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第一話①『謎のお嬢様』
しおりを挟む和泉嶺歌は早朝四時に起き上がると自身の魔法アイテムである透明ステッキを手に取り、いつもの様にそれを振るう。
そうするとあっという間に人間であった姿は煌びやかな魔法少女の姿へと変身し、普段はミディアムヘアである萱草色の髪の毛も変身と共にロングヘアに伸び、カラーも茶髪へと変色する。
気持ち程度に髪の先に残った萱草色の髪の毛は一種のアクセントとなっていた。
大胆に施された赤い大きなリボンはチュール素材の透明なリボンと重なり合い、サイドテールの結び目にしっかりと結び込まれ、もう一つの赤いリボンがサイドテールの周りを囲むように毛先にかけてくるくると巻きつかれる。
それに加えフリルたっぷりの衣装に魔法の力で化粧が施された嶺歌の姿は控えめに言っても眩いほどの美しさと可憐さを放ち、それを嶺歌自身も気に入っている。
嶺歌は、自分が魔法少女である事に誇りを持っていた。
「さてと、今日の依頼はっと……」
魔法少女になった瞬間から常に手元にある魔法通信具を起動させると、いつもの如く慣れた手つきで本日の依頼内容を確認する。
いくつかの依頼を確認し、優先度の高い内容を選択すると嶺歌は依頼決定を魔法協会へ送信し、通信具を閉じた。これで依頼内容は決定した。
嶺歌はそのまま五階の窓から飛び降りると落下する事なく俊敏な動きで住宅街の屋根を駆け抜けていく。
魔法少女の主な役目は慈善活動だ。
困っている人間を助けることが魔法少女に求められている。
空想の世界のように悪者と闘うという危険な依頼は今までに一度もない。
基本的には平和な世界だ。
だが、人間の中で悪事を働く者は少なからず存在しているのも事実である。
その際はその人物と対峙し、無力化する事が必須となる。そういった依頼も七対三の割合でくることがあった。
そして本日は慈善活動の方である。
嶺歌は迷子になり困っている小学生の男の子をすぐさま見つけると彼を抱きかかえ、自宅へと送り届けた。
男の子の住居の位置は魔法協会からの特殊な提供で知る事ができる。
依頼が終了した時点でその人物の個人情報は確認できなくなる仕組みとなっているのだ。
魔法少女の存在は世間には内密であるため、男の子の記憶はすぐに消去される事になる。とは言っても、それは嶺歌が消去を行う訳ではなかった。
魔法協会の自然能力で、魔法少女に無関係の人物は勝手に記憶を取り除かれるという仕組みになっている。
そのため嶺歌が直接何もしなくとも、男の子の前から消えた瞬間に彼が魔法少女に助けられたという記憶は自動的に削除され、それ以外の記憶だけが残される様になっている。
このような流れで魔法少女の存在は世間的には一切認知されていなかった。
「今日のノルマ終わりっと」
男の子を救出した後も数件の依頼を行い、登校時間が近づくと嶺歌は一旦自宅へと帰宅する。
家族に気づかれぬ様にそっと窓から自室へ戻ると魔法を解き、人間の姿へと戻った。
今の自分は寝巻きを着た寝癖のある普通の女の子である。
魔法を解けば嶺歌は一瞬でただの女子高校生へと戻る。魔法少女も普段は一般の人間として生きているのだ。この事は自身の家族ですら知らない。
変身を解くと支度を始め嶺歌が通う高校の制服を身につける。
そうしていつものように身だしなみを整え、自身のトレードマークとも言える赤リボンにチュール素材のリボンが重なった髪留めをサイドに施した。これは妹とお揃いの髪飾りであり、嶺歌のお気に入りだ。
嶺歌は魔法少女として働く自分も好きだが、人間として生きている自分も好きだ。
自己肯定感の上がる魔法少女としての使命を果たし、時間になれば一般人に紛れて女子高校生活を難なく送る。
嶺歌の人生は文句のない程に毎日が充実していた。自分の生活に何も不満などはなかった。
「れか~! おはよう! そのリボンやっぱ可愛いね~!」
「嶺歌ちゃんおは!! 今日もきまってるう~」
「レカレカ~! 聞いてよ昨日さあ」
学校へ行くといつものように友人たちが話し掛けてくれる。
嶺歌は一人一人にきちんと返事を返しながら朝の登校を迎えた。今日もいつも通りの日常だ。
嶺歌を慕ってくれる友人たちも楽しげに話し掛けてくれるクラスメイトたちも皆、嶺歌は好きだった。
「そう言えばさ、嶺歌は彼氏いつ作るの?」
朝礼が始まる前に友人の沢江詩荼が尋ねてくる。彼女のこの質問は前にもされた事があった。
「彼氏とかいらないよ。あたしは友達がいるだけで満足してるから」
「え~~!! 勿体無い!!!」
そう言って嶺歌の肩を軽く叩いてくる。
詩荼には交際して五ヶ月になる彼氏がおり、恋人の良さを実感しての発言なのは理解していた。
だが嶺歌は本当に心から異性との交際に興味がなかった。別に男が嫌いだというわけではない。
現に男友達は多く存在し、休日に遊びに出かけたりもしている。二人きりで、という状況だけは意識的に避けてはいるが、それ以外では異性との交流も多い方だ。
大勢の友達に恵まれ、魔法少女というもう一つの姿で人々の生活を守る。きっとそれだけで満足しているからなのだろう。
恋人という特別な存在を作りたいとは思わなかった。
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