α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ

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青年期編

契約

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 俺はまだ薄暗い寝室の中、寝息をたてているレオンの顔を眺めながら思考を巡らせる。

 最近薄くなりつつある前世の記憶曰く、俺が呼んだことのあるBL漫画の舞台がここ聖ミレニア学園のはずなんだけど。
 肝心の原作では攻めアルファであるはずのレオンは完全に原作から逸脱している。
 俺はそれで全く困らないどころかこのままでいてほしいわけなんだが、漠然とした不安を覚えることがある。

 なぜこの世界が前世で読んだBL漫画の世界と酷似しているのかは知らないが、もしもあれが何らかの方法でこの世界を覗き見た作者が描いたものだとしたら?
 レオンは、俺とさえ出会わなければそのオメガと結ばれる運命にあったと言うわけだ。
 学園生活を送るうちに、レオンがその受け主人公のオメガと出会ってから惹かれるようなことにはならないだろうか。

 そんなことが頭をよぎるだけで嫉妬心が湧いてくる。
 運命だなんて不確かなものにレオンを奪われてたまるか。
 レオンは、俺の唯一のつがいなのだから。

 自分勝手な独占欲を満たしたいが、レオンに迷惑をかけるのは本意ではない。
 なので、眠るレオンに覆いかぶさって耳の後ろあたりに吸い付き鬱血痕を残した。

「ん……、かいる?」
「なんでもないよ。まだもう少し眠れるよ」

 吸い付いた時のわずかな刺激で目を覚ましてしまったレオンを抱き寄せると、彼は温もりを求めるように俺の胸へとすり寄ってきた。
 そして再び眠りに落ちたレオンに自然と笑みをこぼす。

 何を心配しているのだろう。俺も、レオンも。もうお互いのことしか受け付けられないと言う話を昨日したばかりなのに。


 
 そもそも、こちらで十五年生きているうちにほとんど前世の記憶なんてなくなってしまった。きっと、原作のオメガに出会ってもわからないだろう。
 どんな奴かもわからない相手に嫉妬する暇があるなら、もっとレオンに愛を伝えよう。
 何があっても彼が俺を選んでくれるように。



 さて、そんな聖ミレニア学園だが。この学園のシステムは、前世で言うところの大学とよく似ている。
 学年共通必修講義と、科と呼ばれるコース必修講義。そして自由選択講義すべてで必要単位数を取得しなければ卒業することができないのだ。
 科は六つあり、自分が将来就く職業によってある程度分類できる。

 王国騎士団や貴族の私兵を目指す生徒が入る騎士科。
 女官や侍女侍従といった貴人に仕える職を目指す生徒や、家に入り家の内政を取り仕切るためのイロハを学べる礼儀教養科。
 行政や法律、経理などを学び、文官を目指す生徒が属する文政科。
 将来領主や、領主の代わりに政務を執り行う家令志望の者が入る領地経営科。
 そして、精霊と契約し魔法を使うあらゆる職を目指す魔法師科。

 ちなみに、精霊との契約は、よほど特殊な事情がない限り初日にみんな契約を済ませる。
 学園に通わなければ慣例的に貴族として認められない理由の一つがこれだな。
 魔法が使えるのと使えないのとでは大きな差があるので、ある意味しょうがないと言えるだろう。


 騎士科に入った俺とは違い、レオンは将来公爵閣下の跡を継いで宰相になるために文政科を選択した。 
 俺もレオンも家の跡取りなので領地経営科の講義を一緒に受講できることだけが救いだ。
 できることならレオンを抱えて講義受けたいくらいなのに。まぁ、無理だってわかってるんだけどね。





 腕の中のレオンを抱きしめたまま俺もうとうとと微睡んでいたのだが、そろそろ起きなければならない時間になりレオンのことを揺り起こす。
 首元に手を当てるとわずかに体温が高い。オメガへの転化が進んでいる何よりの証拠だろう。フェロモンを当てながら首を噛んでいる時と朝に、特に体温が上がるのだ。
 そのせいでぽやぽやと未だ半分夢うつつなレオンを抱き上げ、一緒にシャワーに入ってようやく目がきちんと覚めた様だ。

 ほとんどすべてを俺にゆだねてくれるレオンに、俺の中のアルファとしての本能が満たされるのを感じる。
 朝食を食べた後は、二人並んで学校舎へと向かった。



 学園に入学したばかりの一年生は、一日かけて各科ごとに持ち回りで精霊との契約を行うことになっている。
 まずは精霊魔法師科。次に騎士科。その次に、と言ったように持ち回りで。学園の奥にある祭壇で、一人ずつこの世界の二柱の神に祈りをささげて精霊と契約を交わす。
 精霊と契約は一人ずつでしかできないため、科ごとに時間をわけての講義になっているのだ。
 ちなみに、精霊は地、水、火、風、闇、光の六種属が存在している。

