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【番外編】それぞれの物語
【番外編21】心弱き子ども達の決意(2)ダルト、そしてリリィの場合
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(その4:ダルトの場合)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダルト・レストア。レストア家三男として産まれた彼は、つまりは家にとってあまり必要ではない子どもだった。
長男は家を継ぐ。次男は長男に何事かあったときのための代わり。
では三男は?
もちろん、兄2人双方に何かあれば自分の出番ということにもなろうが、もともとダルトには家を継ぐ意志などなかった。
レストア家は王家派の重鎮スラシオ家の与力であるブルテ家の、そのまた与力である。
現在の日本で言えば、下請け会社のそのまた下請けのようなものだ。
そもそも、王家が元請けと考えれば、もっと下ということになる。
要するに、貴族としては下級であり、兄と争ってまで跡継ぎになりたいと思えるほどの家ではない。
ダルトはそう考えていた。
ゆえに、幼き日の彼は特に目標もなく暮らしていた。
毎日脳天気に生きてゆくことが許されていたのは、魔力の素質を多少なりとも持っていたからだろう。
---------------
彼にとって転機となったのは、9歳だった7年前。聖歴515年のことである。
父よりブルテ家のご令嬢の世話役を命じられた。
回復魔法が使えることが高く評価されたらしい。
万が一の時、お嬢様を護れということなのだろうか。
令嬢の名前はリリアン・ブルテ。通称リリィ。
挨拶をしたその瞬間殴られた。それも花瓶で。
どうやら新しい家庭教師だと思われたらしく、勉強嫌いな彼女はいつもそうしているらしい。
無茶苦茶である。
そのまま家に帰りたくなったが、父の手前それもできない。
とりあえず、自分自身に回復魔法をかける。
直接の雇い主となるレイク・ブルテは、その様子を見てダルトの採用を決めた。
(回復魔法を使えることが評価されたのは、自分にかけるためのものか)
そう納得したのは間違ってはいなかった様子で、その日からブルテは殴られ、蹴られ、2階から突き落とされ、剣で追いかけ回された。他ならぬ世話をする相手、当時6歳のリリィに。
(命がいくつあっても足りない)
ダルトはそう思いつつも、彼女の世話をした。
そうしているうちにだんだんと分かってくる。
彼女は本当は寂しいのだと。
彼女の両親は彼女が3歳の時に共に病没している。
伯父であるレイクは色々忙しいらしく彼女の相手をほとんどできていない。
メイドに世話をさせようにも、あまりにも乱暴な彼女に女性は近づきたがらない。
彼女の孤立は彼女自身の責任だが、それでも6歳の子どもがいつも1人でいるのは不憫にも感じた。
10歳の彼は彼なりに必死にリリィに接した。
彼女は少なくとも誰かを殺すような致命的なことはしない。
メイドさんに対しても、そこまで酷い対応はしていない。
ダルトに対する行為は、どうせ回復魔法が使えるんだから大丈夫でしょという考えに基づいているっぽい。
そこまで分かっても、対応策は思いつかなかったが。
---------------
それから1年後、リリィが興奮した声でダルトに言う。
「ねえねえ、盗賊女帝って知っている?」
「まあ、名前くらいは」
当時ちまたで話題の女盗賊だった。恵まれた者からしか盗まないがゆえに、義賊などと呼ばれているが、襲われた貴族家では殺された人間もいる。とても手放しで褒め称えられるような相手ではない。
だが、リリィはどこからか聞きつけた盗賊女帝に首っ丈になった。
「私も盗賊になりたいわ。どうしたら盗賊ってなれるの? 私の力があれば行けるわよね!?」
まくし立てるリリィに、ダルトは苦笑いし、また半殺しにされるのだった。
---------------
本来なら、リリィの盗賊女帝への憧れは、憧れというだけで終わるはずだった。
まさか、レイクがアル王女を国王として即位させようとするとは。
しかも、そのアル王女がリリィの憧れた盗賊女帝だというのだ。
正直、ダルトはレイクの正気を疑いかけた。
