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17話
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車内での一件以来、龍崎の「独占欲」はもはや隠そうともしない、剥き出しのものへと進化した。
だが、恋愛経験ゼロの極道が辿り着いた「愛情表現」は、陽太の想像を遥かに超える斜め上の方向へと突き進んでいく。
「……佐々木、これを使え」
ある日の非番、龍崎に呼び出された陽太の前に差し出されたのは、光り輝く最新型の外車のキーだった。
「……何ですか、これ」
「貴様の安全を確保するための防弾仕様車だ。GPSも完備している。これからは通勤にこれを使え。運転手もつけてやる」
「……却下です。病院の駐車場にこんなの停めたら、僕、明日から解雇(クビ)ですよ」
陽太が深いため息をつくと、龍崎は目に見えて落胆した。
彼にとって「守ること」と「与えること」は愛と同義なのだが、そのスケールが一般常識を逸脱している。
「では、このマンションの最上階を……」
「いりませんって! あの……龍崎さん。気持ちは嬉しいですけど、僕が欲しいのは物じゃないんです」
「物ではない……? なら、権力か? 俺が組を継げば、貴様をこの街の裏の王に……」
「話が飛びすぎです! もっと普通でいいんですよ、普通で!」
陽太は呆れ果てて、龍崎の腕を引いて街へと繰り出した。
「普通」のデートを教え込むつもりだったが、後ろを振り返れば、黒スーツにサングラスの男たちが十人、一定の距離を保ってゾロゾロとついてきている。
「……龍崎さん、あの人たちを帰してください」
「ダメだ。神崎のような不逞な輩がいつ貴様を狙うか分からん」
「神崎先生は不逞じゃありません! ああもう……」
陽太は頭を抱えた。
龍崎は強引で、身勝手で、過保護で、価値観がまるっきり噛み合わない。
なのに、どうしてだろう。
不器用にプレゼントを断られて傷ついたような顔をする龍崎や、人混みで陽太が他人にぶつかりそうになると、咄嗟に大きな体で庇ってくれるその仕草に、心臓がうるさいほど跳ねるのだ。
立ち寄った公園のベンチで、陽太は意を決して問いかけた。
「龍崎さんは……僕のこと、どう思ってるんですか?」
それは、龍崎にとって最大の難問だった。
龍崎は、横に座る陽太をじっと見つめた。
夕日に照らされた陽太の瞳は透き通り、今にも吸い込まれそうなほど綺麗だ。
「……貴様は、俺の光だ」
龍崎の声は、驚くほど真剣だった。
「泥の中を這いずってきた俺の前に、突然現れた眩しすぎる光だ。……失いたくない。触れるのも恐ろしい。だが、誰にも渡したくない。……これが、何という感情なのか、俺にはまだ、正確な言葉が見つからん」
「龍崎さん……」
「だが、これだけは断言できる。陽太。……俺は、貴様のためなら死ねる。それだけだ」
極道らしい、あまりにも重くて真っ直ぐな言葉。
陽太は、その圧倒的な熱量に気圧され、同時に胸の奥が熱い何かで満たされるのを感じた。
(ああ、そうだ。僕も……)
怖いと思っていたはずなのに。住む世界が違うと分かっていたはずなのに。
自分もまた、この不器用で真っ直ぐな男に、救いようのないほど惹かれている。
けれど、陽太がその答えを口にする前に、龍崎はふっと視線を逸らして立ち上がった。
「……帰るぞ。夜風は身体に毒だ。明日は早番だろう」
龍崎のその背中は、どこか寂しげだった。
彼は知っているのだ。自分の隣に陽太を置くことが、陽太の歩むべき「光り輝く未来」を汚すことになるということを。
陽太は、龍崎の大きな背中を見つめながら、困惑していた。
この想いを伝えてしまえば、もう二度と「普通」の日常には戻れない。
