94 / 201
【番外編】それぞれの物語
【番外編22】心弱き子ども達の決意(3)バラヌの場合
しおりを挟む
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(その5:バラヌの場合)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
人族とのハーフの魔無子。
それがバラヌが背負った宿命だった。
エルフは自然――とくに植物を操る魔法に優れた存在だ。
人族のように契約することなく、ある程度生まれながらに植物を操れるのが当然だ。意図して操ろうとしなくても、その魔力は自然とエインゼルの森林を維持する力となる。
逆の言い方をするならば、エインゼルの森林はエルフの魔力によって支えられており、エルフ達の食料はそこで育つ果実や木の実であり、住む場所は森林の木々を変形させて作るし、服は草木を編んだ物だ。
エルフが魔力絶対主義なのは、つまり彼らの生活を支える根底が魔力の存在だからだ。
人族や獣人のように自らの手足を動かして何かを生産するのではなく、エルフは自らの魔力を使って衣食住に必要なモノを生産している。
しかるに、そこに魔力が0の存在が住もうとしたらどうなるか。
答えは簡単。
『役立たず』『不出来な子』という評価になる。
しかも、その子供の血の半分は、エルフではなく人族のものなのだ。
バラヌが同年代の子ども達から虐められ、大人たちから蔑まれるのは当然であった。
だが、バラヌにどうしろというのか。
魔力の有無は潜在的なものだ。努力でどうにかなるわけではない。
魔力が少しでもあれば鍛えることもできるが、魔力0で産まれた者が魔力を後天的に身につけることはほぼ不可能である。
厳密には(バラヌは知らぬ事だが)、神やルシフとの契約により後天的に魔力を身につけることは可能である。が、その結果リリィやパドやアルがいかなる目にあってきたかは、読者諸氏もご存知の通りだ。
あるいは彼がもう少し大きくなれば、エインゼルの森林を出て、人族の街に移住する道もあったかもしれない。
だが5歳児が1人で越られるほど砂漠は甘くないし、そもそも住んでいる地を1人去るなどという発想がない。
バラヌは生まれの理不尽を嘆くことすらできず、魔力の無い子供、魔無子としての徹底的に差別される運命を受け入れるしかなかった。
そんなときにバラヌの前にパド達が現れた。
バラヌの異母兄弟だというパドは、人族でありながらありえない魔力を秘めていた。
その事実にバラヌは驚愕したし、嫉妬もした。
だが、その複雑な感情を整理する間もなく、今度は『闇』がエルフ達を襲った。
バラヌの母、ミラーヌは彼を庇い、重傷を負った。
そこに駆けつけたパドとリラが、彼を救ってくれた。
しかも、『闇』とパド達が顔見知りであるかのような会話が交わされたのだ。
何が何だか分からないまま、バラヌはパドに言った。
「敵、とってくれるんじゃなかったのかよ!?
だったら、どうしてお母さんの敵に、呼びかけたりするんだよ!? おかしいじゃんか。
あんたがやらないんだったら、僕がやるっ!!」
自分にそんな力が無いことは重々承知の上で、バラヌはそれでも叫んだ。
母のことは、別に好きだったわけじゃない。
他の大人たちと同じように、自分を蔑んでいると思っていた。
それでも、最後の瞬間、彼を救ってくれたのは母ミラーヌだったのだ。
兄のパドは言った。
「バラヌは1人でもたくさんのエルフを助けられるように、リラを案内して」
バラヌは戸惑った。
まだ幼く、魔無子として蔑まれるばかりだった彼は、他人に何かを頼られるなど初めての経験だったのだ。
「僕は、魔無子で、役立たずのいらない子で……」
「魔力なんて関係ないよ。僕の友達には魔法なんて使えないけど、一生懸命村の復興を頑張っているヤツもいるんだから。
今、リラを案内できるのはバラヌだけだ。だから、十分役に立つ」
パドのいう友達というのが誰なのかは分からない。
それでも、魔力が無くてもできることがあるという発想を、バラヌに初めて与えてくれたのはパドだった。
もし。
もしも、魔無子の自分でも里の皆の助けになれるなら。
バラヌは「わかった」と兄に頷いたのだった。
