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第二章
緊急用結界
大歓声が響く街道。
花吹雪がハラハラと舞う中、儀礼用の正装を身に纏った騎士たちや、色鮮やかな衣装を着た踊り子たち、様々な楽器で音楽を奏でる楽士たちが、華やかに行進している。
街は活気に溢れており、周囲を埋め尽くすほどの人々は誰もが笑顔で、楽しそうな笑い声が、あちらこちらから聞こえてくる。
そんな盛大なパレードの中ほどをゆっくりと進む、オープンキャリッジの豪奢な馬車。
わたしはその上で、不安を押し殺し、笑顔で民衆に手を振っていた。
パレードの開始場所へ到着すると、すでにそこにいた父へ、急いでセラのことを伝えた。
すぐに騎士を動かしてもらえることになったものの、捜索の規模はそれほど大きくはできない。元々パレードや、その警備に大多数を配置しているため人員に余裕がないのと、帝国認定聖女が攫われたなどと騒ぎになってしまえば、大勢集まっている民衆たちが、パニックを引き起こしかねないからだ。
十年に一度の建国祭。
大勢の人たちが、この時のために準備を進めてきた。
そして、今ここには、他国の客人もたくさん来ているのだ。騒ぎを起こして、建国祭を台無しにするわけにはいかない。
パレードは、約四時間。その後は、すぐに聖火の点灯式がある。建国祭の聖火を点灯するのは、未来への希望を込めて若年者の帝国認定聖女が行うことになっているけれど、それまでにセラが見つからなければ、代役を頼むことになるだろう。
心配で仕方がないけれど、ノアや騎士たちを信じるしかない。わたしは祈るような気持ちで、空を見上げた。
◇◇ノアルード視点◇◇
精霊たちにセラの捜索を頼んでから少しすると、思っていたよりも早く知らせがあった。
「どういうことだ? セラが見つかったんだよな?」
《ーー!》
《ーーー!!》
相変わらず、精霊たちの言葉はよくわからないが、意味はなんとなく伝わるから不思議だ。
「無理? 無理ってどういうことだよ?」
生きてはいることが伝わってきたので、ひとまず安心だが、状況がわからない。とにかく、精霊たちの導く場所へと、走って向かう。
途中、キアラの報告からセラを探すために来たという、年長のディードと、若いフロルクという騎士二人に会った。セラを見つけたことを伝え、二人と一緒に行くことにした。
「それにしても、こんなに短時間で見つけるとは、精霊たちはすごいですね」
「さすがっす、ノアルード殿!」
騎士二人が感心したように言った。
「まぁ、空中を飛び回れるし、壁を通り抜けられるおかげで、死角でも探しやすいからな」
あまり距離が離れると意志疎通ができなくなるから、セラが近くにいるようでよかった。
精霊たちが向かう方へ走っていると、やがて目的地がどこだかわかり、眉を寄せた。
「あそこは、セラが呼び出されたっていう庭園じゃ……?」
庭園に出たが、誰かがいる気配はない。メイドもセラの姿はなかったと言っていたし、すぐに見つかる場所にはいないということだろうか。
「ここから、どっちっすか!?」
「……あっちみたいだ」
さらに奥へ行ってみると、人が通る場所からは見えにくくなっている場所で、セラが一人で地面に倒れているのを見つけた。
「セラ!!」
「た、倒れてるっすよ!?」
「聖女様! ご無事ですか!?」
急いで近寄ってみると、セラの周囲に結界が張られているのがすぐにわかった。そのせいで近づけず、セラの状態を確かめることさえできない。精霊たちも、結界の中には入れないようだ。だが、胸の動きからは規則正しい呼吸が読み取られ、ただ眠っているように見える。
「これは……」
「こ、これ、緊急用魔道具の結界じゃないっすか? どれだけ攻撃しても、丸一日は絶対に解けないっていう、救助を待つ時の、時間稼ぎ用の……」
フロルクの言葉に、オレは目を剥いた。
「丸一日だって!?」
「そ、そうっす。めっちゃ高い魔道具なんで数は少ないんすけど、戦う力がない貴人が緊急用に持つことが多いっす。帝国認定聖女であるセラ様には国から支給されてるはずっすから、たぶんそれじゃないかと思うっす!」
「私もそう考えます。これは移動不可かつ一人分という極小範囲ですが、強度は最高硬度を誇り、魔法は一切通さず、我々竜人族の力でも破壊できません」
「解除方法はないのか?」
「……中にいる者が魔道具のスイッチを再び押して解除するか、丸一日経つまでは、難しいですね」
ディードの言葉に愕然とする。
……中にいる者って、そのセラが起きないのに、どうしたらいいんだよ?
