強面若頭は、懐っこいナースの献身に抗えない ―極道、はじめての恋を処方される―

たら昆布

文字の大きさ
17 / 20

17話

しおりを挟む
 車内での一件以来、龍崎の「独占欲」はもはや隠そうともしない、剥き出しのものへと進化した。
 
 だが、恋愛経験ゼロの極道が辿り着いた「愛情表現」は、陽太の想像を遥かに超える斜め上の方向へと突き進んでいく。
 
「……佐々木、これを使え」
 
 ある日の非番、龍崎に呼び出された陽太の前に差し出されたのは、光り輝く最新型の外車のキーだった。
 
「……何ですか、これ」
 
「貴様の安全を確保するための防弾仕様車だ。GPSも完備している。これからは通勤にこれを使え。運転手もつけてやる」
 
「……却下です。病院の駐車場にこんなの停めたら、僕、明日から解雇(クビ)ですよ」
 
 陽太が深いため息をつくと、龍崎は目に見えて落胆した。
 彼にとって「守ること」と「与えること」は愛と同義なのだが、そのスケールが一般常識を逸脱している。
 
「では、このマンションの最上階を……」
 
「いりませんって! あの……龍崎さん。気持ちは嬉しいですけど、僕が欲しいのは物じゃないんです」
 
「物ではない……? なら、権力か? 俺が組を継げば、貴様をこの街の裏の王に……」
 
「話が飛びすぎです! もっと普通でいいんですよ、普通で!」
 
 陽太は呆れ果てて、龍崎の腕を引いて街へと繰り出した。
 「普通」のデートを教え込むつもりだったが、後ろを振り返れば、黒スーツにサングラスの男たちが十人、一定の距離を保ってゾロゾロとついてきている。
 
「……龍崎さん、あの人たちを帰してください」
 
「ダメだ。神崎のような不逞な輩がいつ貴様を狙うか分からん」
 
「神崎先生は不逞じゃありません! ああもう……」
 
 陽太は頭を抱えた。
 龍崎は強引で、身勝手で、過保護で、価値観がまるっきり噛み合わない。
 なのに、どうしてだろう。
 
 不器用にプレゼントを断られて傷ついたような顔をする龍崎や、人混みで陽太が他人にぶつかりそうになると、咄嗟に大きな体で庇ってくれるその仕草に、心臓がうるさいほど跳ねるのだ。
 
 立ち寄った公園のベンチで、陽太は意を決して問いかけた。
 
「龍崎さんは……僕のこと、どう思ってるんですか?」
 
 それは、龍崎にとって最大の難問だった。
 龍崎は、横に座る陽太をじっと見つめた。
 夕日に照らされた陽太の瞳は透き通り、今にも吸い込まれそうなほど綺麗だ。
 
「……貴様は、俺の光だ」
 
 龍崎の声は、驚くほど真剣だった。
 
「泥の中を這いずってきた俺の前に、突然現れた眩しすぎる光だ。……失いたくない。触れるのも恐ろしい。だが、誰にも渡したくない。……これが、何という感情なのか、俺にはまだ、正確な言葉が見つからん」
 
「龍崎さん……」
 
「だが、これだけは断言できる。陽太。……俺は、貴様のためなら死ねる。それだけだ」
 
 極道らしい、あまりにも重くて真っ直ぐな言葉。
 陽太は、その圧倒的な熱量に気圧され、同時に胸の奥が熱い何かで満たされるのを感じた。
 
(ああ、そうだ。僕も……)
 
 怖いと思っていたはずなのに。住む世界が違うと分かっていたはずなのに。
 自分もまた、この不器用で真っ直ぐな男に、救いようのないほど惹かれている。
 
 けれど、陽太がその答えを口にする前に、龍崎はふっと視線を逸らして立ち上がった。
 
「……帰るぞ。夜風は身体に毒だ。明日は早番だろう」
 
 龍崎のその背中は、どこか寂しげだった。
 彼は知っているのだ。自分の隣に陽太を置くことが、陽太の歩むべき「光り輝く未来」を汚すことになるということを。
 
 陽太は、龍崎の大きな背中を見つめながら、困惑していた。
 この想いを伝えてしまえば、もう二度と「普通」の日常には戻れない。
 
 一歩踏み出す勇気と、それを阻む極道という壁。
 二人の恋は、互いを想うがゆえに、皮肉な停滞期へと突入しようとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布
BL
暴君皇帝×薄幸の聖子

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

うるさい恋人

さるやま
BL
攻めがキモイです。あとうるさい 攻め→→→←受け

小森 陽芳(受け)
野茂のことが好きだけど、野茂を煩わしくも思ってる。ツンデレ小説家。言ってることとやってることがちぐはぐ。

野茂 遥斗(攻め)
陽芳のことを陽ちゃんと呼び、溺愛する。人気の若手俳優。陽ちゃんのことが大好きで、言動がキモイ。

橋本
野茂のマネージャー。自分の苦労を理解してくれる陽芳に少し惹かれる。

好きなわけ、ないだろ

春夜夢
BL
放課後の屋上――不良の匠は、優等生の蓮から突然「好きだ」と告げられた。 あまりにも真っ直ぐな瞳に、心臓がうるさく鳴ってしまう。 だけど、笑うしかなかった。 誰かに愛されるなんて、自分には似合わないと思っていたから。 それから二人の距離は、近くて、でも遠いままだった。 避けようとする匠、追いかける蓮。 すれ違いばかりの毎日に、いつしか匠の心にも、気づきたくなかった“感情”が芽生えていく。 ある雨の夜、蓮の転校の噂が流れる。 逃げ続けてきた匠は初めて、自分の心と正面から向き合う。 駅前でずぶ濡れになりながら、声を震わせて絞り出した言葉―― 「行くなよ……好きなんだ」 誰かを想う気持ちは、こんなにも苦しくて、眩しい。 曇り空の下で始まった恋は、まだぎこちなく、でも確かにあたたかい。 涙とキスで繋がる、初恋の物語。

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

処理中です...