異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ

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ご飯を食べ終わったあと、すぐにキッチンへ行くと、鍋の周りには料理人たちが集まっていた。
キッチンの中は煮こみのいい香りがする。

「ロック料理長。スジ煮はどうなったかしら?」
「こちらに。」

お玉を受け取り、すくい上げてみる。

「これよ、これ!お肉も柔らかくなっていそうね。味見しましょう!」

スプーンで一口分を口に入れ、味わう。

トロトロだわ。

「美味しい!」

思わず、笑みが溢れる。
それを見ていた皆が唾を飲んだ。

「ロック料理長、器を1つ…いえ、2つお願い。」
「は、はい。」

器を2つ受け取り、そこにスジ煮を入れる。

「こちらは、明日サンドイッチにしたいの。こちらは、お父様たちに持っていくわ。」
「畏まりました。」
「明日は、他に卵とマヨネーズ、唐辛子を使いたいのだけれど、大丈夫かしら?」
「たまごサンドですね。ゆで卵を作っておきますか?」
「良いの?ありがとう。」

マヨネーズは既にこの世界にあり、他には醤油とか、味噌とか調味料系は揃っていた。

前の記憶持ちさんの努力の結晶ね。

「唐辛子は一体?」
「そっか。今、あるかしら?ついでに、ネギも少し良い?」
「はい。」

私はその2つを千切りにして、1つの器のスジ煮の上にのせた。

「こうすると、もっと美味しいのよ。でも、ネギは歯に挟まるし、デートには不向きなの。だから、明日は唐辛子だけ。」
「…そうなのですね。」

ロック料理長含め、料理人達はジッとスジ煮をみている。

クスッ
思わず笑ってしまう。

「ロック料理長、もう1つスプーンを頂ける?」
「あ、はい。どうぞ。」

私は一口分掬ったあと、カルアを呼んだ。

「カルア。」
「はい。」
「あーん。」
「え?」
「味見してみて。」
「でも…」
「あーん。」

カルアは葛藤しているのだろうが、負けたようだ。

「頂きます。………美味しい。」
「でしょ?ロック料理長、皆さんも味見をどうぞ。私はもう行くわね。」
「…良いのですか?」
「もちろんよ。キッチンを貸してくれてありがとう。…あ、でもこの器の物は食べては駄目よ?」
「もちろんです。」

私がキッチンを出ると、ドアの向こうからワチャワチャと音が聞こえだした。

少しはお礼になったかしら。

そのまま、ネギと唐辛子をのせたスジ煮の器を手にお父様の所へ行く。
お父様は、ちょうどお兄様とお酒を飲んでいた。

「ちょうど良かったわ。おつまみにこちらをどうぞ。」
「これは?」
「スジ煮です。カルア、お母様とお姉様も呼んできて。味見をしてもらいたいの。」
「畏まりました。」
「スジ煮?リアが作ったのかい?」
「はい。昔を思い出して作りました。」
「そうか。…頂いて良いのか?」
「もちろんです。どうぞ。」

お父様は恐る恐る口に入れる。

「これはスジ煮と言ったか?」
「はい。」
「なんの肉だ?」
「牛ですよ。」
「こんな食感は初めてだ。」
「うん、まぁ、そうでしょうね…。今まで捨てていた所ですから。」
「え?…こんなに味が良いところを捨てていたのか。」

そう言うと、お父様は次を口に運ぶ。

「父上、私にも食べさせて下さい。…美味しい。」
「お口に合ってよかったです。」

そこへ、お母様とお姉様もやって来た。

「私たちの分も残っていますよね?」

スジ煮はあっと言う間になくなった。

「無くなったな。」
「無くなってしまったわね。」
「「そうですね。」」
「「「「おかわりは?」」」」

4人の声が重なる。

「どうでしょう。料理人たち用に、キッチンに残りは置いてきましたが、」
「ちょっと見てこよう。」

お父様がそそくさと席を立ち、キッチンへ向かったが、肩を落として戻ってきた。

「残りはお弁当用だと追い返された。…リア。」

こちらをジッとみつめる4人。

「だめですよ。煮込むのに時間がかかるのですから。」
「そうか…。」
「また、機会があれば作りますね。」
「楽しみにしてる。…それにしても、美味しいものとはまだまだあるのだな。」
「リア。これから、どんどん料理なさい。」
「お母様…。今回は、たまたま無かった料理ですが、私の知っている料理は既に食べられている物も多いですよ?」
「あら、そうなの?」

そんな話をしていると、お姉様がおずおずと口を開いた。

「あの…。聞きたいのですけれど…。」
「はい、お姉様。何でしょう。」
「無かった料理とか、食べられているとかどういう事なのですか?」

!!
お姉様には記憶持ちの話は、まだ?

私はお兄様を見た。
お兄様は、『しまった』という顔をしている。

「…父上。」

お兄様がお父様に声をかけると、お父様はコクリと頷いた。

「ジャスミン。大切な話があるから、向こうに行こうか。」

そう言って、ふたりは別室に移動した。

「…大丈夫かしら。」

私の周りは記憶持ちの事を受け入れてくれているが、そうでない人もいるのは分かっている。
不安になっていると、お母様が声をかけ、肩を抱いてくれた。

「ジャスミンなら大丈夫よ。」
「そうよね…。」

少しの時間が経ち、ふたりが戻ってきた。

「リア。ジャスミンに話したよ。」
「…はい。」

私は俯いて、続きをまつ。

「『そういう事もあるのね』」
「え?」
「ジャスミンの答えだよ。」
「…それだけ?」

私はお兄様の後ろにいるジャスミンを見た。

「他に何かあるの?」

ジャスミンはコテンと首を傾けた。

「…い、いいえ。」

私は、本当に周りに恵まれている。

そして、ある決心をした。





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