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27話
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ログハウスの中に戻ると、そこには三年前から変わらないはずの静謐な空間が広がっていた。
だが、リィエルがソファに座るなり、その静寂は賑やかな電子音にも似た鳴き声によって上書きされる。
「きゅうっ! きゅううう!」
シロがリィエルの膝を占拠し、主人の視線を独占しようと必死に前足を動かしている。
一方、新入りの発光体は、リィエルの肩から滑り落ちるようにしてテーブルの上に着地した。そいつはぷるぷると全身を震わせ、今度はガイアスが手際よく淹れ始めたお茶の香りに反応している。
「おい、待て。解析が終わるまでは不用意に動くなと言っただろう」
リィエルは指先でスライムの進路を塞いだ。
この光る不定形生物には、とりあえず「ルミ」という識別名を割り当てることにした。ルミはリィエルの指を避けるようにして、今度はガイアスがカップに注いだばかりの琥珀色の液体へと突撃しようとする。
「リィエル、ルミはどうやらこの茶葉の魔力波長が気に入ったみたいだ。ほら、ティーカップに飛び込もうとしているぞ」
ガイアスは慌ててカップを持ち上げ、ルミの突進を回避した。
ルミは標的を見失うと、空中で一回転し、今度はシロが座っている膝の方へと矛先を変える。
「……あ、こら、シロ! 噛みつくんじゃない。そいつはバックアップが効かない希少個体なんだぞ」
「きゅう!」
シロは自分の領土に侵入してきた光る物体に対し、甘噛みで威嚇を始めた。
だが、ルミの体はゼリーのような流動体だ。シロが口に含もうとしても、するりと抜けて逆にシロの鼻先をペちんと叩く。
王都での生活で高い適応能力を見せたシロも、この物理法則を無視したような新入りの動きには、困惑のログを隠しきれない様子だ。
「やれやれ。デバイスの競合が激しすぎて、これでは落ち着いてログアウトもできないな」
リィエルはため息をつきながら、ガイアスの淹れたお茶を受け取った。
一口飲むと、王都の賑やかさとはまた違う、森の深みを感じさせる香りが鼻を抜ける。
「……ガイアスさん。結局、あなたはいつまでここに滞在するつもりですか? 騎士団長としてのタスクは山積みのはずでしょう」
「明日までは休暇をもぎ取ってある。……それに、こんなに面白いアップデートが起きているんだ。これを見届けずに帰ったら、俺の仕事効率は著しく低下してしまうからな」
ガイアスは自分のカップを口に運びながら、リィエルの向かいの席に腰を下ろした。
彼の大きな体がそこにあるだけで、少し前までは広く感じていたリビングが、妙に手狭に、そして温かく感じられる。
「……勝手にしてください。その代わり、ルミとシロの衝突回避システムについては、あなたのマンパワーも活用させてもらいますよ」
「ああ、望むところだ。シロの相手なら任せておけ。こいつは少し、お前の愛情のリソースが分散されるのを恐れているだけだからな」
ガイアスが手を伸ばし、不機嫌そうなシロの喉元を優しく撫でる。
シロは最初こそ不満げに鼻を鳴らしていたが、ガイアスの手慣れたマッサージに、次第に目を細めて力を抜いていった。
その隙に、ルミはこっそりとリィエルの袖の中に潜り込み、彼の腕の魔力回路から直接エネルギーを補充し始めた。
リィエルの肌を伝う、微かな、だが心地よい拍動。
窓の外では、森の鳥たちが帰宅を祝うようにさえずっている。
リィエルは、手元の魔導書を広げるのを一時中断し、二匹と一人の男が織りなす、騒がしくも平穏な日常のログを静かに眺めていた。
だが、リィエルがソファに座るなり、その静寂は賑やかな電子音にも似た鳴き声によって上書きされる。
「きゅうっ! きゅううう!」
シロがリィエルの膝を占拠し、主人の視線を独占しようと必死に前足を動かしている。
一方、新入りの発光体は、リィエルの肩から滑り落ちるようにしてテーブルの上に着地した。そいつはぷるぷると全身を震わせ、今度はガイアスが手際よく淹れ始めたお茶の香りに反応している。
「おい、待て。解析が終わるまでは不用意に動くなと言っただろう」
リィエルは指先でスライムの進路を塞いだ。
この光る不定形生物には、とりあえず「ルミ」という識別名を割り当てることにした。ルミはリィエルの指を避けるようにして、今度はガイアスがカップに注いだばかりの琥珀色の液体へと突撃しようとする。
「リィエル、ルミはどうやらこの茶葉の魔力波長が気に入ったみたいだ。ほら、ティーカップに飛び込もうとしているぞ」
ガイアスは慌ててカップを持ち上げ、ルミの突進を回避した。
ルミは標的を見失うと、空中で一回転し、今度はシロが座っている膝の方へと矛先を変える。
「……あ、こら、シロ! 噛みつくんじゃない。そいつはバックアップが効かない希少個体なんだぞ」
「きゅう!」
シロは自分の領土に侵入してきた光る物体に対し、甘噛みで威嚇を始めた。
だが、ルミの体はゼリーのような流動体だ。シロが口に含もうとしても、するりと抜けて逆にシロの鼻先をペちんと叩く。
王都での生活で高い適応能力を見せたシロも、この物理法則を無視したような新入りの動きには、困惑のログを隠しきれない様子だ。
「やれやれ。デバイスの競合が激しすぎて、これでは落ち着いてログアウトもできないな」
リィエルはため息をつきながら、ガイアスの淹れたお茶を受け取った。
一口飲むと、王都の賑やかさとはまた違う、森の深みを感じさせる香りが鼻を抜ける。
「……ガイアスさん。結局、あなたはいつまでここに滞在するつもりですか? 騎士団長としてのタスクは山積みのはずでしょう」
「明日までは休暇をもぎ取ってある。……それに、こんなに面白いアップデートが起きているんだ。これを見届けずに帰ったら、俺の仕事効率は著しく低下してしまうからな」
ガイアスは自分のカップを口に運びながら、リィエルの向かいの席に腰を下ろした。
彼の大きな体がそこにあるだけで、少し前までは広く感じていたリビングが、妙に手狭に、そして温かく感じられる。
「……勝手にしてください。その代わり、ルミとシロの衝突回避システムについては、あなたのマンパワーも活用させてもらいますよ」
「ああ、望むところだ。シロの相手なら任せておけ。こいつは少し、お前の愛情のリソースが分散されるのを恐れているだけだからな」
ガイアスが手を伸ばし、不機嫌そうなシロの喉元を優しく撫でる。
シロは最初こそ不満げに鼻を鳴らしていたが、ガイアスの手慣れたマッサージに、次第に目を細めて力を抜いていった。
その隙に、ルミはこっそりとリィエルの袖の中に潜り込み、彼の腕の魔力回路から直接エネルギーを補充し始めた。
リィエルの肌を伝う、微かな、だが心地よい拍動。
窓の外では、森の鳥たちが帰宅を祝うようにさえずっている。
リィエルは、手元の魔導書を広げるのを一時中断し、二匹と一人の男が織りなす、騒がしくも平穏な日常のログを静かに眺めていた。
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