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第二章
イレーヌの思惑
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「一体、どうされたんですか? こんなところに、帝国認定聖女様が倒れていらっしゃるなんて……」
心配そうな表情を作ってはいるが、昨日の一件や先ほど一瞬見えた表情からして、イレーヌが本当にセラを心配しているとは思えない。
それどころか、彼女がこの状況を作り出した犯人なのではないかという考えが頭を占める。
「失礼ですが、あなたは?」
騎士が尋ねる。彼は昨日の騒ぎを見ていなかったようだ。
「あっ、失礼いたしました。私、イレーヌと申します。そちらのセラ様とは、幼い頃に同じ教会で切磋琢磨した聖女仲間なんです。だから私、心配で……」
イレーヌが、しおらしく目を伏せる。
「昨日の様子では、とてもそのような良い関係とは思えなかったが」
「……っ!」
オレがその場にいたとは思っていなかったのだろうか、イレーヌはギクッと肩を震わせた。彼女はあの時、周囲の空気も読めないほどに激昂していたので、誰がいたのかなんて覚えていなくても、無理はないかもしれない。
「き、昨日の件は、私も反省しています。司祭様からも叱られて、目が覚めたんです。だから私、セラ様に謝罪しようと思って、彼女を探していたんです」
彼女の言い分は胡散臭いことこの上ないが、頭ごなしに否定するわけにもいかない。探るような視線を向けるに留めた。
それを誤魔化せたと解釈したのか、イレーヌはコホンとひとつ咳払いをすると、意味深長な視線をセラへ向けた。
「その結界……緊急用の魔道具ですよね? もしかしたら、セラ様は誰かに襲われて、それを起動したんじゃないでしょうか? その後、意識を失ってしまったとか……」
「……だとしたら、何なんだ?」
イレーヌが自分の望む方向へ話を持っていきたいのだろうということはわかる。でも、どこへ帰結させようとしているのかわからない。
こんなことをして、彼女が得るものなどあるだろうか?
自業自得でしかないが、自分が式典に出られなくなった腹いせ以外の理由が見当たらない。しかし、嫌がらせでこんなことをするのはリスクが大きすぎることなど、少し考えればわかるはずだ。罪が発覚した場合、今度は謹慎なんかでは済まないのだから。
「そ、そうだとしたら、大変だと思ったのです。だって、セラ様はもうすぐ、聖火の点灯式へ行かなくてはならないでしょう? それまでに目を覚まさなければ、代役が必要になりますよね?」
……まさかとは思うけど。いや、さすがに違うよな?
思い至った結論が馬鹿馬鹿しすぎて自分で否定してみたが、そのまさかだったらしい。イレーヌは誇らしげに、自身の胸に手を当てた。
「実は私も、聖火を灯せるのです。もしセラ様が式典までに目を覚まさなかったら、セラ様の友人として、私が聖火を灯しますよ!」
……やはり、そういうことか。
セラが式典に出られなければ、自分が聖火を灯す役をやれると思ったらしい。結界を起動したのは、薬か何かで眠らせたセラを起こさせないため。セラへ近づくことができなければ、たとえ不自然に眠り続けていても、対処のしようがないからだ。
まず間違いなく、犯人はこのイレーヌだろうが、状況証拠だけでは、まだ追及できない。
オレは精霊たちに、あるものを探すよう頼んだ。
《ーーー♪》
散っていった精霊たちを視線だけで見送った後、イレーヌへ視線を戻す。結界をどうにかするための魔道具師が来るまで、面倒だが、イレーヌの勘違いを正しておくか。
「あなたがどれだけ望んでも、たとえセラがそう望んだとしても、あなたが式典で聖火を灯すことはありえないよ」
「なっ……ど、どうしてよ!?」
少しの揺さぶりで、イレーヌはすぐに本性を現し始めた。
本当にわからないのだろうか。ため息が出そうになるのを堪えて、答えてやる。
「建国祭で聖火を灯せるのは、帝国認定聖女だけだからだよ」
そう告げると、イレーヌは恥か怒りか、カアッと顔を真っ赤にした。
「でっ、でも! 式典の聖火点灯は、若年者の聖女と決まっているはずよ! その子が無理なら、私以外に適任者はいないでしょう!?」
「あなたは適任者どころか、資格がないと言っているんだ。若年者に任せることはあくまで伝統であり、該当者がいなければ、その限りではない。帝国認定聖女であることは、前提条件だ。もしやむを得ず代役を頼むなら、別の帝国認定聖女になるに決まっているだろう」
恐らくキアラから報告を受けた陛下や教会の上層部は、万が一セラが出られなくなった時のために、すでに代役の手配をしているはずだ。
イレーヌは、ショックを受けたように絶句した。
「そ、そんな……いいえ、だって司教様が言っていたもの。私が、私がやるべきだって……」
「……何だって?」
あの司教も絡んでいるのか、面倒な。
そう思ったその時、こちらへ向かって来るいくつかの足音が聞こえてきた。どうやら、ようやく待ち人たちが来たらしい。
「ノアルード殿ー! 魔道具師たちを連れて参りました~!!」
心配そうな表情を作ってはいるが、昨日の一件や先ほど一瞬見えた表情からして、イレーヌが本当にセラを心配しているとは思えない。
それどころか、彼女がこの状況を作り出した犯人なのではないかという考えが頭を占める。
「失礼ですが、あなたは?」
騎士が尋ねる。彼は昨日の騒ぎを見ていなかったようだ。
「あっ、失礼いたしました。私、イレーヌと申します。そちらのセラ様とは、幼い頃に同じ教会で切磋琢磨した聖女仲間なんです。だから私、心配で……」
イレーヌが、しおらしく目を伏せる。
「昨日の様子では、とてもそのような良い関係とは思えなかったが」
「……っ!」
オレがその場にいたとは思っていなかったのだろうか、イレーヌはギクッと肩を震わせた。彼女はあの時、周囲の空気も読めないほどに激昂していたので、誰がいたのかなんて覚えていなくても、無理はないかもしれない。
「き、昨日の件は、私も反省しています。司祭様からも叱られて、目が覚めたんです。だから私、セラ様に謝罪しようと思って、彼女を探していたんです」
彼女の言い分は胡散臭いことこの上ないが、頭ごなしに否定するわけにもいかない。探るような視線を向けるに留めた。
それを誤魔化せたと解釈したのか、イレーヌはコホンとひとつ咳払いをすると、意味深長な視線をセラへ向けた。
「その結界……緊急用の魔道具ですよね? もしかしたら、セラ様は誰かに襲われて、それを起動したんじゃないでしょうか? その後、意識を失ってしまったとか……」
「……だとしたら、何なんだ?」
イレーヌが自分の望む方向へ話を持っていきたいのだろうということはわかる。でも、どこへ帰結させようとしているのかわからない。
こんなことをして、彼女が得るものなどあるだろうか?
自業自得でしかないが、自分が式典に出られなくなった腹いせ以外の理由が見当たらない。しかし、嫌がらせでこんなことをするのはリスクが大きすぎることなど、少し考えればわかるはずだ。罪が発覚した場合、今度は謹慎なんかでは済まないのだから。
「そ、そうだとしたら、大変だと思ったのです。だって、セラ様はもうすぐ、聖火の点灯式へ行かなくてはならないでしょう? それまでに目を覚まさなければ、代役が必要になりますよね?」
……まさかとは思うけど。いや、さすがに違うよな?
思い至った結論が馬鹿馬鹿しすぎて自分で否定してみたが、そのまさかだったらしい。イレーヌは誇らしげに、自身の胸に手を当てた。
「実は私も、聖火を灯せるのです。もしセラ様が式典までに目を覚まさなかったら、セラ様の友人として、私が聖火を灯しますよ!」
……やはり、そういうことか。
セラが式典に出られなければ、自分が聖火を灯す役をやれると思ったらしい。結界を起動したのは、薬か何かで眠らせたセラを起こさせないため。セラへ近づくことができなければ、たとえ不自然に眠り続けていても、対処のしようがないからだ。
まず間違いなく、犯人はこのイレーヌだろうが、状況証拠だけでは、まだ追及できない。
オレは精霊たちに、あるものを探すよう頼んだ。
《ーーー♪》
散っていった精霊たちを視線だけで見送った後、イレーヌへ視線を戻す。結界をどうにかするための魔道具師が来るまで、面倒だが、イレーヌの勘違いを正しておくか。
「あなたがどれだけ望んでも、たとえセラがそう望んだとしても、あなたが式典で聖火を灯すことはありえないよ」
「なっ……ど、どうしてよ!?」
少しの揺さぶりで、イレーヌはすぐに本性を現し始めた。
本当にわからないのだろうか。ため息が出そうになるのを堪えて、答えてやる。
「建国祭で聖火を灯せるのは、帝国認定聖女だけだからだよ」
そう告げると、イレーヌは恥か怒りか、カアッと顔を真っ赤にした。
「でっ、でも! 式典の聖火点灯は、若年者の聖女と決まっているはずよ! その子が無理なら、私以外に適任者はいないでしょう!?」
「あなたは適任者どころか、資格がないと言っているんだ。若年者に任せることはあくまで伝統であり、該当者がいなければ、その限りではない。帝国認定聖女であることは、前提条件だ。もしやむを得ず代役を頼むなら、別の帝国認定聖女になるに決まっているだろう」
恐らくキアラから報告を受けた陛下や教会の上層部は、万が一セラが出られなくなった時のために、すでに代役の手配をしているはずだ。
イレーヌは、ショックを受けたように絶句した。
「そ、そんな……いいえ、だって司教様が言っていたもの。私が、私がやるべきだって……」
「……何だって?」
あの司教も絡んでいるのか、面倒な。
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