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11話
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「……ふざけるな。誰が貴様のような男を仲間にすると言った」
聖都のギルドへ向かう道すがら、ガウルの低く地響きのような声が何度も繰り返されていた。
その腕はレオの細い腰をがっちりと抱き込み、一歩たりともシリウスを近づけさせまいとする鉄壁の構えだ。
レオはガウルの逞しい腕の中で、真っ赤になりながら身を縮めている。
「やれやれ、耳に筋肉でも詰まっているのかい? 僕はレオの『管理』が必要だと言っているんだ。彼の中に眠る至純の魔力は、君のような野蛮な男が扱いきれる代物じゃない」
シリウスは優雅な足取りで二人の数歩後ろをついてくる。
銀髪が陽光に透け、道行く人々が思わず振り返るほどの美貌。
だがその瞳は、獲物であるレオの後ろ姿だけを、執拗なまでの熱量で見つめていた。
「レオ、君もそう思うだろう? あんな岩石のような男に抱きしめられていては、君の繊細な魔力の回路が濁ってしまう」
「え、あ……。そんな、濁るなんてことは……っ」
シリウスが不意に距離を詰め、レオの耳元で滑らかな声を落とした。
ひんやりとした、けれどどこか芳醇な香りを纏った吐息。
レオはゾクゾクとする戦慄に、思わずガウルの胸板に顔を埋めた。
「こら、レオを弄ぶな! ガウルも、そんなに強く抱きしめられたら歩きにくいよ……っ」
「……離さん。貴様に隙を見せれば、この小僧は一瞬で連れ去られる」
ガウルの独占欲は、シリウスという強敵が現れたことで限界まで高まっていた。
ギルドの重厚な扉を開けてもなお、その緊張感は解けない。
聖都のギルドは、レオがいた辺境の街とは比べものにならないほど豪華だった。
大理石の床に、高い天井。
受付に並ぶ冒険者たちも皆、洗練された装備を身につけている。
そこに、岩のような巨漢の戦士と、お人好しそうな少年、そして王立魔導院の法衣を纏った天才魔導師が現れたのだ。
一瞬にして、場が凍り付いたような静寂に包まれる。
「……あ、あの、新規パーティの登録……というか、メンバーの追加をお願いしたいのですが」
レオがおずおずと受付嬢にプレートを差し出した。
受付嬢はシリウスの姿を認めると、椅子から転げ落ちんばかりに驚愕した。
「シ、シリウス・ヴァレンティヌス様!? なぜ、王立魔導院の主席調査官様がこのような場所に……」
「仕事だよ。……今日から僕は、この少年のパーティに同行する。手続きを」
シリウスが冷淡な手付きで自身の金色の身分証を差し出す。
ガウルがその手を乱暴に弾こうとしたが、シリウスはそれを嘲笑うようにかわした。
「勝手に決めるな! 俺たちはこいつを認めていない!」
「ガウル、声が大きいよ……っ。でも、シリウスさん、本当にいいんですか? 僕たちみたいな新米と一緒にいたら、あなたのキャリアに傷が……」
レオが心配そうにシリウスを見上げる。
その潤んだ琥珀色の瞳に見つめられ、シリウスの理性が微かに揺らぐ。
彼はレオの顎をそっと指先で持ち上げ、逃げ場を塞ぐように視線を絡めた。
「君のためなら、地位も名誉もゴミ同然だ。……ねえ、レオ。僕を拒むというのなら、僕は職権を乱用してでも、君を研究所に監禁しなければならなくなる。……それでもいいのかな?」
「か、監禁……!?」
レオが恐怖で肩を震わせると、シリウスは満足げに目を細め、その震える唇を親指でなぞった。
柔らかい感触。シリウスの瞳に、暗い情欲が灯る。
「……貴様、死にたいか」
ガウルが大剣の柄に手をかけ、ギルド内に凄まじい殺気が充満した。
受付嬢は泡を吹いて倒れそうになり、周囲の冒険者たちは一斉に逃げ出していく。
「ガウル、待って! 分かった、分かったから! シリウスさん、一緒に来てください。だから街を壊さないで……!」
レオが必死にガウルの腕に縋り付くと、ガウルは苦渋の表情で剣から手を離した。
レオの頼みを断ることだけは、彼にはできなかった。
「……決まりだね。これからよろしく、僕の可愛いレオ」
シリウスはレオの手を取り、指の付け根に深く、跡を残すようなキスを落とした。
吸いつくような熱。
レオは全身が火照るのを感じ、ガウルとシリウスという、正反対の熱量を持った二人の男に挟まれている現実を、改めて突きつけられた。
「(どうしよう……。二人とも、目が全然笑ってない……)」
こうして、前代未聞の三人パーティが結成された。