だが、他の様々な証拠をみても、彼女がまだスラシオ侯爵がご存命だったころに王城から密かに出奔したとされるメイドの子で間違いなさそうだった。
『まさか、憧れの盗賊女帝に会えるなんて』とはしゃぐリリィに、ダルトは複雑な思いをいだくのだった。
レイクと共に2人の前に現れたアル王女は、思ったより理知的な人物だった。
確かに盗賊女帝の名の通り、力こそ正義と考えている節はあるが、少なくとも無為に暴力を振るったりはしない。
リリィはあっという間に彼女に懐き、彼女の旅に付き合うようになった。
ダルトは思う。
リリィは危うい。だが、護りたい相手だと。
父に命じられたからではない。芯の部分の弱さを知ってしまったからだ。
だが、リリィのその弱さを彼が受け入れてしまったが為に、彼女は大きな間違いを犯すことになるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(その4:リリィの場合)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リリィは自分に貴族の娘が求められる能力が無いことをよく自覚していた。
貴族の女に求められるのは、つまるところ、良き淑女となり、家のために嫁ぎ、良き妻となることだ。
だが、彼女には女としての才能が皆無だった。
炊事や針仕事など大っ嫌いだし、舞踏会で踊るのも苦手だ。
芸術方面には全く才能が無く、何よりも貴族のパーティ会場でお愛想笑いを浮かべている女達には嫌悪感しか覚えない。
その意味で、彼女はキラーリア・ミ・スタンレードと近かった。が、キラーリアのような男をも黙らせる剣術の天才というわけでもない。
だからだろう。両親亡き後貢献となったレイクも、自分には何も期待していない様子だった。
アルの隣に立つ、キラーリアを見て、カッコイイと思った。
私もアルお姉様の横に立ちたいと願った。
実際、料理や踊りに比べれば、剣術の方が自信があった。
だが、すぐに自分には剣術の才能も無いということも知ってしまった。
実際にはそこまで下手なわけでもないのだが、異能の天才のキラーリアや、ルシフとの契約で10倍の力を持つアルにはとても敵わない。
それでも、それは2人が大変な苦労を詰んできたからだと、まだ納得できた。
だけど。
パド少年。
彼の力を見たとき、世の中努力ではどうにもならない壁があるのだと知った。
巨大芋虫のモンスターに、自分はなすすべもなかった。
それなのに、大した努力をしてきたようにも見えない7歳の彼はあっさりそれを叩き潰した。
アルお姉様は、私には何も期待していないのに、パドには期待している。
そう考えると、たまらなかった。
砂漠をダルトやキラーリアと共にとぼとぼと歩きながら、彼女の心の中には暗い影が渦巻いていた。
それは結局の所、つまらない嫉妬でしかなかったのだろう。
パド少年はパド少年で苦労しているとか、そんなことは全く考えず、自分がダルトやアルやレイクにどれだけ大切にされているかにも頭が回っていない。
彼女はせめてもう少しパド少年かリラ少女と話をするべきだった。
あるいは、ダルトかキラーリアかレイクに相談すべきだったのだろう。
だが、思い詰めた彼女の心の暴走は選んではならない決意を彼女にさせてしまった。
彼女を想う存在ではない、もっと別の声に耳を傾けてしまった。
それは、パド少年やアルが最も警戒している相手。
諸侯連立なんかよりも、ずっと悪意にまみれた相手。
黒き世界の住人、ルシフの声だ。
『力が欲しいのかい?』
囁くその声に、彼女は頷いてしまった。
『パドくんは狡いよね。神様にもらった力だけで、キミの居場所を奪おうとしている』
パドの前世の弟を模した姿でそう囁くルシフ。
『ボクならキミに力を与えてあげられる。契約さえすればね』
そして、彼はこう言った。
『君を思ってくれる誰かの命を、ボクに捧げなよ』
それは悪魔の囁きで。
リリィは頷いてしまった。
彼女の決意は、彼女自身を『闇』へと変え、彼女自身を滅ぼすことになる。
(その4:ダルトの場合)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダルト・レストア。レストア家三男として産まれた彼は、つまりは家にとってあまり必要ではない子どもだった。
長男は家を継ぐ。次男は長男に何事かあったときのための代わり。
では三男は?
