11 / 23
11話
「……ねえ、ゼノさん。あの人、さっきから僕のこと見てない?」
王都の目抜き通り。魔導師団の備品を買い出しに来た僕の視線の先には、黄金の甲冑に身を包んだ、眩しすぎるほどのイケメンが立っていた。
ゼノが「月明かりの貴公子」なら、あちらは「太陽の王子」といった風情。
ウェーブがかった金髪をなびかせ、彼は真っ直ぐに僕たちの方へ歩いてきた。
「リト殿、見ないでください。目が腐ります。あれは隣国の聖騎士、レオンといって、中身が非常に残念な男です」
「お前が言うなよ」
ゼノが僕の肩を抱き寄せ、これ見よがしに威嚇の視線を送る。
しかし、金髪の聖騎士レオンは爽やかな笑みを絶やさず、僕の前で優雅に一礼した。
「……失礼。君が噂の『一撃で魔狼を更地にした魔導師』リト君だね? 想像していたよりもずっと可憐で、守ってあげたくなるような佇まいだ」
「あ、どうも。初めまして、嘱託魔導師のリトです。可憐っていうか、ただの寝不足ですけど」
「ふふ、謙遜することはない。君のような才能が、こんな暑苦しい男(ゼノ)の監視下に置かれているのは世界の損失だ。どうだい? 我が国に来ないか? 最高の待遇と、君専用の魔法庭園を約束しよう」
レオンが僕の手を取ろうと差し出した瞬間――。
バチッ!! と、激しい火花が散った。
ゼノが音速で僕とレオンの間に割り込み、その手を叩き落としたのだ。
「レオン。その汚い手でリト殿に触れようとするな。貴様の国など、私が三日で地図から消してやろうか?」
「おやおや、怖いねぇ。ゼノ、君は相変わらず独占欲が強すぎる。リト君は君の所有物じゃない。……だろう? リト君」
レオンが僕にウインクを投げてくる。
……正直、どっちもどっちである。
「あの、二人とも。僕はどこに行っても『定時で帰れる』なら文句ないんですけど。魔法庭園っていうのは、もふもふした動物もいますか?」
僕がそう尋ねると、レオンの目がキラリと光った。
「もちろんだとも。我が国には伝説の『飛天綿毛猫(フライング・ポム)』が生息している。君なら、彼らと一日中遊んで暮らせるはずだ」
「飛天綿毛猫……っ! 行きます!!」
「リト殿ォォォ!! 行かせません! 許しません! 行くなら私を殺してからにしてください!!」
ゼノが僕の腰にしがみつき、人目も憚らず泣き叫び始めた。
国宝級イケメン聖騎士が、路上で「行かないでー!」と駄々をこねる姿に、通行人たちが一斉に足を止める。
「離してくださいゼノさん、重い! 飛天綿毛猫ですよ!? 空飛ぶもふもふですよ!?」
「あんなもの、ただの浮遊する毛玉です! 欲しければ私が今すぐ全個体捕獲して、貴殿の寝室に詰め込みます! だから、あんな太陽のパチモンみたいな男に付いていかないでください!!」
「パチモンとは失礼な。リト君、彼は君を束縛することしか考えていない。私の元へ来れば、君に真の自由を与えよう」
レオンが僕の反対側の手を握ろうとする。
……が、その瞬間、僕の腕の中から「キャンッ!」という鋭い鳴き声が響いた。
ココだ。
ココがレオンの手に向かって、本気の「伝説の魔獣」としての威圧を放ったのだ。
「……っ!? なんだ、この小さな犬は……。私の聖騎士としての加護が、本能で危険を察知している……?」
「ココ、ナイス。……レオンさん。お誘いは嬉しいですけど、ココが嫌がってるみたいなんで、やっぱりやめときます」
「えっ? そんな理由で……?」
「僕にとっては、ココの意志が第一志望、定時退社が第二志望ですから」
僕はあっさりと勧誘を断り、泣きじゃくるゼノの頭をよしよしと撫でた。
「ほら、ゼノさん。行かないから泣き止んでください。かっこ悪いですよ」
「リト殿……! ああ、やはり貴殿は女神……いや、私だけの伴侶……! わかりました、今すぐレオンを国外追放にしてきます!!」
「それはやめて!!」
結局、レオンはゼノの殺気に押されて(半分くらい呆れて)退散していった。
だが、この日からゼノのガードはさらに厳しくなり、僕の執務室の周りには「ゼノ以外の全人類(イケメン含む)通行禁止」という不穏な結界が張られることになったのである。
「リト殿、もう一度言ってください。『ゼノさんが一番だ』と……!」
「はいはい、仕事の挨拶(愛してる)に関しては、ゼノさんが一番重いですよ」
「意味が違いますが、今はそれで手を打ちましょう!!」
ゼノの独占欲が大爆発した一日。
僕の平穏なスローライフへの道は、ライバルの登場によってさらに遠のいた気がした。
