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4話
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ヴォルガード帝国の帝都は、熱砂と石造りの建物が織りなす、活気と威厳に満ちた街だった。
魔導列車が駅に滑り込むと、そこには皇帝の凱旋を祝う大勢の民衆が集まっていた。
「ゼノス様……外が、騒がしいです」
エリュシオンは、ゼノスに用意された豪奢な外套に身を包み、不安げにその裾を掴んだ。
地下牢にいた頃とはあまりに違う世界。人々の視線が、刃物のように自分を切り刻むのではないか――そんな予感に身体を震わせる。
「気にするな。お前は俺の隣にいろ。それだけでいい」
ゼノスは当然のようにエリュシオンの腰を抱き寄せ、密着させたまま列車を降りた。
皇帝が「何か」を抱きかかえるようにして現れたことに、周囲の貴族や文官たちの間にざわめきが広がる。
――あれが、陛下が戦地から連れ帰ったという……。
――ただの平民か? いえ、どこかの没落貴族の生き残りだとか。
――あんな弱々しい男のどこに、陛下を惑わす魅力があるというのだ。
向けられる視線は好奇と、そして明らかな蔑み。
エリュシオンは顔を伏せ、ゼノスの胸に顔を埋めた。
その瞬間、ゼノスの身体から凍りつくような威圧感が放たれた。
「……静かにしろ」
低く、地を這うような声。
たった一言で、広場は静まり返った。
ゼノスの金色の瞳が、不遜な視線を送っていた貴族たちを冷酷に射抜く。
「この者は、俺が命を懸けて守ると決めた者だ。次に不敬な視線を向けた者は、その目玉を抉り出し、二度と日の光を拝めぬようにしてやる。……分かったか」
冗談ではない。この皇帝は、本気でやる。
貴族たちは真っ青になり、蜘蛛の子を散らすように道を開けた。
皇宮へ入ると、ゼノスはエリュシオンを彼専用に用意させた離宮へと案内した。
そこは、エリュシオンの瞳と同じサファイアの色をした花々が咲き乱れる、美しい場所だった。
「ここは、お前だけの場所だ。許可なく誰も立ち入らせん。……エリュシオン、少しは落ち着いたか?」
「はい……ありがとうございます、ゼノス。でも、僕のせいであなたが悪く言われるのは、嫌です……」
エリュシオンの健気な言葉に、ゼノスの理性は容易く決壊する。
彼はエリュシオンを壁際に追い詰め、両手で逃げ場を塞いだ。
「お前は本当に……。誰が何を言おうと、俺はお前を離さないと言っただろう」
「あ……っ」
強引な口づけが降ってくる。
先ほどまでの冷酷な皇帝の顔はどこへやら、今のゼノスはただ、愛する者を貪り尽くしたいという欲望に忠実な男の顔をしていた。
「ん、ふ……ゼノ、ス……っ、苦しい……」
「苦しければ、俺に縋れ。お前のすべてを俺に委ねろ」
ゼノスはエリュシオンの細い手首を頭上に押さえつけ、空いた手で外套のボタンを一つずつ外していく。
露わになった白い鎖骨に、ゼノスが深い痕を刻むように噛みついた。
「あぁっ……!? 痛、い……です……」
「消えない痕をつけてやる。お前が俺の所有物だと、誰が見ても分かるようにな」
ゼノスの独占欲は、もはやとどまるところを知らなかった。
エリュシオンは熱い吐息を吐きながら、自分の身体に刻まれる「支配の証」を、拒むことができなかった。
むしろ、その痛みこそが、自分がここにいてもいいという証明のように感じてしまったのだ。
だが、二人の蜜月を遮るように、離宮の入り口で冷ややかな声が響いた。
「あら、陛下。そんな汚らわしい『無能』に、これほどまで熱を上げられるとは……。帝国の格が落ちてしまいますわ」
そこに立っていたのは、派手なドレスを纏った美女――かつてエリュシオンを虐げた没落貴族の実家とも繋がりのある、高位貴族の娘、ライラだった。
