神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
63 / 201
第二部 少年と王女と教皇と 第二章 決意の時

9.それぞれの戦い(5)レイク・ブルテ

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(レイク視点・三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 レイク・ブルテ侯爵、22歳。
 幼い頃の彼は、ただひたすらに知の探求を望む子どもだった。
 侯爵家の長男として生まれながら、社交や政治の場に行くことを好まず、ただひたすら図書室で本を読むのが好きな、内気な少年。
 それが5歳になるまでの彼であった。

 そんな彼を外に出すため、先代ブルテ侯爵はガラジアル・デ・スタンレード公爵に相談。
 彼の手引きで、ブルテはアラブシ・カ・ミランテに師事することになる。
 彼女は元々平民の出でありながら、知識と魔力を洪水のようにレイクに授けた。
 レイクは一生この人について行こうと考え、政治家ではなく宮廷学者の道を志すようになる。
 そのころ、将来枢機卿となるラミサルとも席を共にし、交流を深めたのだが、それはまた別の話だ。

 転機は4年後。
 ガラジアル・デ・スタンレード公爵が死亡した。
 それ自体はレイク少年にとって大した意味は無かった。
 今思えば、王宮が一気にきな臭くなる最初の事件だったのだが、当時9歳のレイク少年にとって1番ショックだったのは、アラブシが出奔したことだ。
 それも、自分に黙って。

 生涯の師とすら思っていた人に捨てられたショック。
 レイク少年は再び図書室に閉じこもるようになる。
 そんな彼をよそに、王宮ではその2年後、王子達が次々と変死していく。

 レイク少年は賢い。
 いくら大人たちが『病死扱い』しようと、持ち前の賢さと子どもの素直さで、それが病死などではないと容易に考えつく。
 さらにガラジアル公爵の死もまた、その流れの中の最初の事件だったと思いつくのにさしたる時間は必要なかった。
 その犯人は、まず間違いなく諸侯連立派の王子達。
 間接的にレイクから師を奪ったのも、彼らだ。

 だが、レイクに王子達を告発する力はない。
 ましてや、国王の言葉として病死であると明言されてしまっている。

 レイクが頼ったのは、デスタード・スラシオ侯爵。
 ガラジアル公爵と最も近しかった人物である。

 国王の言葉をひっくり返すには、決定的な物的証拠が必要だ。
 レイクはデスタード侯爵と共に密かに調査を進める。

 デスタード侯爵は諸侯連立派の王子が他の王子に送ったワインの瓶を入手していた。
 そこに毒物が混入されていたことを証明できれば手がかりになりうる。

 だが、レイクにはそれを証明することができなかった。
 いかに学者を志す少年といえど、当時12歳。できることなど限りがある。

(アラブシ先生がいれば……)

 薬師としても優秀だった彼女なら、あるいは証明できたかもしれない。

 一年後、今度はデスタード侯爵が倒れ、あれよあれよというまに死亡する。
 それが病死だったのか、過労死だったのか、あるいは彼もまた謀殺されたのか、レイクにはそれすらも判断できなかった。

 今際の際、デスタード侯爵はレイクに言い残した。
 今の国王にはもう1人子どもがいる。諸侯連立派の王子に対抗するため彼女を擁立せよと。

 13歳の少年に託すにはあまりにも重い願い。
 あるいは、デスタード侯爵も死の間際になって判断力が落ちていたのかもしれない。
 レイクとしても、一体なにから手をつけてよいのか分からなかった。

 そのレイクに、漆黒の世界の少年が囁いた。

 ――そしてそれから10年近くのち。

 ---------------

 レイク、アラブシ、リラ、パドの母親の4人は『闇の獣』に囲まれていた。
 アラブシが1匹倒すのに死力を尽くした相手が、10匹以上いるのだ。

「ちっ、なかなかやっかいだね」

 アラブシが舌打ちして言うが、やっかい・・・・等という状況ではない。
 完全に詰んでいる。

「レイク、結界魔法はまだ使えるね!?」

 かつての師が尋ねる。

「使えますが……時間稼ぎにしかなりませんよ」
「時間稼ぎなんざするつもりはないよ。ただ、これからでっかいの使うからね。馬鹿弟子パドに託された2人を護ってほしいだけさ」