もちろん、兄2人双方に何かあれば自分の出番ということにもなろうが、もともとダルトには家を継ぐ意志などなかった。
レストア家は王家派の重鎮スラシオ家の与力であるブルテ家の、そのまた与力である。
現在の日本で言えば、下請け会社のそのまた下請けのようなものだ。
そもそも、王家が元請けと考えれば、もっと下ということになる。
要するに、貴族としては下級であり、兄と争ってまで跡継ぎになりたいと思えるほどの家ではない。
ダルトはそう考えていた。
ゆえに、幼き日の彼は特に目標もなく暮らしていた。
毎日脳天気に生きてゆくことが許されていたのは、魔力の素質を多少なりとも持っていたからだろう。
---------------
彼にとって転機となったのは、9歳だった7年前。聖歴515年のことである。
父よりブルテ家のご令嬢の世話役を命じられた。
回復魔法が使えることが高く評価されたらしい。
万が一の時、お嬢様を護れということなのだろうか。
令嬢の名前はリリアン・ブルテ。通称リリィ。
挨拶をしたその瞬間殴られた。それも花瓶で。
どうやら新しい家庭教師だと思われたらしく、勉強嫌いな彼女はいつもそうしているらしい。
無茶苦茶である。
そのまま家に帰りたくなったが、父の手前それもできない。
とりあえず、自分自身に回復魔法をかける。
直接の雇い主となるレイク・ブルテは、その様子を見てダルトの採用を決めた。
(回復魔法を使えることが評価されたのは、自分にかけるためのものか)
そう納得したのは間違ってはいなかった様子で、その日からブルテは殴られ、蹴られ、2階から突き落とされ、剣で追いかけ回された。他ならぬ世話をする相手、当時6歳のリリィに。
(命がいくつあっても足りない)
ダルトはそう思いつつも、彼女の世話をした。
そうしているうちにだんだんと分かってくる。
彼女は本当は寂しいのだと。
彼女の両親は彼女が3歳の時に共に病没している。
伯父であるレイクは色々忙しいらしく彼女の相手をほとんどできていない。
メイドに世話をさせようにも、あまりにも乱暴な彼女に女性は近づきたがらない。
彼女の孤立は彼女自身の責任だが、それでも6歳の子どもがいつも1人でいるのは不憫にも感じた。
10歳の彼は彼なりに必死にリリィに接した。
彼女は少なくとも誰かを殺すような致命的なことはしない。
メイドさんに対しても、そこまで酷い対応はしていない。
ダルトに対する行為は、どうせ回復魔法が使えるんだから大丈夫でしょという考えに基づいているっぽい。
そこまで分かっても、対応策は思いつかなかったが。
---------------
それから1年後、リリィが興奮した声でダルトに言う。
「ねえねえ、盗賊女帝って知っている?」
「まあ、名前くらいは」
当時ちまたで話題の女盗賊だった。恵まれた者からしか盗まないがゆえに、義賊などと呼ばれているが、襲われた貴族家では殺された人間もいる。とても手放しで褒め称えられるような相手ではない。
だが、リリィはどこからか聞きつけた盗賊女帝に首っ丈になった。
「私も盗賊になりたいわ。どうしたら盗賊ってなれるの? 私の力があれば行けるわよね!?」
まくし立てるリリィに、ダルトは苦笑いし、また半殺しにされるのだった。
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本来なら、リリィの盗賊女帝への憧れは、憧れというだけで終わるはずだった。
まさか、レイクがアル王女を国王として即位させようとするとは。
しかも、そのアル王女がリリィの憧れた盗賊女帝だというのだ。
正直、ダルトはレイクの正気を疑いかけた。
だが、他の様々な証拠をみても、彼女がまだスラシオ侯爵がご存命だったころに王城から密かに出奔したとされるメイドの子で間違いなさそうだった。
『まさか、憧れの盗賊女帝に会えるなんて』とはしゃぐリリィに、ダルトは複雑な思いをいだくのだった。