王都の目抜き通り。魔導師団の備品を買い出しに来た僕の視線の先には、黄金の甲冑に身を包んだ、眩しすぎるほどのイケメンが立っていた。
ゼノが「月明かりの貴公子」なら、あちらは「太陽の王子」といった風情。
ウェーブがかった金髪をなびかせ、彼は真っ直ぐに僕たちの方へ歩いてきた。
「リト殿、見ないでください。目が腐ります。あれは隣国の聖騎士、レオンといって、中身が非常に残念な男です」
「お前が言うなよ」
ゼノが僕の肩を抱き寄せ、これ見よがしに威嚇の視線を送る。
しかし、金髪の聖騎士レオンは爽やかな笑みを絶やさず、僕の前で優雅に一礼した。
「……失礼。君が噂の『一撃で魔狼を更地にした魔導師』リト君だね? 想像していたよりもずっと可憐で、守ってあげたくなるような佇まいだ」
「あ、どうも。初めまして、嘱託魔導師のリトです。可憐っていうか、ただの寝不足ですけど」
「ふふ、謙遜することはない。君のような才能が、こんな暑苦しい男(ゼノ)の監視下に置かれているのは世界の損失だ。どうだい? 我が国に来ないか? 最高の待遇と、君専用の魔法庭園を約束しよう」
レオンが僕の手を取ろうと差し出した瞬間――。
バチッ!! と、激しい火花が散った。
ゼノが音速で僕とレオンの間に割り込み、その手を叩き落としたのだ。
「レオン。その汚い手でリト殿に触れようとするな。貴様の国など、私が三日で地図から消してやろうか?」
「おやおや、怖いねぇ。ゼノ、君は相変わらず独占欲が強すぎる。リト君は君の所有物じゃない。……だろう? リト君」
レオンが僕にウインクを投げてくる。
……正直、どっちもどっちである。
「あの、二人とも。僕はどこに行っても『定時で帰れる』なら文句ないんですけど。魔法庭園っていうのは、もふもふした動物もいますか?」
僕がそう尋ねると、レオンの目がキラリと光った。
「もちろんだとも。我が国には伝説の『飛天綿毛猫(フライング・ポム)』が生息している。君なら、彼らと一日中遊んで暮らせるはずだ」
「飛天綿毛猫……っ! 行きます!!」
「リト殿ォォォ!! 行かせません! 許しません! 行くなら私を殺してからにしてください!!」
ゼノが僕の腰にしがみつき、人目も憚らず泣き叫び始めた。
国宝級イケメン聖騎士が、路上で「行かないでー!」と駄々をこねる姿に、通行人たちが一斉に足を止める。
「離してくださいゼノさん、重い! 飛天綿毛猫ですよ!? 空飛ぶもふもふですよ!?」
「あんなもの、ただの浮遊する毛玉です! 欲しければ私が今すぐ全個体捕獲して、貴殿の寝室に詰め込みます! だから、あんな太陽のパチモンみたいな男に付いていかないでください!!」
「パチモンとは失礼な。リト君、彼は君を束縛することしか考えていない。私の元へ来れば、君に真の自由を与えよう」
レオンが僕の反対側の手を握ろうとする。
……が、その瞬間、僕の腕の中から「キャンッ!」という鋭い鳴き声が響いた。
ココだ。
ココがレオンの手に向かって、本気の「伝説の魔獣」としての威圧を放ったのだ。
「……っ!? なんだ、この小さな犬は……。私の聖騎士としての加護が、本能で危険を察知している……?」
「ココ、ナイス。……レオンさん。お誘いは嬉しいですけど、ココが嫌がってるみたいなんで、やっぱりやめときます」
「えっ? そんな理由で……?」
「僕にとっては、ココの意志が第一志望、定時退社が第二志望ですから」
僕はあっさりと勧誘を断り、泣きじゃくるゼノの頭をよしよしと撫でた。
「ほら、ゼノさん。行かないから泣き止んでください。かっこ悪いですよ」
「リト殿……! ああ、やはり貴殿は女神……いや、私だけの伴侶……! わかりました、今すぐレオンを国外追放にしてきます!!」
「それはやめて!!」
結局、レオンはゼノの殺気に押されて(半分くらい呆れて)退散していった。
だが、この日からゼノのガードはさらに厳しくなり、僕の執務室の周りには「ゼノ以外の全人類(イケメン含む)通行禁止」という不穏な結界が張られることになったのである。
「リト殿、もう一度言ってください。『ゼノさんが一番だ』と……!」
「はいはい、仕事の挨拶(愛してる)に関しては、ゼノさんが一番重いですよ」
「意味が違いますが、今はそれで手を打ちましょう!!」
ゼノの独占欲が大爆発した一日。
僕の平穏なスローライフへの道は、ライバルの登場によってさらに遠のいた気がした。
あなたにおすすめの小説
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。