4 / 21
4話
しおりを挟む
ヴォルガード帝国の帝都は、熱砂と石造りの建物が織りなす、活気と威厳に満ちた街だった。
魔導列車が駅に滑り込むと、そこには皇帝の凱旋を祝う大勢の民衆が集まっていた。
「ゼノス様……外が、騒がしいです」
エリュシオンは、ゼノスに用意された豪奢な外套に身を包み、不安げにその裾を掴んだ。
地下牢にいた頃とはあまりに違う世界。人々の視線が、刃物のように自分を切り刻むのではないか――そんな予感に身体を震わせる。
「気にするな。お前は俺の隣にいろ。それだけでいい」
ゼノスは当然のようにエリュシオンの腰を抱き寄せ、密着させたまま列車を降りた。
皇帝が「何か」を抱きかかえるようにして現れたことに、周囲の貴族や文官たちの間にざわめきが広がる。
――あれが、陛下が戦地から連れ帰ったという……。
――ただの平民か? いえ、どこかの没落貴族の生き残りだとか。
――あんな弱々しい男のどこに、陛下を惑わす魅力があるというのだ。
向けられる視線は好奇と、そして明らかな蔑み。
エリュシオンは顔を伏せ、ゼノスの胸に顔を埋めた。
その瞬間、ゼノスの身体から凍りつくような威圧感が放たれた。
「……静かにしろ」
低く、地を這うような声。
たった一言で、広場は静まり返った。
ゼノスの金色の瞳が、不遜な視線を送っていた貴族たちを冷酷に射抜く。
「この者は、俺が命を懸けて守ると決めた者だ。次に不敬な視線を向けた者は、その目玉を抉り出し、二度と日の光を拝めぬようにしてやる。……分かったか」
冗談ではない。この皇帝は、本気でやる。
貴族たちは真っ青になり、蜘蛛の子を散らすように道を開けた。
皇宮へ入ると、ゼノスはエリュシオンを彼専用に用意させた離宮へと案内した。
そこは、エリュシオンの瞳と同じサファイアの色をした花々が咲き乱れる、美しい場所だった。
「ここは、お前だけの場所だ。許可なく誰も立ち入らせん。……エリュシオン、少しは落ち着いたか?」
「はい……ありがとうございます、ゼノス。でも、僕のせいであなたが悪く言われるのは、嫌です……」
エリュシオンの健気な言葉に、ゼノスの理性は容易く決壊する。
彼はエリュシオンを壁際に追い詰め、両手で逃げ場を塞いだ。
「お前は本当に……。誰が何を言おうと、俺はお前を離さないと言っただろう」
「あ……っ」
強引な口づけが降ってくる。
先ほどまでの冷酷な皇帝の顔はどこへやら、今のゼノスはただ、愛する者を貪り尽くしたいという欲望に忠実な男の顔をしていた。
「ん、ふ……ゼノ、ス……っ、苦しい……」
「苦しければ、俺に縋れ。お前のすべてを俺に委ねろ」
ゼノスはエリュシオンの細い手首を頭上に押さえつけ、空いた手で外套のボタンを一つずつ外していく。
露わになった白い鎖骨に、ゼノスが深い痕を刻むように噛みついた。
「あぁっ……!? 痛、い……です……」
「消えない痕をつけてやる。お前が俺の所有物だと、誰が見ても分かるようにな」
ゼノスの独占欲は、もはやとどまるところを知らなかった。
エリュシオンは熱い吐息を吐きながら、自分の身体に刻まれる「支配の証」を、拒むことができなかった。
むしろ、その痛みこそが、自分がここにいてもいいという証明のように感じてしまったのだ。
だが、二人の蜜月を遮るように、離宮の入り口で冷ややかな声が響いた。
「あら、陛下。そんな汚らわしい『無能』に、これほどまで熱を上げられるとは……。帝国の格が落ちてしまいますわ」
そこに立っていたのは、派手なドレスを纏った美女――かつてエリュシオンを虐げた没落貴族の実家とも繋がりのある、高位貴族の娘、ライラだった。
エリュシオンの顔から、血の気が引いていく。
過去の恐怖が、再び彼を襲おうとしていた。
魔導列車が駅に滑り込むと、そこには皇帝の凱旋を祝う大勢の民衆が集まっていた。
「ゼノス様……外が、騒がしいです」
エリュシオンは、ゼノスに用意された豪奢な外套に身を包み、不安げにその裾を掴んだ。
地下牢にいた頃とはあまりに違う世界。人々の視線が、刃物のように自分を切り刻むのではないか――そんな予感に身体を震わせる。
「気にするな。お前は俺の隣にいろ。それだけでいい」
ゼノスは当然のようにエリュシオンの腰を抱き寄せ、密着させたまま列車を降りた。
皇帝が「何か」を抱きかかえるようにして現れたことに、周囲の貴族や文官たちの間にざわめきが広がる。
――あれが、陛下が戦地から連れ帰ったという……。
――ただの平民か? いえ、どこかの没落貴族の生き残りだとか。
――あんな弱々しい男のどこに、陛下を惑わす魅力があるというのだ。
向けられる視線は好奇と、そして明らかな蔑み。
エリュシオンは顔を伏せ、ゼノスの胸に顔を埋めた。
その瞬間、ゼノスの身体から凍りつくような威圧感が放たれた。
「……静かにしろ」
低く、地を這うような声。
たった一言で、広場は静まり返った。
ゼノスの金色の瞳が、不遜な視線を送っていた貴族たちを冷酷に射抜く。
「この者は、俺が命を懸けて守ると決めた者だ。次に不敬な視線を向けた者は、その目玉を抉り出し、二度と日の光を拝めぬようにしてやる。……分かったか」
冗談ではない。この皇帝は、本気でやる。
貴族たちは真っ青になり、蜘蛛の子を散らすように道を開けた。
皇宮へ入ると、ゼノスはエリュシオンを彼専用に用意させた離宮へと案内した。
そこは、エリュシオンの瞳と同じサファイアの色をした花々が咲き乱れる、美しい場所だった。
「ここは、お前だけの場所だ。許可なく誰も立ち入らせん。……エリュシオン、少しは落ち着いたか?」
「はい……ありがとうございます、ゼノス。でも、僕のせいであなたが悪く言われるのは、嫌です……」
エリュシオンの健気な言葉に、ゼノスの理性は容易く決壊する。
彼はエリュシオンを壁際に追い詰め、両手で逃げ場を塞いだ。
「お前は本当に……。誰が何を言おうと、俺はお前を離さないと言っただろう」
「あ……っ」
強引な口づけが降ってくる。
先ほどまでの冷酷な皇帝の顔はどこへやら、今のゼノスはただ、愛する者を貪り尽くしたいという欲望に忠実な男の顔をしていた。
「ん、ふ……ゼノ、ス……っ、苦しい……」
「苦しければ、俺に縋れ。お前のすべてを俺に委ねろ」
ゼノスはエリュシオンの細い手首を頭上に押さえつけ、空いた手で外套のボタンを一つずつ外していく。
露わになった白い鎖骨に、ゼノスが深い痕を刻むように噛みついた。
「あぁっ……!? 痛、い……です……」
「消えない痕をつけてやる。お前が俺の所有物だと、誰が見ても分かるようにな」
ゼノスの独占欲は、もはやとどまるところを知らなかった。
エリュシオンは熱い吐息を吐きながら、自分の身体に刻まれる「支配の証」を、拒むことができなかった。
むしろ、その痛みこそが、自分がここにいてもいいという証明のように感じてしまったのだ。
だが、二人の蜜月を遮るように、離宮の入り口で冷ややかな声が響いた。
「あら、陛下。そんな汚らわしい『無能』に、これほどまで熱を上げられるとは……。帝国の格が落ちてしまいますわ」
そこに立っていたのは、派手なドレスを纏った美女――かつてエリュシオンを虐げた没落貴族の実家とも繋がりのある、高位貴族の娘、ライラだった。
エリュシオンの顔から、血の気が引いていく。
過去の恐怖が、再び彼を襲おうとしていた。
20
あなたにおすすめの小説
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる