半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

文字の大きさ
150 / 172
第二章

緊急用結界

しおりを挟む
 大歓声が響く街道。

 花吹雪がハラハラと舞う中、儀礼用の正装を身に纏った騎士たちや、色鮮やかな衣装を着た踊り子たち、様々な楽器で音楽を奏でる楽士たちが、華やかに行進している。

 街は活気に溢れており、周囲を埋め尽くすほどの人々は誰もが笑顔で、楽しそうな笑い声が、あちらこちらから聞こえてくる。

 そんな盛大なパレードの中ほどをゆっくりと進む、オープンキャリッジの豪奢な馬車。
 わたしはその上で、不安を押し殺し、笑顔で民衆に手を振っていた。


 パレードの開始場所へ到着すると、すでにそこにいた父へ、急いでセラのことを伝えた。
 すぐに騎士を動かしてもらえることになったものの、捜索の規模はそれほど大きくはできない。元々パレードや、その警備に大多数を配置しているため人員に余裕がないのと、帝国認定聖女が攫われたなどと騒ぎになってしまえば、大勢集まっている民衆たちが、パニックを引き起こしかねないからだ。

 十年に一度の建国祭。
 大勢の人たちが、この時のために準備を進めてきた。
 そして、今ここには、他国の客人もたくさん来ているのだ。騒ぎを起こして、建国祭を台無しにするわけにはいかない。

 パレードは、約四時間。その後は、すぐに聖火の点灯式がある。建国祭の聖火を点灯するのは、未来への希望を込めて若年者の帝国認定聖女が行うことになっているけれど、それまでにセラが見つからなければ、代役を頼むことになるだろう。

 心配で仕方がないけれど、ノアや騎士たちを信じるしかない。わたしは祈るような気持ちで、空を見上げた。




◇◇ノアルード視点◇◇


 精霊たちにセラの捜索を頼んでから少しすると、思っていたよりも早く知らせがあった。

「どういうことだ? セラが見つかったんだよな?」

《ーー!》
《ーーー!!》

 相変わらず、精霊たちの言葉はよくわからないが、意味はなんとなく伝わるから不思議だ。

「無理? 無理ってどういうことだよ?」

 生きてはいることが伝わってきたので、ひとまず安心だが、状況がわからない。とにかく、精霊たちの導く場所へと、走って向かう。
 途中、キアラの報告からセラを探すために来たという、年長のディードと、若いフロルクという騎士二人に会った。セラを見つけたことを伝え、二人と一緒に行くことにした。

「それにしても、こんなに短時間で見つけるとは、精霊たちはすごいですね」
「さすがっす、ノアルード殿!」

 騎士二人が感心したように言った。

「まぁ、空中を飛び回れるし、壁を通り抜けられるおかげで、死角でも探しやすいからな」

 あまり距離が離れると意志疎通ができなくなるから、セラが近くにいるようでよかった。

 精霊たちが向かう方へ走っていると、やがて目的地がどこだかわかり、眉を寄せた。

「あそこは、セラが呼び出されたっていう庭園じゃ……?」

 庭園に出たが、誰かがいる気配はない。メイドもセラの姿はなかったと言っていたし、すぐに見つかる場所にはいないということだろうか。

「ここから、どっちっすか!?」
「……あっちみたいだ」

 さらに奥へ行ってみると、人が通る場所からは見えにくくなっている場所で、セラが一人で地面に倒れているのを見つけた。

「セラ!!」
「た、倒れてるっすよ!?」
「聖女様! ご無事ですか!?」

 急いで近寄ってみると、セラの周囲に結界が張られているのがすぐにわかった。そのせいで近づけず、セラの状態を確かめることさえできない。精霊たちも、結界の中には入れないようだ。だが、胸の動きからは規則正しい呼吸が読み取られ、ただ眠っているように見える。

「これは……」
「こ、これ、緊急用魔道具の結界じゃないっすか? どれだけ攻撃しても、丸一日は絶対に解けないっていう、救助を待つ時の、時間稼ぎ用の……」

 フロルクの言葉に、オレは目を剥いた。

「丸一日だって!?」
「そ、そうっす。めっちゃ高い魔道具なんで数は少ないんすけど、戦う力がない貴人が緊急用に持つことが多いっす。帝国認定聖女であるセラ様には国から支給されてるはずっすから、たぶんそれじゃないかと思うっす!」
「私もそう考えます。これは移動不可かつ一人分という極小範囲ですが、強度は最高硬度を誇り、魔法は一切通さず、我々竜人族の力でも破壊できません」
「解除方法はないのか?」
「……中にいる者が魔道具のスイッチを再び押して解除するか、丸一日経つまでは、難しいですね」

 ディードの言葉に愕然とする。

 ……中にいる者って、そのセラが起きないのに、どうしたらいいんだよ?

「とにかく、なんとかセラを起こせないか、試してみよう」

 周囲に防音結界を張り、轟音が出る魔法を使ってみた。だが、セラはピクリともしない。眠り魔法を解除する魔法をかけてみたが、セラを覆う結界は、騎士たちの言う通りどんな魔法も通さないようだ。結界を破壊するために強い魔法を使って、万が一セラに当たっては困るので、力技を試すわけにもいかない。どうするべきか。

「自分、結界をなんとかできないか、魔道具師の人たちに聞いてくるっす! あと、念のために、医者も連れてくるっす!」
「あぁ、それはいいかもしれないな。頼んだ」

 フロルクがすごい早さで走っていった。確かに、ここは魔道具師の意見を聞くのが良さそうだ。
 その後、ディードが、セラが見つかったことと現状の報告をすると言って、どこかへ連絡を飛ばしていた時だった。

「まぁ! そこに倒れていらっしゃるのは、セラ様ではありませんか?」

 突然割り込んできた声がした方へ振り向けば、そこには昨日騒ぎを起こしていた聖女、イレーヌがいた。
 
 両手で覆った口元から、彼女の心根を表すような、歪んだ笑みが見えた気がした。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ
恋愛
「出来損ない」――それが伯爵令嬢リナリアに与えられた名前だった。壊れたものしか直せない【修復】スキルを蔑まれ、家族に虐げられる日々。ある日、姉の策略で濡れ衣を着せられた彼女は、ついに家を追放されてしまう。 雨の中、絶望に暮れるリナリアの前に現れたのは、戦場の英雄にして『氷の公爵』と恐れられるアシュレイ。冷たいと噂の彼は、なぜかリナリアを「ようやく見つけた、私の運命だ」と抱きしめ、過保護なまでに甘やかし始める。 実は彼女の力は、彼の心を蝕む呪いさえ癒やせる唯一の希望で……? これは、自己肯定感ゼロの少女が、一途な愛に包まれて幸せを掴む、甘くてときめくシンデレラストーリー。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...