お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第一話②『謎のお嬢様』

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 授業が終わり、嶺歌れかは帰宅の準備を始める。毎日ではないが、放課後も依頼をこなす日は多い。

 魔法少女システムとしては動ける時に動くという暗黙のルールがある。私生活を優先するのも時には必要だ。

 その為必ずこの日に依頼を受けろという絶対的なルールはない。だがあまりにも働かなすぎると魔法協会から連絡が来るのである。

 嶺歌はまだその事態を体験していないが、きっと魔法協会からの連絡は厄介なものに違いなかった。

 それは長年、魔法少女を経験してきた嶺歌の確信めいた勘だった。



(今日は何件受けようかな)

 そう考えながら通り過ぎる友人たちに別れの挨拶を返し、校舎を出る。

 すると突然、名前を呼ばれた。

 名前を呼ばれる事は日常茶飯事であるが、今のようにフルネームで呼ばれる事はそうそう無い。

 嶺歌は声の主の方を見上げるとそこには麗しい程の顔立ちをした品の良さそうな女の子が立っていた。

 彼女は今、間違いなく校門付近に停車している黒いリムジンから降りてきた。

 後光が差しているとでも言いたくなる程のオーラを放つその女の子は、嶺歌より明らかに低い身長でありながらも美しい姿勢と言葉にし難い妙な風格を持ち、決して軽口で話し掛けてはいけないと、そう思わせる何かを持っている。

 もしかせずとも目の前にいる彼女はお嬢様なのだろう。

 嶺歌は彼女の風格に言葉を発せられず、ごくりと唾を飲み込む。

 そのまま彼女を見据えていると再びこちらの名前を呼んできた。

 しかし今度は――――耳を疑う単語と共に。

和泉いずみ嶺歌れかさん。貴女にご協力願いたく参りましたの」

「…………え」

 思わず声が出た。なぜこの女の子は、嶺歌の本名と、自分が魔法少女である事を知っているのだ。

 それに明らかにどこかのご令嬢であるこの女の子が平凡な嶺歌に声を掛けている理由も分からない。

 予想外の事態に嶺歌は混乱する。

 するとそんな嶺歌の様子を察したのか彼女は笑みを零しながら再び口を開く。

「突然のご訪問、申し訳ありませんの。宜しければあちらにご同車なさらない?」

 そう言って彼女が視線を向けたのは先ほど彼女が降車した黒いリムジンだった。リムジンなど、直に目にしたのはこれが人生で初めてである。

 魔法少女といえど決して裕福な暮らしではない。高級車とは無縁の人生だ。

 嶺歌は困惑した表情を見せながら「でも……」と断ろうとしたが、女の子は「ではこちらへ」と嶺歌の返事を聞かずに話を進め、こちらの腕を引っ張ってくる。彼女の力は小柄な見た目に反して意外と強かった。

 振り解けない程ではなかったが意外に感じた嶺歌はその事に気を取られ、そのまま彼女に車の中へと連れて行かれた。

 いや、これは拉致られたと言っても間違いではないだろう。

 ほぼ無理やりに車の中へと押し込められ、そのまま嶺歌は行き先の分からぬまま謎のお嬢様に連れ去られてしまった。



兜悟朗とうごろう、ゆっくりお願いしますわね」

「畏まりました。お嬢様」

 兜悟朗と呼ばれた座高の高い執事姿の男性は車のハンドルを握りながらお嬢様と呼ばれた女の子に丁寧な言葉を返す。

 その様子を見ているとバックミラー越しに執事の男性と目が合った。彼は一瞬の間も無く、直ぐに嶺歌に笑みを向けるとそのまま視線を正面に戻し、運転を始める。

 その一瞬の出来事に、いやこの状況全てに頭の整理が追い付かない嶺歌は自身に落ち着けと心の中で言い聞かせながら小さく深呼吸をする。

 すると隣に座るお嬢様の女の子は唐突にこちらの手を両の手で握り、こんな言葉を口に出した。

「先程は名乗りもせず失礼致しましたわ。わたくしの名前は高円寺院こうえんじのいん形南あれなと申します。以後お見知り置きくださいましね」

 丁寧な口調でそう自己紹介してきたお嬢様の形南を見返しながら嶺歌は「あ、どうも。えっとあたしの名前は知ってるんですよね」と分かりきった言葉を口にしてしまう。

 しかし形南はニコリと嬉しそうに微笑むと「存じておりますわ」とこちらの発言を肯定するだけだった。

 そんな彼女の反応から品の良さがひしひしと伝わってくる。

 形南から感じられるオーラは未だに健在しており、緊張で嶺歌は本調子ではなかった。

 何か粗相をしてしまわないかと不安なのである。このように自分が緊張することは中々に珍しい経験であった。

 自己紹介が終わったところで嶺歌は気になっていた事を尋ねてみる事にした。

 一番に聞きたい事は他にあったが、その前に何が目的で嶺歌を連れ出したのかという事がこの状況では特に重要だ。

 協力を願いたいとは言ってたが、一体どんな協力なのかそれを知る必要があった。

 早速彼女に問い掛けると形南は勿体ぶる様子もなく、直ぐに答えを口に出す。

「はい。ご協力と言いますのはとあるお方に接触するのをお手伝い頂きたいのです」

「接触……? どういった方なんですか?」

 そう口にし、ハッと我に返る。安易に質問ばかりをしては無礼ではなかろうか。

 嶺歌は途端に青ざめるとその様子を正面から見ていた形南はくすくすと笑い出した。

「構いませんのよ。ご質問は尤もな事。ご協力いただく以上は、どんな事柄でもわたくしにお尋ね下さいな」

 そして彼女はうららかで上品な笑みを向けるとそのまま言葉を続けた。

「とあるお方というのはわたくしの運命のお方の事ですの」

 運命の方というのはつまり、婚約者という事だろうか。しかし言い方からするとまだ面識がないかのような言い方だ。

 嶺歌の脳内で次々と疑問が浮かび上がる中、形南は次に予想外な言葉を繰り出してきた。

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