 リラと母親のことか。

「『誰を信頼して誰を疑うべきか考えろ』とか言っちまったからさ。ここで私が弟子の信頼を裏切るわけにもいかんだろ」
「そうはおっしゃいますが、この数相手にどうされるんですか!?」
「うるさい。ゴチャゴチャ言わんととっとと結界魔法を使いな!!」

 レイクは迷う。
 ここで下手を打ったら、今度こそ本当に師を失うのではないかと。
 
 だが、同時に。
 師の想いをかなえたいとも感じる。

 だから、レイクは使った。
 リラとパドの母親と自分を護るための結界魔法を。

「お師匠様っ!! 無茶よ!!」

 リラが叫ぶ。

「心配するなリラ。こいつらは、私が倒すから。
 さあ、見ておいで。アラブシ・カ・ミランテ究極の奥義だ!!」

 そして、アラブシの体全体から閃光が迸った。

 ---------------

「お師匠様、何を!?」

 リラが叫ぶ。

「まさか……」

 レイクは思い出す。
 かつて、アラブシが説いた魔力の正体。
 魔力とは、つまるところ生命エネルギーと限りなく近く、それでいて別のモノであるという理論。
 その考え方では、仮に生命エネルギーを魔力に変換できれば、人の使う魔法はさらなる高みに至るとされた。

 あくまでも理論上の話であったし、なによりも生命エネルギーは生きるみなもとだ。
 そんなことをすれば命が危ない。

 ――だが。

 いま、アラブシが行っている究極の奥義は。

「先生、命を燃やすつもりですかっ!!」

 レイクが叫び、リラが目を見開く。

「それって!! ……お師匠様っ!!」

 リラはあくまでも薬師としての弟子だと聞いた。
 魔法や魔力について正式に習ったわけではないだろう。

 それでも、命を燃やすというレイクの言葉を聞けば、ある程度嫌な予感はするのだろう。

「お師匠様、お師匠様ぁぁぁぁ!!」

 叫んで、レイクの結界から出て行こうとするリラ。
 むろん、結界は内側からも抜けることはできない。

(どうする? どうしたらいい?)

 結界を解いてアラブシを止めるか。
 だが、もはや……

 もはや目を開けていることすらつらいほどの光。

 この閃光は単なる浄化魔法ではない。
 物理的な衝撃を伴っている。
 今、結界魔法を解けば、レイクだけでなくリラやパドの母親も危険だ。

(先生、あなたは、また勝手なことをっ)

 やがて、閃光が収まったとき、レイクももはや限界だった。
 結界魔法の連続使用で意識がもうろうとする中、レイクは見た。

 アラブシが燃え尽きたようにその場に倒れるのを。

「お師匠……さま……」

 リラがフラフラした足取りでアラブシに近づく。
 レイクもその後に続く。
 パドの母親を放置する形になってしまったが、もはや『闇の獣』の姿はない。

 アラブシの口が小さく動く。

「まだ生きている。ねえ、回復魔法使えるんでしょう!?」

 確かにレイクは回復魔法を使える。
 だが、駄目なのだ。
 レイクの魔力も限界を超えていたし、なにより魔力の使いすぎで倒れた相手に回復魔法を使うのは、逆にダメージを与えるだけだ。
 これは魔法の基本である。

「ねえ、なんとかしてよっ!!」

 リラが叫ぶ。

「すみません。アラブシ先生は魔力を使いすぎています。回復魔法ではどうにもなりません」

 レイクは事実を淡々と伝えることしかできなかった。

「だったら、そうよ、パドの時みたいな薬で……」

 薬師の弟子らしく動き出そうとしたリラを、しかしアラブシが止めた。

「無駄だよ。あれはあくまでも魔力の補充。今回は生命エネルギーまで燃やしちまったからね」
「じゃあ、どうしたらいいの? 何でも言って」

 泣き叫ぶように言うリラ。
 その表情を見れば、彼女も薄々感じ取っているのだろう。

 アラブシ・カ・ミランテは、もう助からない・・・・・・・と。

 ちょうどその時だった。

 パド少年と、アル王女達がそれぞれこの場に戻ってきたのは。
 どうやらキラーリアも回復した様子だし、他の者達も無事だ。

「お師匠様? どうしたの、リラ、これ……」

 パド少年がフラフラとアラブシの元に膝をつく。

「レイク殿、一体何が?」
「アラブシ先生は、命を燃やされました」

 ラミサルの問いに、レイクは端的に答えた。
 彼もアラブシの魔法理論を習った男。それだけで、事情は察した様子だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...