それはこれまで自らを蔑むしか出来なかった少年が、一歩を踏み出したその瞬間だった。
(その5:バラヌの場合)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
人族とのハーフの魔無子。
それがバラヌが背負った宿命だった。
エルフは自然――とくに植物を操る魔法に優れた存在だ。
人族のように契約することなく、ある程度生まれながらに植物を操れるのが当然だ。意図して操ろうとしなくても、その魔力は自然とエインゼルの森林を維持する力となる。
逆の言い方をするならば、エインゼルの森林はエルフの魔力によって支えられており、エルフ達の食料はそこで育つ果実や木の実であり、住む場所は森林の木々を変形させて作るし、服は草木を編んだ物だ。
エルフが魔力絶対主義なのは、つまり彼らの生活を支える根底が魔力の存在だからだ。
人族や獣人のように自らの手足を動かして何かを生産するのではなく、エルフは自らの魔力を使って衣食住に必要なモノを生産している。
しかるに、そこに魔力が0の存在が住もうとしたらどうなるか。
答えは簡単。
『役立たず』『不出来な子』という評価になる。
しかも、その子供の血の半分は、エルフではなく人族のものなのだ。
バラヌが同年代の子ども達から虐められ、大人たちから蔑まれるのは当然であった。
だが、バラヌにどうしろというのか。
魔力の有無は潜在的なものだ。努力でどうにかなるわけではない。
魔力が少しでもあれば鍛えることもできるが、魔力0で産まれた者が魔力を後天的に身につけることはほぼ不可能である。
厳密には(バラヌは知らぬ事だが)、神やルシフとの契約により後天的に魔力を身につけることは可能である。が、その結果リリィやパドやアルがいかなる目にあってきたかは、読者諸氏もご存知の通りだ。
あるいは彼がもう少し大きくなれば、エインゼルの森林を出て、人族の街に移住する道もあったかもしれない。
だが5歳児が1人で越られるほど砂漠は甘くないし、そもそも住んでいる地を1人去るなどという発想がない。
バラヌは生まれの理不尽を嘆くことすらできず、魔力の無い子供、魔無子としての徹底的に差別される運命を受け入れるしかなかった。
そんなときにバラヌの前にパド達が現れた。
バラヌの異母兄弟だというパドは、人族でありながらありえない魔力を秘めていた。
その事実にバラヌは驚愕したし、嫉妬もした。
だが、その複雑な感情を整理する間もなく、今度は『闇』がエルフ達を襲った。
バラヌの母、ミラーヌは彼を庇い、重傷を負った。
そこに駆けつけたパドとリラが、彼を救ってくれた。
しかも、『闇』とパド達が顔見知りであるかのような会話が交わされたのだ。
何が何だか分からないまま、バラヌはパドに言った。
「敵、とってくれるんじゃなかったのかよ!?
だったら、どうしてお母さんの敵に、呼びかけたりするんだよ!? おかしいじゃんか。
あんたがやらないんだったら、僕がやるっ!!」
自分にそんな力が無いことは重々承知の上で、バラヌはそれでも叫んだ。
母のことは、別に好きだったわけじゃない。
他の大人たちと同じように、自分を蔑んでいると思っていた。
それでも、最後の瞬間、彼を救ってくれたのは母ミラーヌだったのだ。
兄のパドは言った。
「バラヌは1人でもたくさんのエルフを助けられるように、リラを案内して」
バラヌは戸惑った。
まだ幼く、魔無子として蔑まれるばかりだった彼は、他人に何かを頼られるなど初めての経験だったのだ。
「僕は、魔無子で、役立たずのいらない子で……」
「魔力なんて関係ないよ。僕の友達には魔法なんて使えないけど、一生懸命村の復興を頑張っているヤツもいるんだから。
今、リラを案内できるのはバラヌだけだ。だから、十分役に立つ」
パドのいう友達というのが誰なのかは分からない。
それでも、魔力が無くてもできることがあるという発想を、バラヌに初めて与えてくれたのはパドだった。
もし。
もしも、魔無子の自分でも里の皆の助けになれるなら。
バラヌは「わかった」と兄に頷いたのだった。
それはこれまで自らを蔑むしか出来なかった少年が、一歩を踏み出したその瞬間だった。
0
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる