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4.【夢は寝てから見るだけにして】
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子供は大人のようには納得しない。
自分の要求が叶うまでずっと癇癪を起こし続けられる。
まあ、何ですか。
それは幼児の行動と思っておりましたが、そうでもないようです。
「エリックは婚約破棄を理解していない」
「でしょうね」
偶然夜会で会ったエリックの兄であるフリードの言葉に即座に私が返すと、フリードは疲れを滲ませ苦笑した。
フリードは私が知る限りリーノ伯爵家で一番の常識人です。
両親やエリックと反りが合わず、普段は別邸で暮らしているとか。
「仕事も左遷されたんだけどね、楽な方に回してくれたと喜んでいる始末だ」
「それは違いますよ。解雇されております」
「……そりゃそうか」
公爵家のコネですが、あれでエリックは王城の事務員だったのですよ。
エリックの上司は母の弟で、私の叔父に当たるルト侯爵でした。
王城に勤める場合には、平の事務員にも一定の節度を持つ義務があります。
国民の規範になるようにと定められているので、婚約中に別の女と子供を作るなんて十分解雇理由になるんですよ。
エリックの働き始めた当初、一応叔父様達はディアーモ公爵家の婿に入るエリックに箔を付けようと頑張られたそうですが……結果は言わずもがな。
最早虐待と呼べるレベルで教育を一切受けていないエリックが、一体何が出来るかと言う事です。
結局叔父様達がほとんど仕事を肩代わりしていたとかで、ルト侯爵家はディアーモ公爵家に再三私の婚約の見直しを求めていたと聞きました。
叔父様は今も私の両親に怒っております。
「解雇と左遷の差が分からないって、どうすれば良いんだろうな」
「今のところそのままにしておけばいいのでは? その方が平和ですよ」
「あー……どうせ説明しても理解出来ないものな」
どちらかと言うとエリックは、理解しないと言うよりも、自分の考えとは違っている事を理解したくないから拒絶している方が正しい気もします。
拒絶して現実が変わる事はありませんから、無駄なんですけど。
「……そう言えば、子供はどうしました?」
声を潜めて聞いてみます。
周囲は話を分かっている人で固めていても、あまり大っぴらに結婚前に出来た子供の話はするものではありませんから。
「妊娠4ヶ月ってところらしい」
「まだ産んでいなかったの!」
驚いて少し声が大きくなってしまい、私は慌てて口を押さえます。
「何かエリックが言ってた?」
「……子供の為に若い乳母を雇って、子供を産んだ女性の為に部屋を用意しろと」
あら? 産む女性の為に、だったかしら?
乳母の話があまりに印象強くて何処かで勘違いしてしまったのかも知れません。
なるほど。産む予定だったからこそ、エリックの相手の友人達は何とかしようとしたのでしょう。
その部分だけに関しては筋が通りましたが、助けようとした友人が入り婿予定の男の愛人だって、ご自分達の為にも理解して欲しかったです。
「何度言っても、特に母がエリックが婿入りの下の立場だって分かってくれなくって……」
子供のやる事だから。
実は私宛にリーノ伯爵夫人は手紙を送ってきておりまして、そこにも書いてありました。
私はエリックの年下なのですが、謝罪の筈だった手紙には『大人なんだから許すべきだ』ともあり、なかなか強烈でした。
下位貴族の令嬢くらいだとあっさり日の目を見ない場所に退場させられるのですが、これが伯爵クラスだと難しいと父がぼやいておりました。
「……私とは破棄ですし、妊娠させたと分かっているならその女性とは結婚するか妾にするしかないですよね?」
「そうだね……それを両親も理解して欲しいよね」
私とフリードは不安が尽きないとため息をつきました。