 精霊の属性によってできることとできないことがあるので、ある意味将来を左右するイベントなのだが、俺にはあんまり関係ない。
 なにせ、家柄で将来統括騎士団長になることがほぼ確定しているので。
 どの属性になったとしても死ぬ気で頭も体も鍛えなければならないので属性は関係ないのだ。

 と、いうわけで。精霊の属性で一喜一憂する他の生徒とは違い、俺はぼうっと自分の番を待つ。
 訓練騎士団時代に同室だったカヴィニャック男爵家三男のエルネストが俺の隣で興味津々と言った様子で他生徒の契約の様子を窺っている。



「お、珍しいな。あの体つきで騎士科ってことは、戦場参謀志望か?」

 エルネストの言葉に視線を祭壇へと向けると、騎士科の中ではひと際小さな黒髪の青年の姿が目に映る。
 どう見ても鍛えているようには見えない。だからこそ、エルネストも頭脳戦タイプだと考えたのだろう。
 おどおどとした様子で祭壇で祈りをささげると、ふわりと琥珀色の光が舞い降りて青年の胸の中に入っていくのが見えた。

「土の精霊か」
「えーっと、土の精霊って地形の変更とかだっけ?」
「地形の変更、金属生成だな。まぁ、あいつが戦場参謀志望ならちょうどいいんじゃないか?」
「だねぇ」

 エルネストの何とも気の抜ける返事を聞き流しつつ、祭壇から転げ落ちるように慌ててはけていく青年を見ながら、はてどこかで見たことが会っただろうかと首をひねった。
 何となく見覚えがある気がするんだよなぁ。
 しかし少し考えて心当たりがないので、すぐに考えるのをやめた。
 あー、レオンに会いたい。



 そうこうしているうちに先にエルネストの番が来て、彼は水の精霊と契約したようだ。
 水の精霊は水流操作や、治癒を得意とする。
 エルネストはおそらく二年生以降は治癒騎士としての講義が必修になるだろうな。
 嬉しそうに笑っているので、彼の進路希望の一つに治癒騎士があったのだろう。

 そうこうしているうちに、俺の番がやってくる。
 人の精霊にも興味津々な生徒の群れの前に出ると、背中に視線が痛いくらいに突き刺さった。

 それはそうだろう。ラジェルド侯爵家といえば数ある王国騎士団すべての総締めである統括団長の家系である。つまるところ、他の生徒からすれば俺は将来の上司である。そりゃ気にもなる。
 まぁ、高位貴族子息にもなるとこういう視線は慣れっこなので気にならないからいいけど。



 目の前まで来た祭壇は石造りの古いものだ。それなのに、不思議と破損している様子もなく、心なしかキラキラと美しく輝いている。
 神話の一部を象ったようなレリーフには、中央に月と太陽の二柱の神がおり、その左右に各属性の妖精王の姿が彫られていた。
 ゆっくりと石段を登り、月の女神と太陽の男神。その二柱を模した彫刻の前に跪いて祈りをささげる。

 この祈りに決まった文言などはない。ただ、自分の気持ちを吐露すればいいのだ。
 その願いや想いに惹かれた精霊が契約のために降りてくると言われている。



 何を祈ろうか、なんて。そんなことを考える間でもなく、思い浮かぶのはレオンのことだ。

 誰よりも大切な俺の半身。俺のつがい。
 レオンとどうかこれから先ずっと一緒にいられたらいい。
 彼と手を繋いで陽だまりの中で眠りに落ちる。そんな、ただただ穏やかな日々がこれから先も続いてほしい。
 
 あの雨の日のように、心を引き裂かれるような思いはもうごめんだ。
 男同士のアルファ同士。そんなことわかっていても、それでも諦めきれずにここまで来たんだ。ともにいられる可能性がようやく見つかったんだ。

 二度と、レオンと引き離されるようなことはごめんだ。
 もし、この世界に本当に神様がいるのなら、どうか俺をレオンから引きはがさないでくれ。もう、彼がいないと俺は息もできないのだから。



 ふわりと、先ほど他の生徒たちの元を訪れた精霊よりも強い緑の輝きを放つ風の精霊が降りてきた。
 それは、数度俺の周りを飛び回った後、ゆっくりと胸の中に入り込む。
 途端に体のどこともわからない内側に温もりを感じ、ほぅっと小さく息を吐いた。

「素晴らしいですね、ラジェルド公子。風の中級精霊です。おめでとうございます」
「はぁ、中級精霊ですか」
「はい。今年は騎士科ではまだ八人目ですね。おめでとうございます」

 誇らしいという感情を隠しもしない様子の教官に肩を叩かれ、俺は再び生徒たちの中へとも戻る。
 エルネストに「おめでとう!」と言われたので、それに笑顔で返した。


 風の精霊は風を操作する以外にも音を遠くまで運ぶことができるという。
 使い方さえ学べば、レオンと離れた場所にいても言葉を飛ばして会話を交わせるようになるだろう。



 なるほど。俺の願いにぴったりな精霊なわけだ。
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