「とにかく、なんとかセラを起こせないか、試してみよう」
周囲に防音結界を張り、轟音が出る魔法を使ってみた。だが、セラはピクリともしない。眠り魔法を解除する魔法をかけてみたが、セラを覆う結界は、騎士たちの言う通りどんな魔法も通さないようだ。結界を破壊するために強い魔法を使って、万が一セラに当たっては困るので、力技を試すわけにもいかない。どうするべきか。
「自分、結界をなんとかできないか、魔道具師の人たちに聞いてくるっす! あと、念のために、医者も連れてくるっす!」
「あぁ、それはいいかもしれないな。頼んだ」
フロルクがすごい早さで走っていった。確かに、ここは魔道具師の意見を聞くのが良さそうだ。
その後、ディードが、セラが見つかったことと現状の報告をすると言って、どこかへ連絡を飛ばしていた時だった。
「まぁ! そこに倒れていらっしゃるのは、セラ様ではありませんか?」
突然割り込んできた声がした方へ振り向けば、そこには昨日騒ぎを起こしていた聖女、イレーヌがいた。
両手で覆った口元から、彼女の心根を表すような、歪んだ笑みが見えた気がした。
花吹雪がハラハラと舞う中、儀礼用の正装を身に纏った騎士たちや、色鮮やかな衣装を着た踊り子たち、様々な楽器で音楽を奏でる楽士たちが、華やかに行進している。
街は活気に溢れており、周囲を埋め尽くすほどの人々は誰もが笑顔で、楽しそうな笑い声が、あちらこちらから聞こえてくる。
そんな盛大なパレードの中ほどをゆっくりと進む、オープンキャリッジの豪奢な馬車。
わたしはその上で、不安を押し殺し、笑顔で民衆に手を振っていた。
パレードの開始場所へ到着すると、すでにそこにいた父へ、急いでセラのことを伝えた。
すぐに騎士を動かしてもらえることになったものの、捜索の規模はそれほど大きくはできない。元々パレードや、その警備に大多数を配置しているため人員に余裕がないのと、帝国認定聖女が攫われたなどと騒ぎになってしまえば、大勢集まっている民衆たちが、パニックを引き起こしかねないからだ。
十年に一度の建国祭。
大勢の人たちが、この時のために準備を進めてきた。
そして、今ここには、他国の客人もたくさん来ているのだ。騒ぎを起こして、建国祭を台無しにするわけにはいかない。
パレードは、約四時間。その後は、すぐに聖火の点灯式がある。建国祭の聖火を点灯するのは、未来への希望を込めて若年者の帝国認定聖女が行うことになっているけれど、それまでにセラが見つからなければ、代役を頼むことになるだろう。
心配で仕方がないけれど、ノアや騎士たちを信じるしかない。わたしは祈るような気持ちで、空を見上げた。
◇◇ノアルード視点◇◇
精霊たちにセラの捜索を頼んでから少しすると、思っていたよりも早く知らせがあった。
「どういうことだ? セラが見つかったんだよな?」
《ーー!》
《ーーー!!》
相変わらず、精霊たちの言葉はよくわからないが、意味はなんとなく伝わるから不思議だ。
「無理? 無理ってどういうことだよ?」
生きてはいることが伝わってきたので、ひとまず安心だが、状況がわからない。とにかく、精霊たちの導く場所へと、走って向かう。
途中、キアラの報告からセラを探すために来たという、年長のディードと、若いフロルクという騎士二人に会った。セラを見つけたことを伝え、二人と一緒に行くことにした。
「それにしても、こんなに短時間で見つけるとは、精霊たちはすごいですね」
