伝説の聖騎士に求婚されていますが、それどころじゃないので定時で帰ります! ~もふもふと昼寝したいだけなのに愛が重すぎる~

たら昆布

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10話

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「……おかしい。絶対におかしい」

魔導師団の自分のデスクに座り、僕は首を傾げた。
ここ数日、僕の仕事が「あまりにも」順調すぎるのだ。

昨日、団長のエディから渡された『三百年解けなかった封印の解読』という分厚い資料。
定時までに終わらせようと意気込んで開いたら、中から付箋がペラリと落ちた。
そこには、僕が解くべきはずの数式が、完璧な筆跡ですべて解かれた状態で挟まっていたのだ。

「お疲れ様です、リト殿! 今日も朝露に濡れた花のように可憐ですね。何かお困りですか?」

背後から、いつもの「重すぎる愛の気配」が近づいてくる。
僕は振り返り、その完璧な笑顔を浮かべる聖騎士をジト目で睨んだ。

「ゼノさん。これ、あなたがやりましたよね?」

「何のことでしょうか? 私はただ、リト殿の大切な指先がインクで汚れないよう、世界を平和にしたいと願っているだけの男です」

「具体的に言って! この数式の解体、ゼノさんが夜中に忍び込んでやったでしょ!」

「……忍び込むなど人聞きが悪い。警備の確認中に、偶然、机の上に寂しそうに転がっている紙束を見かけたので、少しだけ『お手伝い』をしたまでです。リト殿が少しでも長く、もふもふと戯れる時間を作れるようにと……」

「……全部やってあるじゃないですか! これじゃ僕、座ってお茶飲んでるだけですよ!」

「素晴らしい。それこそがリト殿にふさわしい執務スタイルです。さあ、今朝絞りたてのヤギのミルクをどうぞ。リト殿の健康は私が守ります」

ゼノが差し出してきたミルクを飲みながら、僕は戦慄した。
この男、僕を甘やかして「無能な怠け者」に改造しようとしている……!
……いや、待てよ。

「(……これ、前世で夢見た『働かなくても給料がもらえる』っていう究極のホワイト環境じゃないか?)」

社畜の魂が、ささやき始めた。
仕事は誰かがやってくれる。自分は定時まで座っているだけ。そして五時になればココが待つ家に帰れる。
これこそ、僕が求めていたスローライフの完成形なのでは?

「……ゼノさん。これからも、こういう『お手伝い』、続くんですか?」

「もちろんです。リト殿の苦労はすべて私が背負います。リト殿はただ、そこに存在して私に微笑みかけてくれればいい」

「……分かりました。じゃあ、今日の分の資料もお願いします」

「喜んで!!」

ゼノがシュバッ!と資料を奪い取り、猛烈な勢いでペンを動かし始めた。
聖騎士の超人的な集中力と演算能力。本来、戦場で戦術を練るための頭脳が、今、僕の雑用を片付けるためにフル回転している。

僕は悠々と椅子にもたれかかり、足元で丸くなっているココを撫でた。

「ココ、見て。ゼノさんが働いてるよ。僕たち、勝ち組だね」

「キャン……(ご主人様、それ、餌付けされてるだけだよ……)」

ココが冷めた目で僕を見ているが、僕は気にしない。
一時間後。
本来なら三日はかかるはずの仕事が、ゼノの手によって完遂された。

「終わりました、リト殿! さあ、定時までまだ四時間もあります。今のうちに、私が予約した『王都一の絶景が見えるテラス』で、二人きりのティータイムを――」

「あ、定時まで時間があるなら、図書室でもふもふの資料探してきますね。ゼノさんは残りの片付け、お願いします!」

「リ、リト殿!? 私のティータイムは!? 私へのご褒美は――っ!!」

ゼノの叫びを背中に受けながら、僕は軽やかな足取りで執務室を出た。
「仕事がない」という最高の贅沢。
ゼノの過保護を利用して、僕の「ぐうたら生活」は加速していく。

しかし、僕は知らなかった。
ゼノが裏で僕の仕事を片付けているせいで、魔導師団の間で「リトは一瞬で難問を解く神童だ」という噂が広まり、さらに難易度の高い仕事が舞い込む悪循環に陥っていることに。

「……リト殿。貴殿が私を頼ってくれるのは嬉しいですが、そろそろ私の腕の中という定時に帰ってきてはいただけませんか……?」

夕暮れ時、疲れ果てた(精神的に)ゼノが僕の袖を掴んで懇願してきたが。

「あ、五時ですね。お疲れ様でしたー!」

「待ってえええええ!!」

今日も僕は、定時のチャイムと共に、愛の重い聖騎士を置き去りにして帰路につくのだった。
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