伝説の聖騎士に求婚されていますが、それどころじゃないので定時で帰ります! ~もふもふと昼寝したいだけなのに愛が重すぎる~

たら昆布

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17話

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「リト殿。本日はお忙しい中、私の『リハビリ』にお付き合いいただき、感謝の念に堪えません」

王都から馬車で数時間。僕たちは、山間に位置する「魔力溜まり」の温泉地へとやってきていた。
病み上がりのゼノを気遣ったエディさんが、「魔力回復に最適な保養地で、ついでに周辺の結界調査をしてこい」と無理やり休暇(出張)をねじ込んできたのだ。

「いいですよ。僕も温泉には興味ありましたし。……でもゼノさん、リハビリにしては服装が気合入りすぎてませんか?」

今日のゼノは、いつもの鎧ではなく、動きやすさを重視しつつも高級感の溢れる狩猟服スタイルだ。
銀髪をハーフアップにし、爽やかな風を纏う姿は、歩くたびに周囲の観光客(主に女性陣)を石化させている。

「当然です。これは実質、私とリト殿の『新婚旅行(仮)』なのですから。ああ、見てくださいリト殿。あの露天風呂の看板……『貸し切り・夫婦円満の湯』とあります。運命を感じませんか?」

「感じません。調査ですよ、調査」

僕はあえて冷たく言い放ち、宿の浴衣に着替えるために部屋へ向かった。
温泉宿の浴衣。前世の慰安旅行を思い出す。
……まさか異世界で、こんなに風情のある旅館に泊まれるとは思わなかった。

「……よし、着替え完了。ココ、お留守番頼むよ」

「クゥン!(任せろ!)」

部屋の座布団で丸くなるココに見送られ、僕は廊下に出た。
そこで待っていたのは――。

「…………っ!!」

ゼノが、息を呑んで硬直していた。
紺色の浴衣を緩く着こなし、湯上がりのような上気した顔をした彼。
……反則だ。
いつもは「強そうな騎士」なのに、浴衣姿になると、どこか大人の色気と退廃的な美しさが混じり合っている。

「……リト殿。貴殿のその、浴衣から覗く鎖骨……白く細い足首……。ああ、私の視神経が、この光景を永遠に記録しようと暴走しています」

「ゼノさんこそ、似合いすぎですよ。……なんか、隣に並ぶのが恥ずかしくなってきた」

僕が視線を逸らすと、ゼノは音もなく近づき、僕の細い手首をそっと握った。

「逃げないでください。……今夜は、仕事も定時もありません。ただ、私と貴殿だけの時間です。……まずは、露天風呂で魔力を共有しに行きませんか?」

「魔力共有って……混浴ってことですか!? 嫌ですよ、恥ずかしい!」

「何を今更。医務室であれほど献身的に看病してくださった仲ではありませんか。……さあ、参りましょう。貴殿の魔力の揺らぎを、私が一番近くで整えてあげたいのです」

ゼノの瞳が、月明かりを反射してサファイアのように妖しく光る。
僕は「調査だから」と自分に言い聞かせ、彼に導かれるように奥の貸し切り風呂へと向かった。

湯船からは、幻想的な魔力の光を帯びた湯気が立ち上っている。
僕が恐る恐るお湯に浸かると、隣にゼノが静かに座った。

「…………」

無言の時間が流れる。
水の音と、虫の音だけが響く静寂。
ふと横を見ると、ゼノが濡れた銀髪をかき上げ、目を閉じていた。
その首筋から肩にかけての、鍛え上げられたしなやかな筋肉のライン。

「(……やっぱり、かっこいいんだよな、この人)」

不覚にも、ドキリとしてしまった。
今まで「重いストーカー」としか思っていなかったはずなのに、この温泉の熱のせいか、それとも看病の時の名残か、彼との距離がいつもよりずっと近く感じる。

「……リト殿。今、私を見ていましたね?」

「……っ、見てないですよ!」

「嘘はいけません。私の肌を、貴殿の視線がなぞるのを感じました。……嬉しいですよ。貴殿が、私をひとりの『男』として意識してくださっているのなら」

ゼノが目を開け、ゆっくりと僕の方へ身を寄せた。
お湯の中で、僕の太ももに彼の肌が触れる。
逃げ場のない露天風呂。立ち込める湯気が、僕たちの視界を甘くぼかしていく。

「……リト殿。……触れても、いいですか?」

ゼノの低い声が、僕の理性をじわじわと溶かしていく。
定時も、スローライフも、この時ばかりはどこか遠い世界の出来事のように思えた。
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