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29話
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ガイアスを見送り、再び森の静寂が戻ってきた。
リィエルはまず、新入りであるルミのエネルギー供給問題を解決することにした。こいつは放っておくとリィエルの袖や首筋から直接魔力を吸い取ろうとするため、作業効率が著しく低下するからだ。
「よし。ここにルミ専用の魔力補給ステーションを設置するか。シロ、そこにある触媒石を動かさないでくれよ」
リィエルは庭の木陰に、小さな噴水のような魔導装置を組み立て始めた。
地下の龍脈から微弱な魔力を吸い上げ、ルミが摂取しやすい波長に変換して放出する仕組みだ。装置の中心で青白い炎のような光が揺らめき始めると、ルミは待ってましたと言わんばかりに、リィエルの肩からその装置へとダイブした。
「ぷる、ぷるる……」
ルミは装置の天板の上で平べったく広がり、満足げに全身を発光させている。
「……ふむ。出力は安定しているな。これで俺の魔力を直接ドレインされる心配はなくなった。シロ、お前の縄張りもこれで確保されたはずだぞ」
「きゅうっ!」
シロは装置の上で平らになっているライバルを見下ろし、自分はリィエルの足元で得意げに尻尾を振った。
一件落着かと思われたその時、庭の防衛結界の外縁から、今まで聞いたことのないような低周波の警告音が響いた。
「……なんだ。侵入者か。だが、攻撃的な魔力ログではないな。むしろ、ひどく困惑しているような、迷走したデータだ」
リィエルが結界の操作画面を空中に投影すると、そこには森の境界線付近で、右往左往している巨大な影が映し出されていた。
それは、全身が苔むした岩のように見える、山羊に似た姿の大型魔獣だった。本来、この森の深部には生息していない種類だ。
「……マウンテンゴートの変異種か。どうやら、ルミのために設置したステーションの誘引波長が、広域に拡散しすぎてしまったみたいだな。想定外の仕様漏れだ」
リィエルはため息をつき、杖を手に取った。
放っておけば結界に衝突して物理的なダメージを負いかねない。リィエルはシロを連れ、念のためにステーションからルミを引き剥がして、境界線へと向かった。
森の入口にいたのは、予想以上に巨大な個体だった。
その山羊のような魔獣は、リィエルの姿を見るなり、角を低くして警戒の姿勢をとる。だが、その瞳には敵意よりも、どこか道を見失ったことへの不安が強く滲んでいた。
「……落ち着け。俺はお前を排除しに来たわけじゃない。お前が惹かれた光は、あっちのステーションからの漏れ出た信号だ」
リィエルは杖の先を地面に突き、魔獣の周囲にだけ、心を落ち着かせるための鎮静波を広げた。
すると、殺気立っていた魔獣の呼吸が次第に整い、その巨体がゆっくりと地面に伏せられた。
「きゅう……きゅうぅ」
シロがリィエルの影からこっそりと顔を出し、大きな魔獣を観察している。
一方、リィエルの手に抱えられたルミは、好奇心からか魔獣の鼻先に向かってぷるると光を点滅させた。
「……なるほど。お前、角に古い傷があるな。そこから魔力が漏れて、感覚器官が狂っていたのか。だから、俺が作ったステーションの整った魔力に引き寄せられたわけか」
リィエルは不器用な手つきで、魔獣の硬い角の付け根に触れた。
彼はそのまま、角の亀裂を埋めるように指先で魔力を流し込み、歪んでいた魔導回路を修復していく。
「よし、これでノイズは消えたはずだ。もう迷わずに山へ帰れるだろう」
魔獣はすっきりとした顔で立ち上がると、リィエルに向けて一度だけ低く鳴き、再び山の方へと去っていった。
「……やれやれ。ルミのステーションには、遮蔽用の防護壁を追加しないといけないな。これでは、森中の迷子の魔物を呼び寄せるハブになってしまう」
リィエルは自分の設計ミスを反省しながら、夕暮れ時の庭へと戻り始めた。
一人きりだった時とは違う、予期せぬトラブルの連続。