最強の盾と、最強の魔法。
そのどちらからも、逃げられないほど深い愛を向けられながら、レオの冒険はさらなる混迷へと突き進んでいく。
聖都のギルドへ向かう道すがら、ガウルの低く地響きのような声が何度も繰り返されていた。
その腕はレオの細い腰をがっちりと抱き込み、一歩たりともシリウスを近づけさせまいとする鉄壁の構えだ。
レオはガウルの逞しい腕の中で、真っ赤になりながら身を縮めている。
「やれやれ、耳に筋肉でも詰まっているのかい? 僕はレオの『管理』が必要だと言っているんだ。彼の中に眠る至純の魔力は、君のような野蛮な男が扱いきれる代物じゃない」
シリウスは優雅な足取りで二人の数歩後ろをついてくる。
銀髪が陽光に透け、道行く人々が思わず振り返るほどの美貌。
だがその瞳は、獲物であるレオの後ろ姿だけを、執拗なまでの熱量で見つめていた。
「レオ、君もそう思うだろう? あんな岩石のような男に抱きしめられていては、君の繊細な魔力の回路が濁ってしまう」
「え、あ……。そんな、濁るなんてことは……っ」
シリウスが不意に距離を詰め、レオの耳元で滑らかな声を落とした。
ひんやりとした、けれどどこか芳醇な香りを纏った吐息。
レオはゾクゾクとする戦慄に、思わずガウルの胸板に顔を埋めた。
「こら、レオを弄ぶな! ガウルも、そんなに強く抱きしめられたら歩きにくいよ……っ」
「……離さん。貴様に隙を見せれば、この小僧は一瞬で連れ去られる」
ガウルの独占欲は、シリウスという強敵が現れたことで限界まで高まっていた。
ギルドの重厚な扉を開けてもなお、その緊張感は解けない。
聖都のギルドは、レオがいた辺境の街とは比べものにならないほど豪華だった。
大理石の床に、高い天井。
受付に並ぶ冒険者たちも皆、洗練された装備を身につけている。
そこに、岩のような巨漢の戦士と、お人好しそうな少年、そして王立魔導院の法衣を纏った天才魔導師が現れたのだ。
一瞬にして、場が凍り付いたような静寂に包まれる。
「……あ、あの、新規パーティの登録……というか、メンバーの追加をお願いしたいのですが」
レオがおずおずと受付嬢にプレートを差し出した。
受付嬢はシリウスの姿を認めると、椅子から転げ落ちんばかりに驚愕した。
「シ、シリウス・ヴァレンティヌス様!? なぜ、王立魔導院の主席調査官様がこのような場所に……」
「仕事だよ。……今日から僕は、この少年のパーティに同行する。手続きを」
シリウスが冷淡な手付きで自身の金色の身分証を差し出す。
ガウルがその手を乱暴に弾こうとしたが、シリウスはそれを嘲笑うようにかわした。
「勝手に決めるな! 俺たちはこいつを認めていない!」
「ガウル、声が大きいよ……っ。でも、シリウスさん、本当にいいんですか? 僕たちみたいな新米と一緒にいたら、あなたのキャリアに傷が……」
レオが心配そうにシリウスを見上げる。
その潤んだ琥珀色の瞳に見つめられ、シリウスの理性が微かに揺らぐ。
彼はレオの顎をそっと指先で持ち上げ、逃げ場を塞ぐように視線を絡めた。
「君のためなら、地位も名誉もゴミ同然だ。……ねえ、レオ。僕を拒むというのなら、僕は職権を乱用してでも、君を研究所に監禁しなければならなくなる。……それでもいいのかな?」
「か、監禁……!?」
レオが恐怖で肩を震わせると、シリウスは満足げに目を細め、その震える唇を親指でなぞった。
柔らかい感触。シリウスの瞳に、暗い情欲が灯る。
「……貴様、死にたいか」
ガウルが大剣の柄に手をかけ、ギルド内に凄まじい殺気が充満した。
受付嬢は泡を吹いて倒れそうになり、周囲の冒険者たちは一斉に逃げ出していく。
「ガウル、待って! 分かった、分かったから! シリウスさん、一緒に来てください。だから街を壊さないで……!」
レオが必死にガウルの腕に縋り付くと、ガウルは苦渋の表情で剣から手を離した。
レオの頼みを断ることだけは、彼にはできなかった。
「……決まりだね。これからよろしく、僕の可愛いレオ」
シリウスはレオの手を取り、指の付け根に深く、跡を残すようなキスを落とした。
吸いつくような熱。
レオは全身が火照るのを感じ、ガウルとシリウスという、正反対の熱量を持った二人の男に挟まれている現実を、改めて突きつけられた。
「(どうしよう……。二人とも、目が全然笑ってない……)」
こうして、前代未聞の三人パーティが結成された。
最強の盾と、最強の魔法。
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