現にこの夜会でも新たな問題が起きようとしていました。
私達から離れた場所で、父はリーノ伯爵に話しかけられていました。
夜会の招待状はかなり前に送られてきておりますし、破棄の理由を知れば普通の神経なら話しかけないと主催者も思っていたのでしょう。
ですが、リーノ伯爵は普通の神経ではありません。
エリックの言葉で無知な令嬢達が娼館送りになった事は、全て令嬢達の教育を怠ったからとリーノ伯爵は突っぱねたそうです。
確かに令嬢達の言動は非常識でしたが、エリックの言葉に踊らされなければ下位貴族として友人達と仲良く生きていけたでしょう。
リーノ伯爵にとって可哀想なのはエリックだけ。勝手に何も考えずに行動した令嬢達が悪いと言い放ったとか。
「そう言えば、エリックはいつ頃引っ越した方が良いでしょう?」
しっかりと破棄を伝えたはずなのに、父は驚いたそうです。
後から父が教えてくれましたが、私も信じられませんでした。
「婚約は破棄したが?」
「ははは。いつまでも怒っているなんてらしくない。それともヒルダ様がまだ拗ねられておりますか?」
「……婚約は破棄した。娘はお前の息子と結婚はしない」
「私もエリックに言い聞かせましたから、公爵もヒルダ様に言い聞かせて下さいよ。いつまでも拗ねるなんて、我が儘にはガツンと」
「何故私が娘にそんな事を言わなければならないんだ?」
その言葉で終始へらへらしていたリーノ伯爵が、ようやく父が怒っている事に気が付いたそうです。
自分達が子供だと思っているからなんて、既にその押しつけをディアーモ公爵家が拒否している事もリーノ伯爵は分かっていなかった。
「何故問題のあるお前の息子を我が家に婿に来させると思っている? 最低限の礼儀を弁えた男など他に大勢いる。婚約中に他の家の未婚の令嬢を孕ませた男などいらん」
父はこの時私に我慢を強いていた事を最も悔いたそうです。
自分の口で言って、エリックがどんなに愚かしい男だったのか改めて理解したとか。
公衆の面前ではっきり父が拒絶すると、リーノ伯爵は何も言えなくなったそうです。
そのままリーノ伯爵を無視し、父は他の貴族と交流を深める為に移動したと言う話でした。
そこからぷっつりとリーノ伯爵家から送られてきた、婚約破棄を理解しない謎の手紙は途絶えました。
少なくともフリードとリーノ伯爵本人は、現状を理解したと思って良いのかも知れません。
これで一つ山を越えましたが、私の父はエリックの相手を突き止め、その実家であるノルーン男爵家に慰謝料を請求しておりました。
「入り婿予定の愛人になってどうしたかったの? 入り婿になってからでも問題だけど、姉さんの子供なんて誰も喜ばないわよ」
ベリーナは妹の言葉に耐えかね、家を飛び出した。
彼女達の父親はかなりの資産家で、慰謝料自体は払えるのだが、醜聞を起こした娘を廃嫡する手続きを取っていた。
「エリック!」
仕事を解雇された事を理解しない、左遷で時間が空いていると思っているエリックは、ベリーナの望み通りに避難場所のアパートにいた。
下手にリーノ伯爵家にいたら周囲が責めるからと、リーノ伯爵夫人がエリックの為に用意した隠れ家だ。
「大丈夫よね? 私達の子供は公爵になるんだよね?」
「そうだよ! 僕が跡取りなのは何も変わっていない。小父さん達は僕に甘いからね。今は穏便に追い出す為にもヒルダの機嫌を取っているだけだよ」
エリックが夢を見れば、その言葉を信じるベリーナも夢を見る。
それはそれは甘美な都合の良い夢が現実になると、2人は疑う事もなかった。
隠れ家の管理を任されている従者が2人の前に立つ。
「エリック様、旦那様がお呼びです。ベリーナ様もご一緒に」
けれど、他は誰も夢を見ていない。
一番エリックに甘いリーノ伯爵夫人だって、そもそもエリックがディアーモ公爵になれない事を知っていた。
あくまでもここは現実だ。
「きっと一緒に食事だろう」
はしゃぐエリック達を温度のない目で見つめている従者は、何も告げない。
