【エルド学園】俺はこの『親友』が、ただの学生だと思っていた

西園 いつき

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第三章 親友との企てられた再会

9.第二皇子の日常

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***

帝国での生活は、静かだった。
必要なものは全て与えられ、不要なものは一切与えられない。
ノア・ヴァルガ・セラフィルにとって、それは過不足のない生活だった。

広い部屋、厚い絨毯、外界の音を遮断する高い天井。
窓の外には帝都の尖塔が並び、時間ごとに鐘の音が鳴る。

起きる時間も、食事の内容も、行動の範囲も、全て決められている。
だから、迷う必要がない。
あまりにも徹底した、現実効率主義。

ノアは朝、侍女が運んできた服を受け取り、何も考えずに袖を通した。


「今日の予定は」


問いは形式的なもだった。


「第一皇子殿下より、伝言がございます」


侍女は一歩下がり、淡々と告げる。


「明日、他国との会談があるため、本日はお戻りが遅くなるとのことです」
「……そうか」
「殿下は、『ノアには関係のないもの。今日は私の部屋でゆっくりしていれば良い』と」


その言葉に、ノアは小さく頷いた。
第一皇子の言葉は命令ではない。
だが、疑う理由も、予定を選びなおす理由もなかった。


「分かった」


それだけで会話は終わる。
特別な出来事はなかった。
書物を読み、剣を振り、与えられた時間を消費する。

そして夜。

第一皇子――アルトリウスは、いつも通り戻ってきた。
疲れた様子も、苛立ちも見せず、ただ当然のように、ノアを抱いた。

言葉は少ない。
何故、なんて考えは最初からない。
求められるまま、ノアは応じる。

それが、役割だった。


朝、目を覚ました時、隣にアルトリウスの姿はなかった。
いつものことだ。

身体には、鬱血痕の数々。
首、胸、腹、背中、大腿の裏にまで、所有印が散っていた。

ノアは身体を起こし、床に散らばっていた衣服を見下ろす。
拾い上げ、下から順に身に着けていく。

靴下、ズボン、ベルト、最後にシャツを羽織る。
窮屈だから、まだ前は留めない。

寝台の上には、まだかすかに体温の名残があったが、気にも留めない。
今日もまた、静かな一日になるはずだった。

一つ、息を吐いたその時だった。

扉が、開いた。
第一皇子の私室、この部屋の扉が。

軋む音と共に。誰かが室内へ足を踏み入れる。
瞬間、気怠げだったノアの背筋に冷たいものが走った。

アルトリウスの気配では、ない。

考えるより先に、身体が動いた。
壁に立て掛けてあった剣を掴み、振り向きざまに切っ先を突き付ける。


「――何者だ」


低く、鋭い声。


「何が目的で、この第一皇子の私室に……」


侵入した、と言いかけて。
ノアの言葉は、途中で止まった。

視界に映った人物を、脳が理解するまでに、ほんの一瞬の時間が必要だった。
同じように、扉の前に立つ男も、動きを止めている。

そう時は経っていないのに、あの懐かしい、蒼い瞳が、大きく見開かれていた。


「……ノア?」


聞きなれた声。
信じられない、という響きを含んだ声。
ノアは剣を構えたまま、赤褐色の目を見開いた。


「……レ、オン……?」


そこに立っていたのは。
エルド王国第一王子、レオン・エルド・ヴァレンティス。
かつての、親友。

帝国の第一皇子の私室。
有り得ない場所で、二人は再会した。

剣の切っ先が、微かに震える。
時間が止まったかのようだった。

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