオメガへ近づいている証拠なのだろう。

 レオンとは違い一度も吐き出すことがなく、未だズキズキと主張する自身の処理を手早くすませる。
 まだ収まりがついたわけではないが、先ほどよりは随分ましだ。
 そろそろレオンも落ち着いたころだろうと思い、水差しとコップを持ってレオンが待つ寝室へと戻った。

 ベッドの上で気だるげに座っているレオンだが、先ほどまでよりはだいぶ理性の色が戻ってきたようだ。
 部屋に入った俺を見ると、ほんの少し笑みを浮かべた。

「体は大丈夫?」
「ん、喉が痛いくらいだ。まだ熱っぽいが、たぶんいつもの発現熱だと思う」

 コップに水を注いで手渡すと、すぐに一杯飲みほした。
 二杯目も半分ほどゴクゴクと飲んでから、ふーっと長く息を吐く。

「……早く、僕はお前のつがいになりたいよ」
「焦らなくても一年でここまで来たんだ。これからは毎日顔を合わせられる。前よりもペースは速くなる」
「……カイルの熱を知って、これでオメガになれなかったとしても、僕はきっと女もオメガも抱けないな」
「俺も同じだ。レオン以外はもうきっと受け付けられない」

 レオンの体を抱き寄せると、体が熱い。
 オメガへの転換が始まっているがゆえの発現熱の症状なのだろう。
 シーツを被らず、そのまま熱いレオンを腕に抱いたまま目を閉じる。

「怖くはない?」
「怖くないと言えば嘘になる。だけど、それ以上に僕はカイルとの未来が欲しい」
「……レオンにばかり負担をかける自分が嫌になる」
「負担?まさか。おかげでカイルを罪悪感で縛り付けられるんだ。最高だね」
「そんなものなくてもレオンから離れられないのに?」
「足りない。カイルは魅力的だからね。つがいになれない今、確証が欲しい」
「俺も同じ気持ちだ」
「……はやく、君のつがいになりたい」



 このまま、融けて混ざり合って一つになれたのならば。どんなにいいものだろうか。
 そんなことを夢想しながら、俺たちは眠りに落ちた。
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