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3話
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ヴォルガード帝国の誇る巨大魔導列車は、大陸を切り裂くような速さで帝都へと突き進んでいた。
エリュシオンは、これまでの人生で見たこともないほど豪華な客室の窓際で、流れる景色を呆然と眺めていた。
「……空が、こんなに広いなんて」
地下牢の天窓から見えていた、手のひらほどの四角い空とは違う。
どこまでも続く草原と、高く澄み渡った青。
その美しさに目を奪われていると、背後から音もなく近づいてきた影に包み込まれた。
「景色は気に入ったか?」
低い声と共に、大きな手がエリュシオンの腰に回される。
ゼノスだ。彼は当然のようにエリュシオンを後ろから抱き込み、その白い首筋に鼻先を寄せた。
「ひゃっ……ぜ、ゼノス様……」
「ここでは二人きりだ。様などいらんと言っただろう。……それとも、もっと身体で分からせてほしいか?」
耳元で囁かれる艶を含んだ声に、エリュシオンの身体がびくりとはねる。
ゼノスは満足そうに喉を鳴らすと、エリュシオンの柔らかな耳たぶを甘噛みした。
「あ……んっ……」
小さな喘ぎ声が漏れる。
エリュシオンにとって、この数日間は奇跡と恐怖の連続だった。
帝国軍の最高級の衣類を与えられ、栄養のある食事を与えられ、そして何より、この「皇帝」から片時も離されることなく愛撫されている。
ゼノスは、エリュシオンが外の景色に気を取られているのが気に入らないのか、強引に彼の身体を自分の方へと向けさせた。
「俺を見ろ、エリュシオン。お前の瞳に映るのは、俺だけでいい」
「……でも、外が、あんまり綺麗で……」
「お前の方が、数倍綺麗だ。……まだ少し顔色が悪いな。やはりもっと肉をつけさせねばならん」
ゼノスの指先が、エリュシオンの薄い唇をなぞる。
その瞳には、獲物を愛でる捕食者の情熱と、狂おしいほどの執着が宿っていた。
エリュシオンは、ゼノスの強引さに戸惑いつつも、不思議な安らぎを感じていた。
これまでの人生で、誰かが自分のことをこれほどまでに「必要」としてくれたことがあっただろうか。
その時、客室の扉がノックされ、側近のカインが声をかけた。
「陛下、失礼いたします。国境守備隊の将軍らが、陛下への拝謁と……例の『拾い物』を一目見たいと集まっております」
拾い物、という言葉にエリュシオンの肩がびくっと震える。
自分は所詮、戦利品なのだ。その現実が冷たく突き刺さる。
だが、ゼノスの反応は違った。
「拾い物だと?」
ゼノスの声から、温度が消えた。
カインが思わず息を呑むほどの、冷徹な殺気が部屋に満ちる。
「カイン。言葉を選べ。これは俺の『番(つがい)』だ。これ以上、あの者たちのような下俗な呼び方をするなら、その舌を引き抜くぞ」
「……失礼いたしました。以後、肝に銘じます」
カインは深く頭を下げ、冷や汗を拭った。
帝国の冷酷な皇帝が、これほどまでに一人の人間に執着するなど、誰も予想していなかったのだ。
ゼノスはエリュシオンの頬を両手で包み込み、言い聞かせるように告げた。
「エリュシオン、お前は何も恐れる必要はない。お前を傷つける者、侮辱する者は、たとえ誰であろうと俺が地獄へ送る。……俺だけが、お前を愛してやる」
「ゼノス……」
エリュシオンの大きな瞳から、ぽろりと一筋の涙がこぼれた。
悲しいわけではない。あまりの熱量に、心が耐えきれなくなったのだ。
ゼノスはその涙を舌先で丁寧に掬い取ると、エリュシオンを抱き上げ、寝台へと運び込んだ。
「泣くな。お前のその『氷』のような冷たさを、俺の体温で全て溶かし尽くしてやると言っただろう」
「あ、ん……っ」
列車が揺れるたび、二人の肌が密着する。
エリュシオンの心臓は、壊れた鐘のように激しく鳴り響いていた。
ゼノスの大きな手が服の中に滑り込み、敏感な場所を容赦なく刺激していく。
「もっと鳴け、エリュシオン。お前の可愛い声も、震える身体も、すべて俺だけのものだ……」
帝都に着く頃には、もう戻れない。
エリュシオンは、自分を支配する熱い腕の中に、深く、深く沈んでいった。
エリュシオンは、これまでの人生で見たこともないほど豪華な客室の窓際で、流れる景色を呆然と眺めていた。
「……空が、こんなに広いなんて」
地下牢の天窓から見えていた、手のひらほどの四角い空とは違う。
どこまでも続く草原と、高く澄み渡った青。
その美しさに目を奪われていると、背後から音もなく近づいてきた影に包み込まれた。
「景色は気に入ったか?」
低い声と共に、大きな手がエリュシオンの腰に回される。
ゼノスだ。彼は当然のようにエリュシオンを後ろから抱き込み、その白い首筋に鼻先を寄せた。
「ひゃっ……ぜ、ゼノス様……」
「ここでは二人きりだ。様などいらんと言っただろう。……それとも、もっと身体で分からせてほしいか?」
耳元で囁かれる艶を含んだ声に、エリュシオンの身体がびくりとはねる。
ゼノスは満足そうに喉を鳴らすと、エリュシオンの柔らかな耳たぶを甘噛みした。
「あ……んっ……」
小さな喘ぎ声が漏れる。
エリュシオンにとって、この数日間は奇跡と恐怖の連続だった。
帝国軍の最高級の衣類を与えられ、栄養のある食事を与えられ、そして何より、この「皇帝」から片時も離されることなく愛撫されている。
ゼノスは、エリュシオンが外の景色に気を取られているのが気に入らないのか、強引に彼の身体を自分の方へと向けさせた。
「俺を見ろ、エリュシオン。お前の瞳に映るのは、俺だけでいい」
「……でも、外が、あんまり綺麗で……」
「お前の方が、数倍綺麗だ。……まだ少し顔色が悪いな。やはりもっと肉をつけさせねばならん」
ゼノスの指先が、エリュシオンの薄い唇をなぞる。
その瞳には、獲物を愛でる捕食者の情熱と、狂おしいほどの執着が宿っていた。
エリュシオンは、ゼノスの強引さに戸惑いつつも、不思議な安らぎを感じていた。
これまでの人生で、誰かが自分のことをこれほどまでに「必要」としてくれたことがあっただろうか。
その時、客室の扉がノックされ、側近のカインが声をかけた。
「陛下、失礼いたします。国境守備隊の将軍らが、陛下への拝謁と……例の『拾い物』を一目見たいと集まっております」
拾い物、という言葉にエリュシオンの肩がびくっと震える。
自分は所詮、戦利品なのだ。その現実が冷たく突き刺さる。
だが、ゼノスの反応は違った。
「拾い物だと?」
ゼノスの声から、温度が消えた。
カインが思わず息を呑むほどの、冷徹な殺気が部屋に満ちる。
「カイン。言葉を選べ。これは俺の『番(つがい)』だ。これ以上、あの者たちのような下俗な呼び方をするなら、その舌を引き抜くぞ」
「……失礼いたしました。以後、肝に銘じます」
カインは深く頭を下げ、冷や汗を拭った。
帝国の冷酷な皇帝が、これほどまでに一人の人間に執着するなど、誰も予想していなかったのだ。
ゼノスはエリュシオンの頬を両手で包み込み、言い聞かせるように告げた。
「エリュシオン、お前は何も恐れる必要はない。お前を傷つける者、侮辱する者は、たとえ誰であろうと俺が地獄へ送る。……俺だけが、お前を愛してやる」
「ゼノス……」
エリュシオンの大きな瞳から、ぽろりと一筋の涙がこぼれた。
悲しいわけではない。あまりの熱量に、心が耐えきれなくなったのだ。
ゼノスはその涙を舌先で丁寧に掬い取ると、エリュシオンを抱き上げ、寝台へと運び込んだ。
「泣くな。お前のその『氷』のような冷たさを、俺の体温で全て溶かし尽くしてやると言っただろう」
「あ、ん……っ」
列車が揺れるたび、二人の肌が密着する。
エリュシオンの心臓は、壊れた鐘のように激しく鳴り響いていた。
ゼノスの大きな手が服の中に滑り込み、敏感な場所を容赦なく刺激していく。
「もっと鳴け、エリュシオン。お前の可愛い声も、震える身体も、すべて俺だけのものだ……」
帝都に着く頃には、もう戻れない。
エリュシオンは、自分を支配する熱い腕の中に、深く、深く沈んでいった。
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