けれど、それを解決するたびに、この森の地図が少しずつ自分たちの色に書き換えられていく感覚は、エンジニアとして決して悪くない気分だった。
リィエルはまず、新入りであるルミのエネルギー供給問題を解決することにした。こいつは放っておくとリィエルの袖や首筋から直接魔力を吸い取ろうとするため、作業効率が著しく低下するからだ。
「よし。ここにルミ専用の魔力補給ステーションを設置するか。シロ、そこにある触媒石を動かさないでくれよ」
リィエルは庭の木陰に、小さな噴水のような魔導装置を組み立て始めた。
地下の龍脈から微弱な魔力を吸い上げ、ルミが摂取しやすい波長に変換して放出する仕組みだ。装置の中心で青白い炎のような光が揺らめき始めると、ルミは待ってましたと言わんばかりに、リィエルの肩からその装置へとダイブした。
「ぷる、ぷるる……」
ルミは装置の天板の上で平べったく広がり、満足げに全身を発光させている。
「……ふむ。出力は安定しているな。これで俺の魔力を直接ドレインされる心配はなくなった。シロ、お前の縄張りもこれで確保されたはずだぞ」
「きゅうっ!」
シロは装置の上で平らになっているライバルを見下ろし、自分はリィエルの足元で得意げに尻尾を振った。
一件落着かと思われたその時、庭の防衛結界の外縁から、今まで聞いたことのないような低周波の警告音が響いた。
「……なんだ。侵入者か。だが、攻撃的な魔力ログではないな。むしろ、ひどく困惑しているような、迷走したデータだ」
リィエルが結界の操作画面を空中に投影すると、そこには森の境界線付近で、右往左往している巨大な影が映し出されていた。
それは、全身が苔むした岩のように見える、山羊に似た姿の大型魔獣だった。本来、この森の深部には生息していない種類だ。
「……マウンテンゴートの変異種か。どうやら、ルミのために設置したステーションの誘引波長が、広域に拡散しすぎてしまったみたいだな。想定外の仕様漏れだ」
リィエルはため息をつき、杖を手に取った。
放っておけば結界に衝突して物理的なダメージを負いかねない。リィエルはシロを連れ、念のためにステーションからルミを引き剥がして、境界線へと向かった。
森の入口にいたのは、予想以上に巨大な個体だった。
その山羊のような魔獣は、リィエルの姿を見るなり、角を低くして警戒の姿勢をとる。だが、その瞳には敵意よりも、どこか道を見失ったことへの不安が強く滲んでいた。
「……落ち着け。俺はお前を排除しに来たわけじゃない。お前が惹かれた光は、あっちのステーションからの漏れ出た信号だ」
リィエルは杖の先を地面に突き、魔獣の周囲にだけ、心を落ち着かせるための鎮静波を広げた。
すると、殺気立っていた魔獣の呼吸が次第に整い、その巨体がゆっくりと地面に伏せられた。
「きゅう……きゅうぅ」
シロがリィエルの影からこっそりと顔を出し、大きな魔獣を観察している。
一方、リィエルの手に抱えられたルミは、好奇心からか魔獣の鼻先に向かってぷるると光を点滅させた。
「……なるほど。お前、角に古い傷があるな。そこから魔力が漏れて、感覚器官が狂っていたのか。だから、俺が作ったステーションの整った魔力に引き寄せられたわけか」
リィエルは不器用な手つきで、魔獣の硬い角の付け根に触れた。
彼はそのまま、角の亀裂を埋めるように指先で魔力を流し込み、歪んでいた魔導回路を修復していく。
「よし、これでノイズは消えたはずだ。もう迷わずに山へ帰れるだろう」
魔獣はすっきりとした顔で立ち上がると、リィエルに向けて一度だけ低く鳴き、再び山の方へと去っていった。
「……やれやれ。ルミのステーションには、遮蔽用の防護壁を追加しないといけないな。これでは、森中の迷子の魔物を呼び寄せるハブになってしまう」
リィエルは自分の設計ミスを反省しながら、夕暮れ時の庭へと戻り始めた。
一人きりだった時とは違う、予期せぬトラブルの連続。
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