エリュシオンの顔から、血の気が引いていく。
過去の恐怖が、再び彼を襲おうとしていた。
魔導列車が駅に滑り込むと、そこには皇帝の凱旋を祝う大勢の民衆が集まっていた。
「ゼノス様……外が、騒がしいです」
エリュシオンは、ゼノスに用意された豪奢な外套に身を包み、不安げにその裾を掴んだ。
地下牢にいた頃とはあまりに違う世界。人々の視線が、刃物のように自分を切り刻むのではないか――そんな予感に身体を震わせる。
「気にするな。お前は俺の隣にいろ。それだけでいい」
ゼノスは当然のようにエリュシオンの腰を抱き寄せ、密着させたまま列車を降りた。
皇帝が「何か」を抱きかかえるようにして現れたことに、周囲の貴族や文官たちの間にざわめきが広がる。
――あれが、陛下が戦地から連れ帰ったという……。
――ただの平民か? いえ、どこかの没落貴族の生き残りだとか。
――あんな弱々しい男のどこに、陛下を惑わす魅力があるというのだ。
向けられる視線は好奇と、そして明らかな蔑み。
エリュシオンは顔を伏せ、ゼノスの胸に顔を埋めた。
その瞬間、ゼノスの身体から凍りつくような威圧感が放たれた。
「……静かにしろ」
低く、地を這うような声。
たった一言で、広場は静まり返った。
ゼノスの金色の瞳が、不遜な視線を送っていた貴族たちを冷酷に射抜く。
「この者は、俺が命を懸けて守ると決めた者だ。次に不敬な視線を向けた者は、その目玉を抉り出し、二度と日の光を拝めぬようにしてやる。……分かったか」
冗談ではない。この皇帝は、本気でやる。
貴族たちは真っ青になり、蜘蛛の子を散らすように道を開けた。
皇宮へ入ると、ゼノスはエリュシオンを彼専用に用意させた離宮へと案内した。
そこは、エリュシオンの瞳と同じサファイアの色をした花々が咲き乱れる、美しい場所だった。
「ここは、お前だけの場所だ。許可なく誰も立ち入らせん。……エリュシオン、少しは落ち着いたか?」
「はい……ありがとうございます、ゼノス。でも、僕のせいであなたが悪く言われるのは、嫌です……」
エリュシオンの健気な言葉に、ゼノスの理性は容易く決壊する。
彼はエリュシオンを壁際に追い詰め、両手で逃げ場を塞いだ。
「お前は本当に……。誰が何を言おうと、俺はお前を離さないと言っただろう」
「あ……っ」
強引な口づけが降ってくる。
先ほどまでの冷酷な皇帝の顔はどこへやら、今のゼノスはただ、愛する者を貪り尽くしたいという欲望に忠実な男の顔をしていた。
「ん、ふ……ゼノ、ス……っ、苦しい……」
「苦しければ、俺に縋れ。お前のすべてを俺に委ねろ」
ゼノスはエリュシオンの細い手首を頭上に押さえつけ、空いた手で外套のボタンを一つずつ外していく。
露わになった白い鎖骨に、ゼノスが深い痕を刻むように噛みついた。
「あぁっ……!? 痛、い……です……」
「消えない痕をつけてやる。お前が俺の所有物だと、誰が見ても分かるようにな」
ゼノスの独占欲は、もはやとどまるところを知らなかった。
エリュシオンは熱い吐息を吐きながら、自分の身体に刻まれる「支配の証」を、拒むことができなかった。
むしろ、その痛みこそが、自分がここにいてもいいという証明のように感じてしまったのだ。
だが、二人の蜜月を遮るように、離宮の入り口で冷ややかな声が響いた。
「あら、陛下。そんな汚らわしい『無能』に、これほどまで熱を上げられるとは……。帝国の格が落ちてしまいますわ」
そこに立っていたのは、派手なドレスを纏った美女――かつてエリュシオンを虐げた没落貴族の実家とも繋がりのある、高位貴族の娘、ライラだった。
エリュシオンの顔から、血の気が引いていく。
過去の恐怖が、再び彼を襲おうとしていた。
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