レイクと共に2人の前に現れたアル王女は、思ったより理知的な人物だった。
確かに盗賊女帝の名の通り、力こそ正義と考えている節はあるが、少なくとも無為に暴力を振るったりはしない。
リリィはあっという間に彼女に懐き、彼女の旅に付き合うようになった。
ダルトは思う。
リリィは危うい。だが、護りたい相手だと。
父に命じられたからではない。芯の部分の弱さを知ってしまったからだ。
だが、リリィのその弱さを彼が受け入れてしまったが為に、彼女は大きな間違いを犯すことになるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(その4:リリィの場合)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リリィは自分に貴族の娘が求められる能力が無いことをよく自覚していた。
貴族の女に求められるのは、つまるところ、良き淑女となり、家のために嫁ぎ、良き妻となることだ。
だが、彼女には女としての才能が皆無だった。
炊事や針仕事など大っ嫌いだし、舞踏会で踊るのも苦手だ。
芸術方面には全く才能が無く、何よりも貴族のパーティ会場でお愛想笑いを浮かべている女達には嫌悪感しか覚えない。
その意味で、彼女はキラーリア・ミ・スタンレードと近かった。が、キラーリアのような男をも黙らせる剣術の天才というわけでもない。
だからだろう。両親亡き後貢献となったレイクも、自分には何も期待していない様子だった。
アルの隣に立つ、キラーリアを見て、カッコイイと思った。
私もアルお姉様の横に立ちたいと願った。
実際、料理や踊りに比べれば、剣術の方が自信があった。
だが、すぐに自分には剣術の才能も無いということも知ってしまった。
実際にはそこまで下手なわけでもないのだが、異能の天才のキラーリアや、ルシフとの契約で10倍の力を持つアルにはとても敵わない。
それでも、それは2人が大変な苦労を詰んできたからだと、まだ納得できた。
だけど。
パド少年。
彼の力を見たとき、世の中努力ではどうにもならない壁があるのだと知った。
巨大芋虫のモンスターに、自分はなすすべもなかった。
それなのに、大した努力をしてきたようにも見えない7歳の彼はあっさりそれを叩き潰した。
アルお姉様は、私には何も期待していないのに、パドには期待している。
そう考えると、たまらなかった。
砂漠をダルトやキラーリアと共にとぼとぼと歩きながら、彼女の心の中には暗い影が渦巻いていた。
それは結局の所、つまらない嫉妬でしかなかったのだろう。
パド少年はパド少年で苦労しているとか、そんなことは全く考えず、自分がダルトやアルやレイクにどれだけ大切にされているかにも頭が回っていない。
彼女はせめてもう少しパド少年かリラ少女と話をするべきだった。
あるいは、ダルトかキラーリアかレイクに相談すべきだったのだろう。
だが、思い詰めた彼女の心の暴走は選んではならない決意を彼女にさせてしまった。
彼女を想う存在ではない、もっと別の声に耳を傾けてしまった。
それは、パド少年やアルが最も警戒している相手。
諸侯連立なんかよりも、ずっと悪意にまみれた相手。
黒き世界の住人、ルシフの声だ。
『力が欲しいのかい?』
囁くその声に、彼女は頷いてしまった。
『パドくんは狡いよね。神様にもらった力だけで、キミの居場所を奪おうとしている』
パドの前世の弟を模した姿でそう囁くルシフ。
『ボクならキミに力を与えてあげられる。契約さえすればね』
そして、彼はこう言った。
『君を思ってくれる誰かの命を、ボクに捧げなよ』
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リリィは頷いてしまった。
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