既に結論は説明されている。
夢は夢でしかないだけだ。
自分の要求が叶うまでずっと癇癪を起こし続けられる。
まあ、何ですか。
それは幼児の行動と思っておりましたが、そうでもないようです。
「エリックは婚約破棄を理解していない」
「でしょうね」
偶然夜会で会ったエリックの兄であるフリードの言葉に即座に私が返すと、フリードは疲れを滲ませ苦笑した。
フリードは私が知る限りリーノ伯爵家で一番の常識人です。
両親やエリックと反りが合わず、普段は別邸で暮らしているとか。
「仕事も左遷されたんだけどね、楽な方に回してくれたと喜んでいる始末だ」
「それは違いますよ。解雇されております」
「……そりゃそうか」
公爵家のコネですが、あれでエリックは王城の事務員だったのですよ。
エリックの上司は母の弟で、私の叔父に当たるルト侯爵でした。
王城に勤める場合には、平の事務員にも一定の節度を持つ義務があります。
国民の規範になるようにと定められているので、婚約中に別の女と子供を作るなんて十分解雇理由になるんですよ。
エリックの働き始めた当初、一応叔父様達はディアーモ公爵家の婿に入るエリックに箔を付けようと頑張られたそうですが……結果は言わずもがな。
最早虐待と呼べるレベルで教育を一切受けていないエリックが、一体何が出来るかと言う事です。
結局叔父様達がほとんど仕事を肩代わりしていたとかで、ルト侯爵家はディアーモ公爵家に再三私の婚約の見直しを求めていたと聞きました。
叔父様は今も私の両親に怒っております。
「解雇と左遷の差が分からないって、どうすれば良いんだろうな」
「今のところそのままにしておけばいいのでは? その方が平和ですよ」
「あー……どうせ説明しても理解出来ないものな」
どちらかと言うとエリックは、理解しないと言うよりも、自分の考えとは違っている事を理解したくないから拒絶している方が正しい気もします。
拒絶して現実が変わる事はありませんから、無駄なんですけど。
「……そう言えば、子供はどうしました?」
声を潜めて聞いてみます。
周囲は話を分かっている人で固めていても、あまり大っぴらに結婚前に出来た子供の話はするものではありませんから。
「妊娠4ヶ月ってところらしい」
「まだ産んでいなかったの!」
驚いて少し声が大きくなってしまい、私は慌てて口を押さえます。
「何かエリックが言ってた?」
「……子供の為に若い乳母を雇って、子供を産んだ女性の為に部屋を用意しろと」
あら? 産む女性の為に、だったかしら?
乳母の話があまりに印象強くて何処かで勘違いしてしまったのかも知れません。
なるほど。産む予定だったからこそ、エリックの相手の友人達は何とかしようとしたのでしょう。
その部分だけに関しては筋が通りましたが、助けようとした友人が入り婿予定の男の愛人だって、ご自分達の為にも理解して欲しかったです。
「何度言っても、特に母がエリックが婿入りの下の立場だって分かってくれなくって……」
子供のやる事だから。
実は私宛にリーノ伯爵夫人は手紙を送ってきておりまして、そこにも書いてありました。
私はエリックの年下なのですが、謝罪の筈だった手紙には『大人なんだから許すべきだ』ともあり、なかなか強烈でした。
下位貴族の令嬢くらいだとあっさり日の目を見ない場所に退場させられるのですが、これが伯爵クラスだと難しいと父がぼやいておりました。
「……私とは破棄ですし、妊娠させたと分かっているならその女性とは結婚するか妾にするしかないですよね?」
「そうだね……それを両親も理解して欲しいよね」
私とフリードは不安が尽きないとため息をつきました。
現にこの夜会でも新たな問題が起きようとしていました。
私達から離れた場所で、父はリーノ伯爵に話しかけられていました。
夜会の招待状はかなり前に送られてきておりますし、破棄の理由を知れば普通の神経なら話しかけないと主催者も思っていたのでしょう。
ですが、リーノ伯爵は普通の神経ではありません。
エリックの言葉で無知な令嬢達が娼館送りになった事は、全て令嬢達の教育を怠ったからとリーノ伯爵は突っぱねたそうです。
確かに令嬢達の言動は非常識でしたが、エリックの言葉に踊らされなければ下位貴族として友人達と仲良く生きていけたでしょう。
リーノ伯爵にとって可哀想なのはエリックだけ。勝手に何も考えずに行動した令嬢達が悪いと言い放ったとか。
「そう言えば、エリックはいつ頃引っ越した方が良いでしょう?」
しっかりと破棄を伝えたはずなのに、父は驚いたそうです。
後から父が教えてくれましたが、私も信じられませんでした。
「婚約は破棄したが?」
「ははは。いつまでも怒っているなんてらしくない。それともヒルダ様がまだ拗ねられておりますか?」
「……婚約は破棄した。娘はお前の息子と結婚はしない」
「私もエリックに言い聞かせましたから、公爵もヒルダ様に言い聞かせて下さいよ。いつまでも拗ねるなんて、我が儘にはガツンと」
「何故私が娘にそんな事を言わなければならないんだ?」
その言葉で終始へらへらしていたリーノ伯爵が、ようやく父が怒っている事に気が付いたそうです。
自分達が子供だと思っているからなんて、既にその押しつけをディアーモ公爵家が拒否している事もリーノ伯爵は分かっていなかった。
「何故問題のあるお前の息子を我が家に婿に来させると思っている? 最低限の礼儀を弁えた男など他に大勢いる。婚約中に他の家の未婚の令嬢を孕ませた男などいらん」
父はこの時私に我慢を強いていた事を最も悔いたそうです。
自分の口で言って、エリックがどんなに愚かしい男だったのか改めて理解したとか。
公衆の面前ではっきり父が拒絶すると、リーノ伯爵は何も言えなくなったそうです。
そのままリーノ伯爵を無視し、父は他の貴族と交流を深める為に移動したと言う話でした。
そこからぷっつりとリーノ伯爵家から送られてきた、婚約破棄を理解しない謎の手紙は途絶えました。
少なくともフリードとリーノ伯爵本人は、現状を理解したと思って良いのかも知れません。
これで一つ山を越えましたが、私の父はエリックの相手を突き止め、その実家であるノルーン男爵家に慰謝料を請求しておりました。
「入り婿予定の愛人になってどうしたかったの? 入り婿になってからでも問題だけど、姉さんの子供なんて誰も喜ばないわよ」
ベリーナは妹の言葉に耐えかね、家を飛び出した。
彼女達の父親はかなりの資産家で、慰謝料自体は払えるのだが、醜聞を起こした娘を廃嫡する手続きを取っていた。
「エリック!」
仕事を解雇された事を理解しない、左遷で時間が空いていると思っているエリックは、ベリーナの望み通りに避難場所のアパートにいた。
下手にリーノ伯爵家にいたら周囲が責めるからと、リーノ伯爵夫人がエリックの為に用意した隠れ家だ。
「大丈夫よね? 私達の子供は公爵になるんだよね?」
「そうだよ! 僕が跡取りなのは何も変わっていない。小父さん達は僕に甘いからね。今は穏便に追い出す為にもヒルダの機嫌を取っているだけだよ」
エリックが夢を見れば、その言葉を信じるベリーナも夢を見る。
それはそれは甘美な都合の良い夢が現実になると、2人は疑う事もなかった。
隠れ家の管理を任されている従者が2人の前に立つ。
「エリック様、旦那様がお呼びです。ベリーナ様もご一緒に」
けれど、他は誰も夢を見ていない。
一番エリックに甘いリーノ伯爵夫人だって、そもそもエリックがディアーモ公爵になれない事を知っていた。
あくまでもここは現実だ。
「きっと一緒に食事だろう」
はしゃぐエリック達を温度のない目で見つめている従者は、何も告げない。
既に結論は説明されている。
夢は夢でしかないだけだ。
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