一歩踏み出す勇気と、それを阻む極道という壁。
二人の恋は、互いを想うがゆえに、皮肉な停滞期へと突入しようとしていた。
だが、恋愛経験ゼロの極道が辿り着いた「愛情表現」は、陽太の想像を遥かに超える斜め上の方向へと突き進んでいく。
「……佐々木、これを使え」
ある日の非番、龍崎に呼び出された陽太の前に差し出されたのは、光り輝く最新型の外車のキーだった。
「……何ですか、これ」
「貴様の安全を確保するための防弾仕様車だ。GPSも完備している。これからは通勤にこれを使え。運転手もつけてやる」
「……却下です。病院の駐車場にこんなの停めたら、僕、明日から解雇(クビ)ですよ」
陽太が深いため息をつくと、龍崎は目に見えて落胆した。
彼にとって「守ること」と「与えること」は愛と同義なのだが、そのスケールが一般常識を逸脱している。
「では、このマンションの最上階を……」
「いりませんって! あの……龍崎さん。気持ちは嬉しいですけど、僕が欲しいのは物じゃないんです」
「物ではない……? なら、権力か? 俺が組を継げば、貴様をこの街の裏の王に……」
「話が飛びすぎです! もっと普通でいいんですよ、普通で!」
陽太は呆れ果てて、龍崎の腕を引いて街へと繰り出した。
「普通」のデートを教え込むつもりだったが、後ろを振り返れば、黒スーツにサングラスの男たちが十人、一定の距離を保ってゾロゾロとついてきている。
「……龍崎さん、あの人たちを帰してください」
「ダメだ。神崎のような不逞な輩がいつ貴様を狙うか分からん」
「神崎先生は不逞じゃありません! ああもう……」
陽太は頭を抱えた。
龍崎は強引で、身勝手で、過保護で、価値観がまるっきり噛み合わない。
なのに、どうしてだろう。
不器用にプレゼントを断られて傷ついたような顔をする龍崎や、人混みで陽太が他人にぶつかりそうになると、咄嗟に大きな体で庇ってくれるその仕草に、心臓がうるさいほど跳ねるのだ。
立ち寄った公園のベンチで、陽太は意を決して問いかけた。
「龍崎さんは……僕のこと、どう思ってるんですか?」
それは、龍崎にとって最大の難問だった。
龍崎は、横に座る陽太をじっと見つめた。
夕日に照らされた陽太の瞳は透き通り、今にも吸い込まれそうなほど綺麗だ。
「……貴様は、俺の光だ」
龍崎の声は、驚くほど真剣だった。
「泥の中を這いずってきた俺の前に、突然現れた眩しすぎる光だ。……失いたくない。触れるのも恐ろしい。だが、誰にも渡したくない。……これが、何という感情なのか、俺にはまだ、正確な言葉が見つからん」
「龍崎さん……」
「だが、これだけは断言できる。陽太。……俺は、貴様のためなら死ねる。それだけだ」
極道らしい、あまりにも重くて真っ直ぐな言葉。
陽太は、その圧倒的な熱量に気圧され、同時に胸の奥が熱い何かで満たされるのを感じた。
(ああ、そうだ。僕も……)
怖いと思っていたはずなのに。住む世界が違うと分かっていたはずなのに。
自分もまた、この不器用で真っ直ぐな男に、救いようのないほど惹かれている。
けれど、陽太がその答えを口にする前に、龍崎はふっと視線を逸らして立ち上がった。
「……帰るぞ。夜風は身体に毒だ。明日は早番だろう」
龍崎のその背中は、どこか寂しげだった。
彼は知っているのだ。自分の隣に陽太を置くことが、陽太の歩むべき「光り輝く未来」を汚すことになるということを。
陽太は、龍崎の大きな背中を見つめながら、困惑していた。
この想いを伝えてしまえば、もう二度と「普通」の日常には戻れない。
一歩踏み出す勇気と、それを阻む極道という壁。
二人の恋は、互いを想うがゆえに、皮肉な停滞期へと突入しようとしていた。
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