「さすがっす、ノアルード殿!」
騎士二人が感心したように言った。
「まぁ、空中を飛び回れるし、壁を通り抜けられるおかげで、死角でも探しやすいからな」
あまり距離が離れると意志疎通ができなくなるから、セラが近くにいるようでよかった。
精霊たちが向かう方へ走っていると、やがて目的地がどこだかわかり、眉を寄せた。
「あそこは、セラが呼び出されたっていう庭園じゃ……?」
庭園に出たが、誰かがいる気配はない。メイドもセラの姿はなかったと言っていたし、すぐに見つかる場所にはいないということだろうか。
「ここから、どっちっすか!?」
「……あっちみたいだ」
さらに奥へ行ってみると、人が通る場所からは見えにくくなっている場所で、セラが一人で地面に倒れているのを見つけた。
「セラ!!」
「た、倒れてるっすよ!?」
「聖女様! ご無事ですか!?」
急いで近寄ってみると、セラの周囲に結界が張られているのがすぐにわかった。そのせいで近づけず、セラの状態を確かめることさえできない。精霊たちも、結界の中には入れないようだ。だが、胸の動きからは規則正しい呼吸が読み取られ、ただ眠っているように見える。
「これは……」
「こ、これ、緊急用魔道具の結界じゃないっすか? どれだけ攻撃しても、丸一日は絶対に解けないっていう、救助を待つ時の、時間稼ぎ用の……」
フロルクの言葉に、オレは目を剥いた。
「丸一日だって!?」
「そ、そうっす。めっちゃ高い魔道具なんで数は少ないんすけど、戦う力がない貴人が緊急用に持つことが多いっす。帝国認定聖女であるセラ様には国から支給されてるはずっすから、たぶんそれじゃないかと思うっす!」
「私もそう考えます。これは移動不可かつ一人分という極小範囲ですが、強度は最高硬度を誇り、魔法は一切通さず、我々竜人族の力でも破壊できません」
「解除方法はないのか?」
「……中にいる者が魔道具のスイッチを再び押して解除するか、丸一日経つまでは、難しいですね」
ディードの言葉に愕然とする。
……中にいる者って、そのセラが起きないのに、どうしたらいいんだよ?
「とにかく、なんとかセラを起こせないか、試してみよう」
周囲に防音結界を張り、轟音が出る魔法を使ってみた。だが、セラはピクリともしない。眠り魔法を解除する魔法をかけてみたが、セラを覆う結界は、騎士たちの言う通りどんな魔法も通さないようだ。結界を破壊するために強い魔法を使って、万が一セラに当たっては困るので、力技を試すわけにもいかない。どうするべきか。
「自分、結界をなんとかできないか、魔道具師の人たちに聞いてくるっす! あと、念のために、医者も連れてくるっす!」
「あぁ、それはいいかもしれないな。頼んだ」
フロルクがすごい早さで走っていった。確かに、ここは魔道具師の意見を聞くのが良さそうだ。
その後、ディードが、セラが見つかったことと現状の報告をすると言って、どこかへ連絡を飛ばしていた時だった。
「まぁ! そこに倒れていらっしゃるのは、セラ様ではありませんか?」
突然割り込んできた声がした方へ振り向けば、そこには昨日騒ぎを起こしていた聖女、イレーヌがいた。
両手で覆った口元から、彼女の心根を表すような、歪んだ笑みが見えた気がした。
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