伝説の聖騎士に求婚されていますが、それどころじゃないので定時で帰ります! ~もふもふと昼寝したいだけなのに愛が重すぎる~

たら昆布

文字の大きさ
16 / 23

16話

「ほら、ゼノさん。少しは食べないと体力が戻りませんよ。エディさんが用意してくれたお粥、温め直してきましたから」

医務室のベッド脇。僕は湯気の立つ器を手に、ゼノの様子を伺った。
熱は少し下がったようだが、銀髪の騎士様はまだ真っ赤な顔をして、シーツを握りしめている。

「……リト殿。貴殿の手料理……。私は、死ぬのでしょうか。死ぬ前に最高のご褒美をいただいているのでしょうか……」

「僕が作ったわけじゃなくて、食堂のおばちゃんが作ったのを温めただけです。ほら、起きてください」

僕はゼノの背中に枕を差し込み、上半身を起こしてあげた。
いつもなら「貴殿に触れられるなど!」と大騒ぎするはずの男が、今日はされるがまま。
その無防備な様子に、なんだかこちらまで調子が狂う。

僕はスプーンでお粥を掬い、ふーふーと息を吹きかけてから、彼の口元へ運んだ。

「はい、あーん」

「…………っ!!」

ゼノが目を見開き、金縛りにあったように硬直した。
サファイア色の瞳が激しく揺れ、額から新たな汗が吹き出す。

「……あの、リト殿。これは……俗に言う『あーん』という儀式ですか?」

「儀式って。ただの介助ですよ。前世でも病人の世話はこうするって相場が決まってたんです。嫌なら自分で食べますか?」

「いえ!! 食べます!! 食べさせていただきます!!」

ゼノは必死の形相で口を開けた。
一口、また一口と、彼は僕が差し出すお粥を、まるで聖水でも頂くかのような神聖な面持ちで飲み込んでいく。

「……美味しい。……身体の芯から、リト殿の慈愛が染み渡ります……」

「だから、作ったのは食堂のおばちゃんですってば」

お粥を食べ終えると、次は薬の時間だ。
この世界の薬は、魔力を練り込んだ錠剤なのだが、今のゼノは魔力回路が乱れているせいで上手く飲み込めないらしい。

「うっ……ごほっ、ごほっ……。……申し訳ありません、リト殿。不甲斐ない……」

「いいですよ、無理しないで。……あ、そうだ。エディさんが『薬が飲めない時は、魔力を直接通して溶かせばいい』って言ってたな」

僕は薬を口に含み――ようとして、思いとどまった。
さすがにそれは、恋愛小説の読みすぎだ。
僕は薬を指先で持ち、ゼノの唇にそっと当てた。

「ゼノさん、少し口を開けて。僕が魔力を流して、直接溶かしますから」

僕はゼノの頬に手を添え、至近距離で見つめ合った。
熱を帯びた彼の吐息が、僕の顔にかかる。
いつもは追いかけ回される側だけど、こうしてじっとしている彼を見ていると、驚くほど整った顔立ちに……ほんの少しだけ、見惚れてしまう。

「(……睫毛、長いな……)」

無意識に指先が彼の唇に触れる。
ゼノの瞳に、熱病とは違う、もっと深い「熱」が宿るのを僕は見逃さなかった。

「……リト……殿……。……今、私を……誘っているのですか……?」

「は? 薬を飲ませようとしてるだけですけど。あ、溶けましたね。はい、おしまい」

僕はサッと手を引いた。
一方のゼノは、唇に残った僕の感触を反芻するように指でなぞり、そのままシーツを頭から被ってしまった。

「ゼノさん?」

「……もう、限界です……。看病してくださるリト殿が……あまりに……あまりに可愛すぎて……。……早く治して、貴殿を押し倒さなければならないという……義務感に……」

「病人は大人しく寝ててください!」

僕は真っ赤になった顔を隠すように、空になった器を持って立ち上がった。
心臓が少しだけ、いつもより速く打っている気がする。
……きっと、この部屋が暑すぎるせいだ。

「……じゃあ、僕は定時なので帰ります。明日は元気に家の前で叫んでてくださいよ」

「……リト殿。……愛しています(籠った声)」

「はいはい、お大事に」

僕は逃げるように医務室を後にした。
腕の中のココが、「ご主人様も大概だね」と言いたげに鼻を鳴らした。
僕のスローライフに、これまでにない「落ち着かない風」が吹き始めていた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。